第3話 憧れ
数日が経った時のことだった。
「郵便でーす」
隣国のスイメイ国王が補佐官を募集しているというチラシが届いた。
「補佐官……これだ!!」
僕が叶えたい夢を、これなら叶えられる。
「試験は3ヶ月後か……」
隣国のことはある程度知ってはいるが、歴史を勉強し直す必要がある。3ヶ月もあれば十分だ。父と母に相談しよう。
そして僕は両親に伝えると、いいチャンスが舞い降りたと喜んでくれた。早速図書館へ本を借りに行き、僕の受験勉強が始まった。
それから父は風を拗らせ、肺炎など色々合併したみたいで、療養に専念することに。
その間、補佐官代理をたてることになった。その方は、国王の臨時の補佐官代理でもあり、今は自由に冒険しているとのことだ。
そして代理人が来る日が来た。陛下が転送魔法で共に来るとのこと。
どんな人なんだろう。奇想天外な人だって言うから、余計に楽しみだ。わくわくしながら、勉強に励む。
「アシュ様、陛下と代理人の方が到着いたしました」
胸が高鳴る。
「わかった。迎えに行くよ!」
外への扉を開けると、陛下の隣に男性が立っていた。
赤い髪が外に跳ねていて、眼も燃えるように赤い。
肌は褐色で、筋肉質。背は小さめだが、とても男らしい方だ。
背には大きな剣が背負われており、薄着で露出が高い服を着ている。
男性が理想とする姿その物のように見えた。僕も一時憧れてトレーニングしたこともあったが、夢で終わったなーなんて思い出す。
「国王陛下にご挨拶申し上げます。そして、お初にお目にかかります。アシュ・クイックと申します」
「出迎え感謝する。こちらが例の代理人、ベルニ・ルクアークだ」
「お前がアシュか!噂以上の美貌だなあ」
「き、恐縮です……。それより、お会いするのを楽しみにしてたんです!おふたり共、中へどうぞ!」
「ああ、私は遠慮するよ。来る前にアルペンについて説明できたし、アシュにも紹介できたから。どうなることかと思っていたけど、喜んでくれたみたいだしよかった」
「せっかく来てくださったのに……」
残念そうに陛下を見つめる。
「そんな顔をするんじゃない。また会いにくるよ。それより、3ヶ月後の隣国補佐官の試験を受けるんだってね。応援してるよ」
「ありがとうございます。いつも気にかけてくださって本当に感謝しています!ではまた。次はゆっくりしていってくださいね」
「もちろんだよ。じゃあベルニ、すまないが馬車ごと本邸へ転移してくれるかな」
「早速人遣いが荒いもんで。わかりましたよ〜」
陛下が馬車に乗り込むと、ベルニは転送魔法を唱え
馬車は消えていった。目の前で見るのは初めてだ。
多くの魔力を消耗し、慣れていないと数時間めまいと頭痛に悩まされるという。
いとも簡単にそれを行ったということは……何から何まで尊敬できる方だと思った。
「初めて見ました……ベルニ様は転送魔法に長けているのですか?」
「そうそう! 天才なのさ」
そういってウインクされた。見た目と違って明るく気さくな方。これから楽しくやれそう。
「じゃあ中に入れてくれるかな?」
「あ、ついはしゃいでしまってすみません……では中へどうぞ!」
そういって客間へと案内した。
「そちらへお掛け下さい」
「堅苦しいな〜アシュも。気軽に行こうぜ〜」
どかっと座り、脚を組む姿は様になっていた。
僕はベルニが座った後、続いて腰掛けメイドにお茶を出してもらった。
「そんな……代理で来てくださってるのに、無礼な真似はできませんよ!」
「仲良くしたいんだけどな〜。まあいいか。会って間もないし、仕事の話をするのもなんだから話をしよう!!」
ベルニは座り直し、顔を近づけた。
「いいんですか?! じゃあ、なにかデザートをお出ししましょうか」
「デザート?! 甘いものは苦手だし、話をするのが目的じゃーん。そんなのいらない要らない」
「わかりました。では、沢山お話しましょう!!」
色んなところを冒険し、自由に生きてきた人。
そんな人から話が聞けるなんて! 今日は余韻で眠れそうにない。
それから僕はベルニの冒険話を長い間聞かせてもらった。
ベルニは話すのが上手くて、まるで自分が冒険したかのように頭の中で鮮明に映像が流れた。世界は広い。もっと見てみたいと思った。
「ベルニ様の貴重な話、とっても楽しいです!」
「ハハッ! そんなに目を輝かせて聞いてくれたら、どんどん話したくなるな! 行動が大人びてる子だと思ってたけど、少年らしい姿が見れて俺は嬉しいよ!!」
大きく口を開け、ガハハと豪快に笑った。
「僕は見た通り弱くて、一時は頑張って強くなろうとしたんです。でもダメでした。魔力も少なくて、強化魔法は上手く使えるけど…逃げ足を早くしたりするとかで。剣術もダメ、弓はある程度できるようになったけど……守ってもらってばっかりなのもどうなんでしょうね」
「強化魔法が使えるのか! 珍しいな…かなりの集中力が必要なのに。アシュはおもしろいなー!」
「おもしろい?! でも戦わずに逃げるなんて……」
「時には逃げることも必要じゃないか?少しアシュは勘違いしてるようにも見える」
「どういうことですか?」
「強いってのは魔法や剣術とかに長けてて、戦闘力が高いことが全てだと思ってるんじゃないか?」
「だってそうじゃないですか。強くないと負けちゃうし……誰かを守ることも出来ない」
「そうじゃない。強さってのは心が大事なんだ。どれだけ強くても、心が弱ければ負けてしまう」
「心……」
「そう。心だ。強くなるためには、精神力も鍛える必要がある。努力し続ける精神。悔しい気持ちを持ち続けたり、諦めない心だ。負けないと強く思えば、奇跡が起きる事だってあるんだぞ!」
「確かにそれもそうですけど、心だけが強くてもいけないんじゃ……」
「それはそうだが、戦闘力がないなら、雇えばいい。それで自分も、大切な人も守れるだろ?」
「自分が誰かを守ることが大切な事だって思ってました。それでもいいんですか? 卑怯だって思われるかも」
「みんなそうしてることだろ? 国王だって、強くても騎士団を持ってる。護衛騎士の方が強かったりもする」
「ベルニ様からこんなに多くのことを学べるなんて……師匠って呼んでもいいですか?!」
「師匠?! 弟子は作らない主義だが……アシュならいいかもな。弟子第1号だな! でもアシュ、お前は頭がいい。若いのに父親の手伝いばっかりして、貢献してる。それはなかなかできることじゃない。もっと広い世界を知って、可能性を広げるんだ。君には輝かしい未来が待ってる。もっと自信を持て」
「自信、か……」
僕は自分に自信がなかった。領主の仕事を手伝うのも、当たり前だと思っていたし。両親は、親だから褒めてくれて、陛下も優しいからそうしてくれたんだと。でも、この頭を使って人々を助けるんだ。
すーっと、息の詰まったような感覚から解放された。
「ありがとうございます。自信が持てました。師匠、これからもよろしくお願いします!!」
「柄にもなく真面目な話をしてしまった……もちろん、これからもよろしく頼むぞ〜」
話し始めて、もう2時間が経っていた。
「あ! もうこんなに話してたんですね…仕事の話はどうしましょう」
「2時間も話してたのか! う〜ん…明日にしようぜーーーー」
「じゃあ、明日の朝にしましょうか!」
「朝から?! いつも何時に起きてるんだ?」
「いつもは6時半ですけど、師匠は?」
「早すぎる!!! 大体昼前まで寝てる」
「それはさすがに遅いです! 8時には起きてくださいね。」
「ひぃ!! 8時だってええええ! この鬼畜!!」
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ここまで読んでくださりありがとうございます!
次回から1章に入りますー!
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