第35話 空


 あ〜〜!!!! 幸せだ! 恋が実るってこんな気持ちなんだ……サリナが言ってたことが理解出来た気がする。心が浮つくってこんな感じなんだ。陛下は皆にはまだ秘密だっていうから、誰にも言えないのがもどかしいけど……。


 明日はドラゴンに会えるんだよな。2日連続で楽しいこと続きだな〜。明日も楽しみ! 今日はみっともないくらいに泣いちゃったから、疲れたなあ。早く寝て明日に備えないと。


「アシュ様、ご機嫌っすね〜!」


「でしょでしょ〜っ明日ドラゴンに会えるんだよ?!」


「あ〜〜! 羨ましいっす! 俺も会いたい!!」



 ルカニエはカンのことをかなり信用しているようで、ドラゴンのことを打ち明けたようだ。カンにも共有できるのが嬉しい。



「一気に2人も来たら、びっくりしちゃうもんね〜。カンは今度ね!」

「わかってるっすよぉお! 感想聞かせてくださいよ?!」


「もちろん!」


「魔獣使いなんて、イカつすぎるっすよ〜!」



 今はある部族以外はほとんど存在しないとされる魔獣使い。野蛮な民族だと虐げられているため、ひっそりと暮らしているらしい。どこで暮らしているかもわからない。

 魔獣を手懐けるなんて、そうそう出来るものじゃない。貴重な存在だと思うけど、世間的には異端者扱い。なんて勿体ないのだろうか。大きな戦力になるだろうに。国王が魔獣使いの国があるらしいけど、詳しくは知らない。



「だよね! ルカはなんでも出来るよね」


「俺も負けてないっすよ?! 訓練頑張ってますから」


「わかってるよ! いつもお疲れ様。カンは明日家に帰るんでしょう?」


「はい! 家族でまた集まるっす」


「寂しかっただろうから、存分に楽しんできてね」


「あざっす!」





――――――――――――――――――――



「さあ、行きましょうか」


 僕とルカニエは、ドラゴンの訓練をしている森へ転送魔法で移動した。

 このスイメイ王国の森の中でも火山に近いため、人は誰1人踏み入らない場所。そろそろ転送魔法にも慣れてきて、酔い止めの薬を飲めばほとんど症状は出なくなった。






ピーーー!


 ルカニエが指を使って口笛を吹くと、空からドラゴンがこちらへ向かってくる。

 初めて見るそれは崇高で神秘的で、魔獣の頂点たる所以であることがわかる。バサバサと翼を羽ばたかせるその姿に圧倒される。

 成人していないドラゴンと聞いていたが、余りに大きく恐れおののいてしまう……。ごくりと固唾を飲んでただ見るしか出来なかった。全身赤くて硬い鱗で覆われ、後頭部から4本の角のようなものが生えている。




ルカニエの方へ擦り寄り、ルカニエはよしよしと撫でている。そして僕を見つけるや否や……



ギャオオオオオオオ!!



 なんとも言い難い鳴き声をあげ、僕を警戒しているのがわかる。バサバサと翼を羽ばたかせ、突風を吹かせる。なんて風だ……! 立っているのがやっとだ……。



「どうどう!! やめなさい!!!!」



 珍しくルカニエは声を荒らげ、ドラゴンはしゅんと大人しくなった。そんなドラゴンに偉い偉いと生肉を口に放り込む。



 緊張でドクドク心臓がせわしなく動いているのに反し、身体は硬直して身動きが取れない。こわい。敵対視されるのはわかっていたけど、いざ威嚇されると恐怖でしかない……これで本当に仲良くなれるの?! 不安だな……




 そしてルカニエはドラゴンに待てと言って、僕にゆっくりと近づいてきた。



「怯えてはいけませんよ。私を睨んだあの目の出番です!」


「いやいや、ドラゴンだよ?!」


「相手が怯えているのがわかると優位に立とうとする。舐められては行けません。服従させるのですよ! 目を逸らさずに、手を伸ばしながらゆっくりと近づいて……」


「はは……でも、やるしかないよね」


「貴方なら、きっと出来ますよ」








 よし、覚悟を決めるんだ。僕はドラゴンを仕える主。今後僕を助けてくれる存在になるんだから。怯んではいけない。





 目を閉じ、すぅーっと……息を吐いて。



 カッと目を開けた。ドラゴンの黄金に光る眼をじっと見つめると、見つめ返してきた。




 ゆっくり、1歩1歩を踏み出していく。ルカニエは手助けしてくれないようだ。僕がやることに意味があるのだろう。あと50メートル……40メートル……30メートル……徐々に近づいていく。不思議とドラゴンは僕を見つめながら、じっとしている。



 そして目の前に来た時だった。





 ドラゴンの顔が、伸ばしている

僕の手元に下りてくる。触らせてくれた。初めての感触は、鎧のように硬い鱗だった。目をつぶり、擦り寄ってきた。可愛いな。



後ろからルカニエが近づき、拍手をする。


「素晴らしいです! 正直成功するか五分五分だったんです」


「え?! なにそれ! 今言うの?」


「貴方の可能性にかけたんですよ。流石私のご主人様ですね。これで貴方はこのドラゴンに認められました」


「そっか……すごいね……」


「とても頭がよく記憶力もいいので、貴方のことはもう忘れませんよ」


「そうなんだ……その子は男の子? 女の子?」


「ドラゴンは性別を持ちません。無性生殖なんですよ。そして属性は成長してから決まり、鱗の色も変わっていく」


「全然知らなかった……さすが詳しいね」


「なんでも聞いてください。さあ、この子の火を吹く姿を見たくはありませんか?」


「みたい!」






 ちょうどドラゴンの声に反応してなのか、イモリのような見た目をしているサラマンダーが何頭か現れた。デカいイモリ……気持ち悪い!

 サラマンダーとは、火山の溶岩から産まれた精霊。自然界から産まれる魔物を精霊と呼んでいる。




「あーサラマンダーですね。残念。さっさと食べてもらいましょう」


「食べ……?!」



 ドラゴンはその鋭い爪でイモリをぶっ刺して、そのまま口に運んだ。ヒエエ……恐ろしい! 幸い綺麗な食べ方をするから、内臓をぶちまけるようなことはなかった。




 するともう1匹のドラゴンが飛んできて、2匹でむしゃむしゃと捕食していく。





「あのドラゴンは仲良くなったドラゴンです。獲物が集まってるのを嗅ぎ分けてきたみたいですね」


「すごいね……これが食物連鎖か……」


「さあ食べ終わったみたいですし、火をふいてもらいましょう」





 そしてルカニエは丸太をドラゴンの目の前に浮かせ、そこに向かって




 ゴォオオオオオオオ



 と火を吹いた。確かに炎が広がってしまっているが、すごい威力だ……これがドラゴンの力か。



 



「では背中に乗ってみましょう」


「本当に?! やったー!」



 ドラゴンは僕達が乗りやすいよう、しゃがんでくれた。首の根元の方に跨り、後ろにルカニエが乗る。乗るのを確認すると、徐々に浮いていく。あっという間に空高くまで上がった。すごい……夢みたいだ! スピードが早くて、前髪が飛ばされるんじゃないかってくらい。



「うわー!!」


「すごいでしょう?」


「すごいよ! こんな高くで飛んでるなんて」


「下を見て見てください」


「わあ! 世界がよく見える」


「飛んでみるとみんな小さく見えますよね」


「本当にすごい経験ができてる! とにかく凄いしか言えない……」


「ふふ、喜んで貰えて嬉しいです」


「わーー!! 気持ちいいーーーー!」





 ギャオオオオオオオ!!




 何となく叫びたくなった。ああ、楽しい! ドラゴンも一緒に叫んでくれた。仲良くなれたんだよね。ドラゴンが友達……カッコイイじゃん!

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