第17話 陛下のからかい?

 もう1人会って欲しい人というのは、新聞社のオーナーだった。オーナーの彼女は自分で事業を展開し、名を馳せた実力者。




 僕について記事を書いてくれるとのことだ。社交会に出る前に、僕のいいイメージを定着させるため陛下が依頼してくれた。




「緊張するか?」


「はい、ちょっと。僕のこれからのイメージに繋がるんですよね……」


「そうだな。だがそんなに固くならなくていい。ありのままでいいんだ」


「はい、ありがとうございます」


「ご主人様、あなたは十分素敵ですよ」


「そうですよ!アシュ様!自信もって」


「ふふ、ありがとう、2人とも」






 最近訓練などで忙しくしている2人が、今日は一緒にいてくれる。正直ルカニエはなにをしてるのかわからないんだけどね。








 ガチャッ





「ロア・ソーラン伯爵令嬢がこられました」


「ああ、今行く。行こうか、アシュ」


「は、はい!」




 背筋を伸ばして、堂々と。陛下に続いて歩く。




「国王陛下にご挨拶申し上げます。アシュ様、お会いできて光栄です。ロア・ソーランでございます」


「こちらこそ。アシュ・クイックと申します。よろしくお願いいたします」


「貴方のことは陛下からお聞きしていますよ。記事を書くのが楽しみでたまりませんわ!!」


「ロア伯爵令嬢、御足労だった。案内しよう」


「ありがとうございます」









 僕達はロアを客間へと案内した。







「事前に話している通りなのだが、アシュのデビューに向けていいイメージを持たせたい」


「お任せ下さい。私の腕の見せどころですわね。アシュ様は……とても美しい。外見に関しては、太陽のようなオレンジ色の髪と眼。儚く輝く白い肌。性別という概念が壊されたような新しい感覚ですわ……!」


「え……そんな。そう言われると照れますね」


「なるほど。笑顔はとても眩しくて見惚れてしまうほどですわ」


「べた褒めだな」


「あまり盛りすぎるとかえって良くないのでは……」


「なにを! 盛ってなどいませんわ! わたしを信じてくださいまし。私は数々の美男子をこの目で見てきましたが、貴方はまさに芸術ですわ!生きた芸術というのは貴方のようなお方が相応しい!私の目に狂いはありませんわ」







 心外だという様子で憤慨するロア。

 他の人には僕がそんな風に見えるって言うのか?!

 美しく見える魔法がかかってる訳でもないのに……自分が思っていることとあまりに相違がある。






「もしかして……僕に人の目を欺く魔法をかけたとか?」


「そんな訳ないだろう。私の目の前にいるのは、いつも通りのアシュだよ。そなたは私好みの顔をしている」


「え?! 本当ですか?」


「ああ、最初見た時とても驚いたよ。こんなに美しい顔が存在するのかと思ったほどだ。2人もそう思わんか?」


「はい、ご主人様はとても美しいお顔をお持ちです」


「俺もそう思います!」


「そういえば、そちらのおふた方はアシュ様の護衛のお方ですか?」


「はい、モルガ王国から着いてきてくれたんです」


「ほお!これまた美男子と男前ですこと!アシュ様の周りはとても眩しいですわ!これも記事にかかせていただきますわ!」






 ロアは目を輝かせ、ものすごいスピードでメモをとっている。








 その後僕の過去や、試験と面接がどうだったかとか、補佐官になってみてどうかであったりの質問攻めにあった。

 もちろんルカニエとカンのことも聞かれたし、2人にも質問攻めだった。




 そして僕の目つきのことも、かかれることになった。怖いイメージもあった方が今後に役立つとのことだった。

 正直あまり知られたくはなかったけど、陛下がそう思うならいいかと思った。






「では、陛下からみてアシュ様はどんなお方ですか?」


「そうだな……まずはアシュが来てから城の中がとても明るくなったよ。サリナにもそんな素質があったが。使用人にも気を配り、分け隔てなく接しているから好かれている」


「なるほど…まさに王宮の太陽のような存在ということですわね」


「そして18歳とは思えないほど大人びているんだ。私の弱い部分も受け止めてくれて、どんどん弱さを引き出されるような……不思議なやつだ」


「なんと! 陛下の弱い部分を知るお方とは、なかなかですね」


「そうだな。ついつい話してしまった」


「も、もういいです……恥ずかしいです」





 これ以上聞くと心臓が爆発してしまいそうだ。なんでこんなに胸がドキドキするんだ?おかしい。こんなの知らない……







「あら、なんとも可愛らしい……お2人の進展が楽しみですわね」


「そ、そんなんじゃないです!僕達男同士ですよ……」


「この国は男同士も女同士も関係ありませんことよ」


「そうだぞ」


「へ、陛下まで……からかわないで下さい」


「本気だと言ったらどうする?」


「え……?」


「あらまあ、私はお邪魔みたいですわね、オホホホ」


「え、えっと……もう質問は以上ですよね?」


「そうですわね、終わりにいたしますわ。ではあとはお任せ下さいませ。サンプルが出来たらお送り致しますわ。ではお暇させていただきます」


「ああ、貴重な時間をありがとう。サンプル楽しみにしているぞ」


 陛下の顔が見れなかった。恥ずかしさで俯いていると、陛下が近寄り僕の顎を持ち上げた。







「いつまでそうしている?からかってすまなかった。だが私がそなたに好意的であることは本当だよ。質問攻めで疲れただろうから、休んでおいで」


「は、はい……」







 今もからかっているのでは?……そんなこと言い返せる訳もなく至近距離で陛下の顔をまじまじとみた。きめ細かく透き通る肌に、長いまつ毛。海のように輝く水色の瞳。息を飲むほど美しいあなたに釘付けになる。





 あなたの瞳に映るのはいつも僕であって欲しい。……この気持ちはなんなのだろうか。僕はおかしくなってしまったかもしれない……






 何が僕をそうさせたのか。誰にこれを打ち開ければいいんだ?変だって思われるかもしれない。そう思われるのが……こわい。

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