第18話 恋って
新聞社のオーナーであるロアが帰った日の夜、いつも通り皆で夕食をとる。
「今日どうでしたか?」
「順調だ。いい記事を書いてくれそうだ。な、アシュ?」
「あ、はい。そうですね」
今日のことがあったからか、余計なことを考えてしまって上手く話せない。目を合わせるのもドキドキして、思わず逸らしてしまった。
「ん? お2人に何かあったとか?」
「特に何も無いぞ」
「はい、何も無いですよ」
「怪しい…2人も見てたんでしょ?」
「ご主人様と陛下には何も無かったですよ。ですよね?カン」
「え? あ、ああ。何も無かったっすよ……?」
「そうですか。私は仲間はずれですか」
「何を勘違いしてるんだ? 全く。何も無いと言っているだろう」
なぜ陛下は何も無かったと主張するのか。とりあえず合わせたけど、隠されたことがなぜかかなしかった。
ルカニエも、何を考えてるんだろう。目が笑ってない気がするんだけど、気の所為かな?
そしていつもと違い、ぎこちない食事の時間が終わった。
――――――――――――――――――――
「ルカ、今日のことどう思う?」
「何がですか?」
「もう、わかってるくせに。陛下は僕のことどう思ってるのかな」
「さあ、からかっただけでしょう」
「そっか……」
「ご主人様は陛下のことが好きなのですか?」
「わからない。恋なんてした事ないもん」
「そうですか。ご主人様には恋なんて必要ありませんよ。無駄なことです。そんな物に鬱つを抜かしては行けませんよ」
「そうだよね……」
「陛下とは一旦距離を置いてみては? 仕事上の関係だけに留めて。1度頭を冷やす必要があるかも知れませんね……」
恋をするのが怖くなった。恋とは一種の病気だ。恋のために全てを投げ出して破滅するなんてこともあるだろう。片思いだって、苦しいし……両思いになっても、苦しいんでしょう?
そうだよね。陛下とは距離を置かないと。一線を越えてしまう前に。
「そうするよ。もうこの話はやめよう」
「わかりました」
「おやすみ」
「おやすみなさい、ご主人様」
僕は心を閉ざすように、瞼を閉じた。
眠れないな。今何時なんだろう? いつもはすぐに眠りにつく僕だが、今日のことで色々考え込んでしまった。考えないようにすればするほど、頭の中が混乱する。
そして僕は起き上がった。隣で寝ているはずのルカニエが見当たらない。どこに行ったんだろうか。
「ルカ……?」
呼んでも意味無いか。トイレかどこかにいるのかな。
僕はベランダに出て風に当たろうと、真っ暗な廊下をランプで照らし歩く。誰もいない。
ベランダに出ると、涼しい風が吹いた。深呼吸をする。
「ふう」
外を見ると、ルカニエがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。なぜ外にいたんだ? 何をしていたんだろう。最近何をして過ごしているのかよくわからないし、気になって仕方がない。
ルカニエは僕の姿に気づくと、浮遊魔法で僕の目の前に来た。
「何をしてたの?」
「ご主人様こそ、寝れないのですか?」
「ちょっと悩んでたんだ」
「悩む必要なんてないのに」
「質問に答えてないよ。何してたの?」
「気になりますか?」
「気になるに決まってるじゃん。最近何してるのかもわからないし。怪しいよ」
「そんなつもりはなかったのですが。教えて差し上げますが、誰にも言わないと約束してくれますか?」
「もちろんだよ。秘密は守る」
「わかりました。実は私、ドラゴンと友達なのです」
「え?! ドラゴンと友達になんてなれるの? あんなに凶暴で恐ろしい魔物だよ?」
「その子は違います。一昔前にそのドラゴンの卵を手に入れたので、孵化させて懐柔したんです」
「ルカは本当に不思議な人だね」
「ミステリアスな方が魅力的でしょう?それで、その子が寂しがるから、たまに会っているんです」
「たまにって言うか、最近ずっとじゃん!」
「寂しいですか? これは貴方のためなんですよ?」
「どうして?」
「貴方を守るための手段の1つとして使えるように、訓練しているのです。もう彼は大人になりましたから。本格的に戦えるように」
「そっか……でも無理しないでね」
「ありがとうございます。楽しいので大丈夫ですよ」
「そっか。またドラゴンに会わせてね」
「わかりました。約束しましょう。さあ、中に入りましょうか」
「うん、そうだね」
そしてそれから、ほとんどサリナが仕事を教えてくれるため、必然的に陛下との関わりは減った。僕にとってはちょうど良かったのかも。食事の時間は、今まで通りみんなでたわいもない話をする。
あんなに悩んでいたけど、もう今は悩むことはない。ただ今は仕事を覚えるのに必死で、そんな余裕もなくなっていた。
―――――――――――――――――――――
「アシュ、例の記事のサンプルが届いたぞ」
いつも通りサリナに仕事を教えて貰っていると陛下から声がかかった。
「おお! 見たいです!」
記事を見てみると、ロアが言っていた通りの事が書いてあった。
さすがオーナーなだけあるくらい、文才があって引き込まれる内容だった。
持って見ていると、サリナと陛下が横から覗き込む。
「ほう、なかなかの出来だな」
「ですね! さすがロア伯爵令嬢、アシュのことがとても上手くまとめられていますね」
「こんな素敵にかかれてると、この人物に会ってみたいなー……なんて」
「自分のことじゃないですか」
2人はなぜか爆笑している。何か変なこと言ったかな?
「わかってます! だからその……これを読んだ人の気持ちになって言ったんです」
「わかってるよ。ただおもしろくてな」
「もう! そんなに笑わないでくださいよ〜」
「はーおかしい! 久々にこんなに笑いました」
この間のことが無かったかのように、暖かい空気が流れた。
つられて僕も笑い、笑顔に溢れた瞬間だった。悩みなんて、なくなればいい。
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