第11話 ギルドとの取引

 面接と謁見が終わり、帰った数日後のことだった。




 陛下から伝話があり、僕を連れていきたいという内容だった。

 裁判までに、キャッツクロウのギルド長と取引するとの事だった。貴重な経験故、是非一緒に来て欲しいと言われた。



 最近転送魔法での移動が多いな。転送魔法は子供には推奨されていないため、今まで王宮に行くことはほとんどなかった。馬車で行くとなると、片道4日かかるのだ。そんな事をふと思い出した。






 今回で転送魔法は5回目。段々慣れてきたためか、頭痛と吐き気は軽減している。

 だが歩くのがおぼつかなくて、結局近くの宿で2時間程度休んだ。




「具合はどうだ?」


 陛下が付き添ってくれている。陛下は転送魔法に慣れているのだろう。全くしんどい様子がなかった。




「ご迷惑おかけしてすみません……もう大丈夫です。行きましょう!」


「無理させてすまない。しかし、これは本当に中々ないことなんだ。面白いものが見れると思うぞ!」


「はい!」


 そして僕達はその暗殺ギルドへ向かった。勿論僕達は正体がバレないようにフードで隠している。

 ギルドに入るには、ある居酒屋で合言葉を言う必要がある。猫の手をかりたいと言えばいい。可愛い猫のイメージとはかけ離れているけど。







 僕には初めてのギルドと接触。なんかワクワクするなあ。別室に案内され、ドアには魔法陣が描かれていた。ドアを開けるとギルドの交渉部屋に繋がっているというわけか。




「ご要件は?」




 いかつい男性が1人座っている。フードを深く被っていて、顔が見えないようになっている。




「ギルド長と交渉したいのだが」


 陛下はそう言ってフードをとる。僕もそれに続いてフードをとった。




「陛下でしたか。その方は?」


「今回の事件の重要人物だ。裁判にも参加してもらう者だから同席をお願いしたい」


「なるほど……了解しました。お待ちください」





 そう言って彼は部屋から出ていった。数分経ち、ギルド長と思われる男性が入ってきた。




「私がギルド長のガイルと申します」






 鋭い眼光。見るからに恐ろしい人だった。




 そして僕達はギルド長と向かい合うように座った。





「また会ったな。今回は君と取引をしに来た」


「取引……ですか」


「来月の裁判については知っているだろう?

 君たちが関与していることはもうわかっている」


「ほう……それで?」


「なぜこのようなことをしたのか聞いておきたい。それによって取引の内容は決まってくるぞ」



「そうですか。これまで貴族の方々と多くの依頼を受けて来ました。その内容はどれも自分の欲を満たすためのもの。あなたの依頼も何度か受けてきましたが、どんな取引をしてくださるのか楽しみです」







 貴族を嫌悪しているのがよくわかった。報酬が多いのは明らかで、依頼も多いのだろうが…依頼は依頼。どれだけ嫌いでも我慢しなきゃいけないんだろうな。








「君がどれだけ貴族を嫌悪しているかよくわかったよ。では、何故このような事になったか説明してくれるか?」


「こちらになんの利益があるというんです?」


「今は裁判ではない。今どんな話をしても、裁判で違う事を言っても問題がないということだ」


「あなたの行動は理解しかねます」


「それが私のいい所だ」


「ふっ……わかりました。お話しましょう。私達キャッツクロウは、元奴隷や暗殺者などで構成されています。様々な国でメンバーを集めています。今でも奴隷の売買が密に行われているのです。私も元奴隷です。子供の頃、色んな貴族に売られてきました。

 どの主も、私のことを人間として扱わなかった。メンバーみんな貴族を嫌悪し、恨んでいます。ですが依頼は依頼。私達は生きるためにどんな依頼も受けています。最近メンバーが増え続けるのに反して、宛てがう武器が足りず、資金もギリギリの状態です。

 いいタイミングで領主を募集していた。そこにルカニエが自ら志願したということです」






 国1番の勢力の持つギルドの実態は悲惨なものだった。彼らは生きるために、罪を犯すしか無かったのか。僕は何も知らずに、悪い人達だと決めつけていた。


 そんな安易な考えで彼らを責めていたのか。









「そうだったのか……全く知らなかった。私は国のギルドも管理できていなかったのか、管理する余裕がなかったというのは言い訳にはならんな。これは私の責任だ。君たちにとっていい取引をしよう」


「知ろうともしなかった。今更何をしようと言うのですか?」


 ギルド長は拳を力いっぱい握りしめ、怒りを抑えているようだった。


「遅くなって本当にすまない。君達を、王宮所属のギルドにしよう。運営費はこちらが持つ。依頼もこちらで管理する」


「それを信じろと?」


「ああ、魔法契約書はあるか?」


「勿論あります。魔法契約をするのですか?」


「そうだ。これなら信じれるのではないか?」


「内容は?」


「モルガ王国の国王は、ギルドであるキャッツクロウの運営や依頼の管理を行うものとし、あらゆる危害から守ることを誓う。そして、キャッツクロウは国に忠誠を誓い、いかなる裏切りも許さない」


「なるほど。良いでしょう。取引成立ですね。私達キャッツクロウは、契約が守られる限りあなたの手となり足となりましょう」










 目の前で見る初めての魔法契約。契約違反の代償は死。なんて恐ろしいのだろうか。これが当たり前なのか?何かのために命を捧げることが美学とも言われているが、僕にとってはよくわからない。命は最も重いものだと思っている。決して軽んじてはいけない。







 でも、彼らは決して軽んじているわけではないのだろう。ギルド長は特に、仲間を守るためなら何だってするのだろう。彼らは深い絆で結ばれている。家族のいない彼らはそれぞれが家族のような役割を持っているのかもしれない。

 






 僕はのうのうと生きてきたのだと思い知らされる。必死に生きる人たちからすると、藁にも縋る思いなのだろう。少し自分が恥ずかしく思う……。

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