第8話 補佐官の試験(ヒロイン再登場)
ついに試験当日。
朝ごはんを済ませた僕たちは、準備を始める。
「これ、変じゃないですよね?」
鏡がないため、後ろまで見えない。白を基調とし、水色がアクセントとなった貴族の紳士服を着ている。スイメイ王国といえば水色だよね?
「バッチリだ! これでお前は注目の的だ!」
「はい! アシュ様、眩しいっす!」
「へへ、ならいいか。じゃあ出発だね!」
服を隠すようにマントを着用し、試験会場へ向かう。
会場に着くと、門で見張りの騎士が2人立っていた。
「すみません、試験を受けに来たのですが」
「受験票を」
応募した後届いた受験票を見せると、カンと僕の2人の入場を許可された。ベルニはその辺でブラブラすると言って別れた。
部屋に案内されると、1000人くらい入るような広さだった。
その割には人が少ないように見える。やはり隣国となると、遠いし仕方ないのかも。
入り口すぐのところに、受験票を渡す場所があった。
「受験票をお渡し下さい」
受験票を女性に渡すと、番号札を渡された。
「この番号の席にお座り下さい」
金髪に右に垂らしている三つ編み。ピンクの眼。
そして溢れ出すオーラ! いかにも只者ではなさそう。
この方はもしかして、国王陛下の補佐官かな?何も言わないということは、それを隠したいということだ。このことは触れないでおこう。
「47番……」
あった。100人分くらいしかない席の中で、自分の席を見つけ腰掛ける。
「ふぅ……」
緊張をほぐす為、深呼吸をする。大丈夫。自信を持って、胸を張って。
自信の無い自分を隠すように、僕は姿勢を正した。後ろの方でカンが僕を見守ってくれている。
10分程経っただろうか。空いていた席がいつの間にか埋まっていた。
「では、皆さん。試験開始の時間となりました。
用紙をお配りします」
陛下の補佐官が、机に積まれていた用紙を魔法で移動させた。
パサっと僕たちの机の上に置かれる。
「不正のないよう、机上のインクとペンをお使いください」
荷物は持ってこないよう指示されているため、不正のしようがない。といっても、どういうことをする危険があるのかはよくわからないが。
そして紙が揃っているかの確認が終わる。
「試験時間は120分です。時間は、前の時計をご覧下さい。現在時間が10時10分となっていますので、12時10分までとさせていただきます。では、始め」
解答欄が広いな。でも問題を見るに、ここまでまとめて書かないといけないのか。
このような状況になった時、適切な対応はなにか。
というような問題ばかりだった。
僕は問題を解きながら、楽しんでいた。自分の実力を試せるのが嬉しい。
周りの受験者は難しそうな表情を浮かべるものが多かった。
難しいけど、わかる! 僕は止めどなくペンを走らせる。夢中になっていると、時間はあっという間に過ぎていった。
気づけば終わる10分前になっていた。解答が終わる。みんな終わりの時間が近づき、焦っているようだ。
試験って初めてだったけど、こんな感じなんだ。ライバルがいるっていうのもいいな。
もちろん補佐官になりたいのは山々だが、僕はまだ17歳だ。ヒヨっ子の僕が、補佐官に選ばれるだろうか。
もし選ばれなかったとしても、せめて第1段階は突破したいな。チャンスはこれからもあるだろうし、補佐官以外の道も見つかるだろうと期待して。
そして試験時間が終了した。一斉にペンを置く音が響く。
まだ解答をしている途中の者ばかりで、不思議だった。
「試験終了となります。用紙を集めさせていただきます」
紙が浮いて飛んでいく。僕たちの答案用紙が1箇所に集められた。
「用紙を集め終わりましたので、インクとペンを机の上に置いたままお待ちください。陛下が来られましたので、入場していただきます。みなさん、1度その場でお立ちください」
陛下が来ただって? 嘘! 緊張で脚が震える。心の準備がまだ出来てないのに!
入口から陛下と思われる人物が歩いてくる。
漆黒の髪に、透き通る水色の眼。スラッとしていて整った顔。またもやイケメン!
僕の周りはイケメンばっかりで、目の保養……ありがたい。
想像していたより雰囲気が柔らかいけど、どこか隙がない感じがする。不思議な人だな。
右手を胸に当て、軽くお辞儀をする。スイメイ王国などのヒョウガ帝国特有の挨拶の仕方として予習していた。
モルガ王国の挨拶は、軽いお辞儀だけだから手を添えるのが増えただけだ。
「堅苦しいのはあまり好きではないんだ。座って楽にしてくれ。
私はスイメイ王国の国王、ソウハン・エルギールと申す。
諸君、遠方から足を運んでくれたことを感謝する。非常に難解な問題だったと思う。しかし、私の補佐官たるもの、聡明でなくてはならない。前回の試験では、我が国で募集し1000人ほど集まったんだが、第1段階を突破するものは1人もいなかった。
さらに残念なことに、今回は100人程度しかいない。合格者が現れることを願うが、まだまだチャンスはあるだろう」
話を終えた陛下は、補佐官と思われる方を見て頷いた。
そして、彼女が陛下の横に立ち、話始める。
「皆様、申し遅れました。陛下の現補佐官のサリナ・ベクトルでございます。隠していたことをお詫び申し上げます。無事試験を終えたことを、嬉しく思います。結果は1週間から1ヶ月程要します。
それぞれ結果がわかり次第、手紙をお送りいたします。第1段階を突破した方には、合格した旨を記載します。第2段階は、日程調整次第家までお迎えに行きますので、ご安心ください。御足労おかけ致しました。皆様の未来が輝かしいことを願い、以上とさせていただきます。このまま私達はここに居ますので、準備出来次第お気をつけてお帰りください」
ぞろぞろと陛下と補佐官に挨拶を交わし、帰っていく。
僕もそれに続く。2人の目の前まで来た時だった。
「アシュ・クイック公子ですよね?」
補佐官のサリナが僕の名前を知ってる?
「え?そうですが……」
「試験中のあなたを見て、名前をみたんです」
「僕が何か……」
「唯一楽しそうに解いているようだったので」
「ああ、そういうことでしたか」
「思いのほかすらすら解かれてましたが、自信はおありですか?」
「どうでしょう、解けても間違っているかも。でも、第1段階は突破出来たらと思います」
「そうですか。結果が楽しみです」
「あ、でも……あまり期待なさらないでくださいね?」
「ふふ、では適度に期待しておきます」
「お願いします。……陛下、補佐官のサリナ様。この度はお会いできて光栄です」
「ああ、また会えるのを楽しみにしている」
陛下が優しく微笑んだ。なんて美しいのだろうか。
人間という枠の中に収めるべき存在では無いような……同じ男性なのに、こうも違うものかと思った。
「こ、光栄です……では、失礼致します」
陛下の微笑みが頭から離れず、気づけばカンが隣にいて、外へと出てきていた。
「アシュ様?」
「へ?」
「ずっと心ここにあらずって感じでした」
「あ、ごめん」
「もしかして、試験ダメだったとか!?」
「いや、全然違う!寧ろ手応えあり」
「も〜〜!ビックリしたじゃないすか!」
「ごめんごめん!」
美しい人だった。
また、会えるかな。
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