2章(補佐官としての人生が始まる)
第14話 契約
目が覚めると、ベッドの上だった。
「は……! やばい、寝てた! 今何時?!」
「今は16時ですよ。よっぽど私の背中が心地よかったみたいですね」
「へ、陛下に見られたよね?」
「見られましたね」
「はあ……やってしまった」
初日に寝て登場するとは思いもしなかっただろう。過去のことは変えられないし、謝るしかないよね……
「陛下は笑ってたっすよ。大丈夫大丈夫!」
カンはいつも能天気だ。
「とにかく謝ろう」
そう言って立ち上がろうとする僕をカンは制止する。
「なに?」
「夕食時に食堂に来て欲しいって言われたんすよ。
それまで休んでいいって」
「そうなの……?今行っても失礼か。わかったよ」
1人反省会をしながら、3人で数時間を過ごした。
夕食時になると、使用人の方が食堂まで案内してくれた。
まだ誰もいないようだった。
数分が経った頃、陛下と補佐官のサリナが入ってきた。
「久しいな、アシュ公子。君を迎えられて嬉しい」
座っていた僕は立ち上がり、握手を交わす。
「あの……僕ここへ来る時寝てしまっていて、お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ございません……」
恐る恐る彼を見る。
「はは、転送魔法はまだ慣れていないだろう?それくらいいいじゃないか」
「ありがとうございます……」
「私はアシュ公子の貴重なお姿が見れて嬉しかったですよ」
「え?! そんないいものじゃないですよ……お2人のご慈悲に感謝致します。」
そして僕たちは皆で色んな話をしながら食事をする。
今日はもう疲れただろうからと気を使っていただき、休むことになった。
早めに伝えておきたいことがあるからと、明日の朝ご飯の後再び集まることに。
なんの話だろう? 魔法契約書を交わしたいとか?
まあ、明日になればわかるだろう。
お風呂に入り、部屋に入る。本当に広い部屋だな。
3人別々の部屋が用意されていた。
だけど僕を1人で寝かせられないと言われ、ルカニエとカンが交代で僕と一緒に寝ることに。人の気配で目が覚めることは無いから、僕にとっても安心だった。今日はカンと共に寝床につく。
「ふう。本当に僕が補佐官になったんだ」
「やっと実感が湧いたんすか」
「うん、なんか夢みたいでさ」
「これから第2の人生楽しみましょう! お供しますよ」
「ありがとう、これからもよろしくね」
「今日は明日のためにゆっくり休みましょう。おやすみ、アシュ様」
「うん、おやすみなさい」
ふかふかの大きいベッドに2人。贅沢だなあ。今日もいい夢がみれそうだ。
―――――――――――――――――――――――
陛下とサリナ、ルカニエとカンの5人で朝食をとる。
僕達は陛下が用意してくれた服を身に纏う。
部屋も服も、一人一人用意してくれるなんて……
カンに至っては、ここに来る数日前に一緒に行くことになった事を伝えたのに。陛下には頭が上がらないな。
朝食を終えた僕たちは、執務室へと案内された。
「さあ、早速話そうか。そちらにかけてくれ。話というのは2点ある。1つ目は、魔法契約について。2つ目は、この国の地震についてだ。
まずは1つ目から話すとしよう。募集要項にも記載していたが、補佐官として働いてもらうにあたり、魔法契約書を交わしたい。
外部に漏れては困る情報があるのと、裏切られないようにする為だ。そこは理解いただけるかな?」
「勿論です。早速始めましょう」
「理解が早くて助かるよ。サリナ、契約書を」
「はい。こちらです」
「契約内容はこうだ。アシュ・クイックは、補佐官になるにあたりここで知り得た情報の中で、スイメイ王国にとって不利になることは一切口外しないこと。
また、国に忠誠を誓い、いかなる裏切りも行わないこと。
そして国王ソウハン・エルギールは、補佐官アシュ・クイックをあらゆる危険から守ること。以上だ。アシュ公子、どうかな?」
「その内容で大丈夫です」
「アシュの契約違反は口封じを」
「大丈夫です」
そしてナイフを渡され、血を契約書に垂らす。血は契約書に吸い取られ、文字が光り輝く。
「契約成立だ。ありがとう」
「サリナ、アシュ公子の傷を治してくれ」
「分かりました」
そして僕の指先の傷が、回復魔法で綺麗になった。
「ありがとうございます」
続いてルカニエとカンとも魔法契約が交わされた。
「では2つ目の話をしようか。この国は地震大国というのは知っているか?」
「はい、100年に1度巨大地震が発生し、その次の巨大地震が今年起こるかもしれないということも知っています」
「アシュ公子、さすがだよ。話が早くて助かる。そこで、様々な対策を講じてきたのだが……補佐官になって間もない君を巻き込んでしまうかもしれない」
「それは覚悟して来ました。僕が力になれるなら、協力します」
「本当にありがとう。もし地震が起きた時、どのような流れになるか説明しておく。我々は地震をより早く察知するため、主属性が大地の魔道士が地中に自身の魔力を込めた魔石を埋め込んでいるんだ。
そのお陰で、数十分〜数分前に地震発生の予測ができるようになった。その異変が判明次第、サイレンが鳴るようになっている。このサイレンが鳴ると、国民は指定された避難施設へ駆け込む。数ヶ月に1度その訓練を行っているんだ。
そして、サイレンが鳴り次第私は帝国全体と隣国であるモルガ王国に救援要請を送る。魔法道具でね。さらに騎士団と魔道士でチーム分けしていて、救護班、医療班、戦闘班に分かれる。
救護班は逃げ遅れた国民の救護、医療班は医者や聖女と共に避難施設での治療、戦闘班は地震発生後の津波と一緒に流れてくる魔物の退治を行う。
それでそなたには医療班の方に入って貰おうと思っているんだが、そなたの意見を聞かせてくれないか?」
「それで構いません。僕は戦えるほどの力はないし、魔力も少ないので。次の訓練はいつですか?」
「来月君の社交デビューとしてパーティーを開催するんだが、その3週間後を予定しているよ」
「わかりました。医学の本で勉強しておきます!」
「無理は禁物だ。補佐官の仕事だけでも大変だろうから。あ、あとこれを渡しておこう。地震発生時に避難施設へ転送してくれる。肌身離さず持っていてくれ。
魔力を注入するか、" ミティーナ" と唱えるんだ。
あ、それと2人にお願いがあるんだが。2人の実力が見たい。災害訓練までに、カンは私と、ルカニエはサリナと闘ってもらう。それでもいいか?」
「楽しそうっすね! いいっすよ」
「わかりました」
「助かるよ。ではこれで話は以上だ。後はサリナに任せるよ」
「ありがとうございます。失礼します」
「では私がアシュ公子に公務の説明をしますね!」
サリナは丁寧に教えてくれた。
国王の補佐官の仕事量はかなり多いことはわかっていたが、ここまでとは……頭が痛くなる。これを毎日こなしているなんて。
「なかなかハードですね……。サリナ様が辞めるまでに出来るようになるでしょうか……」
「あなたなら大丈夫だと思いますよ」
「それならいいのですが……頑張ります! あと、もう補佐官なので、公子って呼ばなくてもいいのでは? 僕は部下になるだろうし、呼び捨てでお願いします!」
「わかりました。アシュ。では、私も呼んで欲しいことがあるんですけど……先輩って呼んで欲しいです」
サリナは上目遣いで僕を見た。そんな事ならお易い御用だ。
「いいですよ。先輩!」
そう言うと嬉しそうに飛び跳ねていた。
無邪気で愛らしいお方だ。陛下が国王に就任した時から傍で支えてきたんだよな。結婚して幸せになって欲しいな。
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