第16話 陛下達と過ごす休日
「わあ!」
鳥のさえずり、川の流れる音。さらさらと優しい風が吹き、草木が揺らめいている。見渡すと、誰もいない静かな場所。
「陛下、ここには来た事ありますか?」
「小さい頃に何度か来たことがある」
「今日みたいにピクニックを?」
「家族でね。懐かしいな」
陛下は周りを見渡し、物思いにふけっているようだった。瞼を閉じ、深呼吸する。
自然は僕を包み込んでくれる。ただいるだけで心が洗われるようだった。
川のほとりにシートを引き、4人で座り込む。
「あー腹減ったー!!」
「うるさいですね。耳に響きます」
「いいだろー! ここは開放的で自由なんだし」
相変わらずルカニエとカンは軽い言い合いをしている。仲がいいのか悪いのか。
見た目も正反対って感じだし。ルカニエの見た目はウルフカットの白い髪に黄金の眼で中性的で、カンは赤茶色の短髪に茶色い眼、筋肉質でサメのような歯。
性格も、ルカニエは静かでどこか冷たい印象で何を考えてるのかわからない……カンは元気いっぱい脳筋男って感じ。悪口ではない。
僕の魔道士と騎士。第3者から見れば、一見弱そうな僕がとんでもなく強いように見えるのだろうか。2人とも身長が高いから、威圧感もあるだろうし。小さい僕が子供に見えたりしないか、実はちょっと不安でもある。2人は保護者的な……?
用意してもらったサンドイッチを食べながら、談笑をする。
「こんなに何もしない日は初めてだ」
「たまにはこういう日も必要ですよ」
「そうだな。また次も誘ってくれるか?」
「勿論です。陛下がよければいくらでも」
「はは、ありがとう」
陛下は笑顔が多いが、作り笑顔ばかりだった。
でも、こういう時にくしゃっと笑うあなたがとても愛おしい。
この気持ちはなんなのだろうか。僕は男で、あなたも男なのに。
「カン、そんなに頬張っては喉につまりますよ」
「大丈夫大丈夫」
ルカニエはカンを見ながら苦い顔をしている。
「少し2人で散歩しないか?」
「あ、はい! しましょう!2人とも、自由にしてて良いからね」
そう言って僕達は2人で、川のほとりを並んで歩く。陛下がいるからと、2人は了承してくれた。
「そなたが来てから1週間が経ったな。この国はお気に召したかな?」
「はい、とても活気があって美しい国です。海も綺麗で」
「それはよかった」
「陛下は幼い頃、どんな人生でしたか?」
「そうだな……父は私を愛してくれていたな。色んなところへ連れていってくれた。母は無関心だったが」
「そうなんですね。お父様は今どうされているのですか?」
「もう居ないよ。詳しくは話せないが」
「悲しいことを思い出させてしまってすみません……」
「いいんだ。過去は過去だ。そなたの話を聞かせてくれないか?そなたの幼い頃はどんなだった?」
「うーん……両親はとても優秀で、僕も優秀であるべきだと思って必死になっていました。なので、幼い頃から本を読んで、父と領地を視察したり……。
両親は忙しかったけど、僕のために時間を作ってくれました。たまに遊びに出かけるくらいですけどね。友達はいなかったです。今もいないですけど……。
同世代の子供達とは話が合わなかったんです。友達が欲しかったけど、僕と話していると楽しくないって」
「そうか。私もそうだったな。私達も似たところがあるのかもしれないな」
「確かに……陛下と共通点があるのは嬉しいです!」
今まで2人で電話したりしていたけど、会って話すとより心の距離が縮まったように感じる。
陛下の過去が聞けて嬉しい。もっとあなたのことが知りたい。
そして、僕のことも知って欲しい。
ピクニックはあっという間に終わってしまった。楽しい時間は早く過ぎてしまう。この国に来てよかったと思う。モルガ王国を離れてみると、自分の気持ちに気づいた。
僕は息苦しかったんだ。両親はずっと忙しくて、時間を作ってくれたし、騎士の方達とも仲良くできていた。
でも、ずっとこうして暮らしていくのかと思うと、退屈だった。旅行なんて訓練以外で行ったことがなかったから、外の美しい世界は本でしかわからなかった。
こうして国を離れると、世界の広さを痛感する。自由なんだと、気が晴れ晴れしている。
「先輩、ただいま帰りました!」
「おかえりなさい。ピクニックはどうでしたか?」
「楽しかったです! ね、陛下!」
「ああ、楽しかったよ。あっという間だった」
「よかった! アシュ、これからも陛下を時々連れ出してくださいね!」
「任せてください!」
そして夜。今日はカンと一緒に寝る日だ。
「アシュ様、今日も楽しかったっすね!」
「そうだね。付き合ってくれてありがとう」
「当たり前っすよ!」
「そういえば、訓練はどう?」
「ああ、訓練ですか? 楽しいっす!スイメイ王国の騎士団もなかなか強いんで。鍛えるのに丁度いいっすね」
「さすがカンだね。友達はできそう?」
「ぼちぼち仲良くやってますよ!じきに出来ると思います。俺なんで」
「ふふ、そうだね。カンはモルガ王国が恋しくなったりする?」
「今の所ないっすねー。こっちはこっちで楽しいんで。アシュ様は?」
「僕もないかな。寧ろ自由な暮らしができてるから最高!」
「それならよかったっす。そういえば、両親と連絡とってます?」
「手紙は書いてるかな。電話はしてない」
「しないんすか?」
「別にいいかなー。ずっと僕のこと気にかけてくれたし、ふたりの時間を過ごして欲しいし」
「そういうもんなんすか? まあいいやー」
「うん、これでいいんだ。カンは両親と連絡とってるの?」
「とってるっすよ。手紙書いたり、たまに電話してます」
「見たことないけど…」
「今度電話する時、アシュ様も入りますか?」
「うん、カンの両親と話してみたいな」
「いいっすよ!じゃあやる時が決まったら言います」
「うん、お願い。さあ、もう寝よう。おやすみ」
「おやすみなさーい」
今日もいい日だった。まだここに来て1週間か。もっと長く感じるなあ。これからもやる事が山積みだ。陛下と初めて休日を過ごしてみたけど、僕が初めてなんだと思うと嬉しい。
陛下は気分転換出来ただろうか。サリナが出来なかった事が、僕に出来るなんて……自信を持っていいのかな。まだ来て間もない僕に嫉妬しちゃうよね……僕だったらちょっと悲しい。
1番僕を信頼してくれていたと思ったら、違う人が現れて心を許しちゃうんだもん。サリナの気持ちを考えると、何だか申し訳ない気持ちになる。
そういえば、会って欲しい人がいるって陛下に言われてたけど……皇帝とあと1人は誰なんだろう?明日聞いてみよう。
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