1章(主人公が補佐官になるまで)
第4話 不審
「あーーーー疲れた……なかなかやること多くないか?!」
ベルニが机に突っ伏しそう呟いた。
あれから話をしたあと、父を除く家族と共に食事をした。
ベルニの明るく気さくな性格から、母とも意気投合。大いに盛り上がった。
お風呂に入ったあとも、ベルニの希望よりアシュと同じベッドで夜遅くまで話し続けた。
そして予定通り8時に起床し、朝ごはんを食べ仕事の内容を説明し、約2週間分の溜まっていた仕事を処理しているところ。
僕は勉強しないといけなかったので、説明をした後同じ執務室で勉強をする。
「ふふ、2週間くらい溜めてましたからねー」
「休憩ーー……ふう」
机に突っ伏したまま、数秒で寝息が聞こえ始めた。どこでもすぐに寝れると聞いていたが、ここまでとは。
15分ほど経つと、ぱっと顔を上げキョロキョロと周りを見渡す。
「おはようございます。まだ15分しか経ってませんよ」
「そうか。ふあーー……よく寝た。なんの本を読んでるんだ?」
「スイメイ王国の歴史っていう本です」
「そうか。スイメイ王国の補佐官の試験を受けるんだったよな」
「そうですよ」
「そこに書いてないであろう情報を教えてやろうか」
「疲れたんじゃないんですか?」
「話をするのは別なんだよ〜」
「それなら、教えてください!」
ベルニが知るスイメイ王国の歴史はーー……
先代国王は正妃のみを迎えた。
正妃画第1王子を産んだ後、何らかの原因から死産や流産を繰り返し、5年後に第1王女を授かったという。
しかしその妹は10歳という若さで他界した。遊びに出かけた帰りの馬車で事故にあったのだ。
その次の月、急に現れたもう1人の息子。同時にその子を産んだとされる側室を迎えた。
その息子が現国王となった。なぜ第1王子が国王にならなかったのか?
それは、第1王子が望まなかった。魔力が多い訳ではなく、病弱だった。
スイメイ王国の家系は属性が水であり、代々透き通った水色の眼をした者が後継者となった。第1王子は第2王子が後継者と決まるまで透き通った水色の眼だったのだが……
それは偽りだった。眼の色を変える魔法のアクセサリーで誤魔化していたことを第1王子が発表してしまったため、公になる。
こういった理由で、第2王子が国王となったのだ。
また、先代国王が認知症を患ってしまい、支障をきたし始める。そのために国王を退くしか無くなった。
当時第2王子は18歳。基本的に何歳で跡を継ぐかは決まっていないが、平均で言うと25歳で継ぐことが多かった。
あまりに早い国王の跡継ぎ。さらにそれは急に現れた王子。
今でも反対する勢力がいると言われている中、今の状態まで栄えさせた実力の持ち主。
国民の支持も得ているため、何も出来ずにいるという。
「突然現れた王子が国王になったのは知っていました。なんでこんなに詳しいんですか?」
「冒険を経てだな。色んな人と話をしたから。自ずと世界に詳しくなるもんだ」
「そうなんですね……しかし現国王が現れたタイミングが気になります……」
「それは色んな噂が立っていたな。王女の死が偽造で、実は王女なのではないかとか……他にも子供を隠しているとか、先代王は遊び人だったとか先代王の兄弟の子供だとか。結局は有耶無耶になってるけど、国を良くしてくれているのに加えて眼の色も偽りでは無いことがわかっているからな。気をする必要は無いとして、噂は消えていった」
「そんな事があったんですね…なんだかスイメイ王国も変わった経緯があったんですね」
「勉強になっただろ? もう昼だし飯が食いたい!!」
「そうですね。お昼にしましょう!」
それから僕はスイメイ王国についての想像をふくらませた。
スイメイ王国の国王陛下……どんな人なんだろう。
試験の最終段階に行けば、謁見できるってチラシに書いていた。
中性的で美しい外見だと聞いたことがある。彼に会えるだろうか。
そんなこんなでベルニは1ヶ月間滞在した。仕事をしながら僕の勉強を手伝ってくれたり、寝る前に冒険の話をしてくれた。
短期間ではあったものの、とても濃い毎日で自ずと僕たちの仲は深まった。
その1ヶ月の間に、陛下は新たな代理人を見つけてきてくれた。
今日、また代理人を迎えることとなった。陛下と共に到着し、前回同様に迎える。
「何度も代理人を変えることになって申し訳ない。こちらがルカニエ・ソウメン男爵だ」
「お会い出来るのを楽しみにしておりました。アシュ公子」
鎖骨にかかるくらいの白髪。ウルフカットという髪型かな?
そして黄金の眼。身長は180くらい?15cmも違う……しかしイケメンだな。女性にモテるだろうな。
「こちらこそ。アシュ・クイックと申します。早速ご案内いたします。陛下も来られますよね?」
「はは、今度はお邪魔するとしよう」
「よかったです」
客間にお2人を案内し、お茶を出す。
「ちょうど代理人を探している時に、紹介されてね。今日会うのは2回目なんだが、急にもかかわらず感謝するよ」
「とんでもございません。お役に立てるなら幸いです」
少し談笑した後、陛下から2人で話があると僕たち2人は別室へ移動した。ルカニエの対応は一旦母が代わることに。
「内密に話があってな」
そういって陛下はドアに遮断魔法をかけ、外部に音が漏れないようにした。
「話というのは……?」
何事かと息を潜める。音が漏れないとわかっていても、ついそうなってしまう。
「実は……彼を紹介された後、あまりにタイミングが良すぎると思ってな。身辺調査をしたんだ。それがあまりにも情報が少なくてな。手が加えられているかもしれない。何も起こらないことを願いたいところだが、注意してくれ。見張りをつける必要もあるだろうな」
「わかりました。気をつけます」
「ああ。勉強もあるだろうから、両親にも伝えておこう。騎士団の協力も必要だな」
「ありがとうございます。父の部屋に行かれますか?」
「そうするよ」
「ご案内します」
「ありがとう。戻ったついでにラノも呼んでくれ」
父はあれから徐々に回復し始め、熱も下がってきている。食事も比較的とれるようになり、兆しが見えてきた。
そして僕は客間へと戻り、母に陛下から話があると言い僕とルカニエと2人きりになった。
「お騒がせしてすみません、早速仕事の説明を致しましょうか?」
「そうですね。ではお願いします」
「執務室へご案内いたします」
僕はルカニエに仕事の話をしている間、反応をよく観察していた。スムーズに説明が進み、理解もはやい。
行動に怪しい点はなかったが、そんな人が男爵だなんて。やはりなにか裏があるかもしれない。
「ルカニエ様は、ここまで理解がはやくて優秀なのに男爵でいるのは、なにか理由がおありなのでしょうか?」
「ルカでいいですよ。そうですね……僕は爵位に興味が無いのです。それに、学びたい時期でして……色んな土地を行き来しています」
何故ここまで代理人が見つからないのかと言うと、陛下は定期的に不正がないか領主の調査を行っている。
それで、今年上手く隠しているつもりでいた領主を一斉に処罰し、新たに領主を置いたばかりだった。
特にアルペンは、代官を置いていないのにもかかわらず、情勢が安定している珍しい領地で。
父に依存していたこと、優秀な代官が見つからずずるずると来てしまったことが原因だった。
侯爵夫人である母が手伝えればよかったが、母には向いておらず、全く理解できない様子だったため、諦めざるを得なかったのだ。
それから僕はルカニエについて観察しつづけた。食事をする姿や、行動一つ一つみても、気品があり貴族らしい姿だった。
爵位を買うことさえできる世の中だから、彼もそうなのではないかと思ったが見当違いだっのかもしれない。
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