第21話 サリナの未来の夫

「アシュ、またそなたに関しての記事が出たぞ」


「ああ、社交パーティーの事でですか?」


「そうだ。これを見てみろ」


「え! どれどれ私も見たいです〜!」






 サリナと陛下と3人で記事をみる。




「陛下がはやくも信頼している様子だった……」


「貴族達が噂していることがかかれているみたいだな」


「これを見るに、大成功だったみたいですね! よかったです!」


「陛下とバルコニーで話す2人……こんなことまでかかれるんですね」


「興味深いことはなんでもかかれるぞ」


「軽率な行動は本当に危険ですね……」


「そうは言っても、悪い記事になることはめったにないですよ! よっぽどの事がない限り」


「そうなんですか……でも極力パーティーには出たくないですね」


「それは私もだ。だから必要最低限しか出なくていい」


「助かります……」


「さあ、仕事しますよ〜〜!」







 記事には好意的なことばかりが書かれていた。皇帝と話している様子、令嬢に囲まれ戸惑っている姿や、ルカニエとカンが話してくれたであろう話が書いてあった。




 2人とも褒めすぎだよ……一生お守りするとかなんとか、2人の美しい忠誠心だって。自分のことが記事にかかれるのは中々ない経験だから、変な感じだなあ。








 今日もサリナから仕事を教わる。もうここに来て1ヶ月経ったんだ。少しずつ仕事を覚えた僕は、比較的簡単な仕事を任されるようになった。一番は自分でやって覚えるのがいいよね。






 淡々と書類を処理していると、サリナが僕に声をかけた。





「アシュ、実は来週私の未来の夫がこっちに来ることになったの」




 最初敬語だったけど、気づけば僕には敬語なしで話してくれるようになった。そんな小さな変化がとっても嬉しい。




「隣国の公爵閣下でしたよね?」


「そうそう。仕事がある程度落ち着いたみたいで、急遽来ることになったの! 暫く会えないと思ってたから嬉しいな〜……アシュとも仲良くなれたらいいなって話してたのよ!」


「本当ですか?! 初めてお会いするので緊張しますね……どんなお方ですか?」


「自信に満ち溢れているお方よ。民のことを想う優しいお方でもあるわ。私の事を充分に愛してくれてる」


「素敵なお方なんですね。どこで出会ったんですか?」


「彼、スイーツが好きで。私が有名なケーキ屋さんに行った時に出会ったの。好きなケーキが一緒で、そこからすぐに仲良くなったのよ!」


「偶然出会って恋に落ちる……運命みたいですね」


「そうね。きっと神が遣わせてくれたんだわ」


「いいなあ。僕も恋、してみたいです」


「きっと出来るわ。貴方みたいな素敵な人には素敵な人が」


「そうだといいです……恋ってどんな感じですか?」


「うーん……絶対こう! って訳では無いと思うんだけど、私は胸がドキドキして鼓動がはやくなるの。あとはそうね……常に彼を事を考えてしまって、今何をしてるのかな? とか、不意に考えてしまうの。

 他の女性と話していると胸が苦しくなったりもする。恋って、いい事ばかりじゃなくて、辛い時もあるけど……2人が寄り添い合えばいずれこの上ない幸せを感じられるわよ」


「幸せ……僕、今充分幸せです」


「それとはまた違った幸せよ。愛されるって素晴らしいことなの。恋愛してみれば自ずと理解できるわ。私も恋をするまでは理解できなかったもの。恋とは無縁の人生だったから」


「そうなんですね……」


「仕事の邪魔してごめんね! 分からないことがあれば聞いて」


「ありがとうございます」







 恋か。気づいたらその人の事を考えてしまう……いや、違うよね。これは僕の勘違い。叶わない恋なんて、辛いだけ。僕は僕に見合った人を好きにならないと駄目だ。そう言い聞かせるように、繰り返し繰り返しそう考えた。






 サリナの未来の旦那さん……会えるのが楽しみだな。





 ―――――――――――――――――――――


「あ〜〜楽しみ!」


「朝からご機嫌ですね、先輩」


「もちろんよ! お昼の時間が待ち遠しい! 早く仕事終わらせるわよ〜!!」


「ふふ、僕も楽しみです」


「そうでしょう?! 私の未来の夫、とってもかっこいいんだから! 私にとっては世界一の人よ!」


「何度も聞いてますって〜。惚気を聞くとこっちも幸せになれます〜」


「そう?! じゃあもっと聞いて!」


「それより今は仕事早く終わらせましょう?」


「あ、そうだった! 頑張りましょう!!」


「はい!」






 横から鼻歌が聞こえてくる。何ヶ月も会えていないというのだから、無理もないだろう。しかし、恋とはこうなるものなのだろうか。

 サリナの幸せそうな姿に、恋への期待が高まる。さあ、早く仕事を終わらせないとね。




 そして昼前時になり、公爵が到着した。



「レオント・アルドエ公爵が到着されました」


「本当?! 早く行きましょ〜アシュ〜!!!!」


「ふふ、わかりましたって!」






 僕はサリナに手を引かれ、サリナは軽い足取りで公爵を迎えに行く。時々クルッと一回転したり、踊りながら歩く彼女が少し可笑しくて笑うと、彼女は嬉しそうに笑顔を見せた。






「レオ〜〜!!!!愛しの夫!」






 サリナは公爵を見つけるや否や、彼に抱きついた。







「相変わらず危なっかしいな。やっと会えたね、愛しのサリナ!」


「寂しかった〜!」


「俺もだ〜!」




 2人は自分達だけの世界に入り込んでいる。




「あの〜……」


「あ、嬉しくてつい……ごめんなさい! こちらが新しい補佐官のアシュ・クイックよ!」


「君がアシュか! 会えて嬉しいよ!」


「こちらこそ、会えて嬉しいです! では中へお入りください」


「ありがとう」


「はやくはやく! あ〜いつ見てもかっこいいわ!」


「はは、なら良かった。俺がいない間どう過ごしてたんだ?」


「仕事に仕事、あとは仕事!!」


「全部仕事じゃないか!」






 2人は楽しそうに話している。僕の両親とはテンションが違うが、ラブラブ具合も負けていないな。2人の周りにハートが飛び交っているように見える……。








 そして客間につくと、先に陛下が座っていた。







「久しいな、レオ!」


「陛下! お久しぶりです! お元気そうでなによりです」


「そなたもな。相変わらずのラブラブっぷりだな」


「へへ、だって嬉しいんですもの〜!」


「結婚すれば毎日一緒に居られるんじゃないか?」


「そうですね。その時が待ち遠しいです」


「私もです! レオにはこっちに来て貰ってばっかりだったから」


「お前のためならどこまでも」


「キャー!」








 陛下は何を見せられているのだろうかという表情で、2人を見ていた。それから僕達は会話を楽しみ、お昼の時間になったため皆で食堂へ向かった。







「う〜ん! やっぱりこの国の食事の海鮮物は絶品です」


「でしょ? 今しか味わえないから、しっかり味わっておかないとね」


「そう言って貰えると、国王として鼻が高いな」


「こちらの国でも海鮮物はありますが、輸入品なので新鮮じゃななくて。新鮮な物は別格ですね!」







 サリナもそうだけど、公爵もなかなか明るい人だな。2人がいると賑やかになる。

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