第13話 成人と騎士の誓い
ついに僕の誕生日パーティーの日が来た。
パーティーと言っても、皆が想像するものとは違うものだけどね。両親が僕のために色々準備してくれたみたいだし、とても楽しみだ。
僕も成人かー。大人。大人って、すごく遠くて立派に見えていたけど……いざなってみると何も変わらないな。ちょっと拍子抜け。
そして僕は今、パーティーに向けて準備をしている。
こんなに慌ただしい城内は、新鮮だ。
朝からお風呂に入り、3人がかりで僕の身なりが整えられる。
一段と輝いてるとかなんとか、褒めてくれるのはありがたいけど…なんだかくすぐったい。
普段は1人で準備しているから、変な感じ。着替えもひとりで出来ないなんて嫌だからね。顔色をよく見せるために化粧を施される。皮膚が重くなった感じがして不快だけど、今日だけの我慢。
「みんな、ご苦労様」
僕がそういうと、一礼して嬉しそうに部屋からでていった。
使用人達もドレスなどでおめかしして、パーティーに参加するのだ。みんなパーティーが好きみたい。
僕には白が似合うと言われて、両親と選んだ衣装。
中々カッコイイじゃん。少しは凛々しく見えるんじゃないかな?
全身鏡を通して背中側を見たり、角度を変えたりして、着飾られた自分を見る。マントがひらひらと動く。
「準備はどう?」
いつも騎士の服ばかり着ている母が、ドレス姿で覗きに来た。
「バッチリ!どう?なかなか男らしいんしゃない?」
「ほんとだ!似合ってるじゃん」
「お母様も綺麗。ドレス姿新鮮だね」
「ありがとう。久々にコルセット付けたんだけど、きつい!」
「確かに苦しそう…女性って大変だね」
「アシュ、もう行けそうかな?」
「うん!もう行けるよ」
時間は夕食どき。アルペンの街の通り一帯がお祭り状態。
広場では踊り子が踊り、歌手の方達が歌う。市民もそれに混ざり、大いに盛り上がっている。
通りは出店が並び、空には花火。建物も着飾っていて、灯りが光り輝いている。色々な色をした建物が、色んな色で照らされる。とてもカラフルで眩しかった。
「わあ……すごい。綺麗」
「頑張って準備したんだよ」
母は父と目を合わせ、誇らしげに笑い合う。
「お父様、お母様、僕を育ててくれてありがとう。パーティーも一生懸命準備してくれてありがとう」
そう言うと、両親は僕を抱き締めた。僕はこの瞬間を噛み締めた。
その後陛下と王妃、王子の方達も僕の誕生日を祝ってくれた。領民も同じく声をかけてくれた。
皆の幸せな姿を見ると、今までの努力が報われたように思う。ルカニエも祝ってくれて、ギルド長とお別れまで一緒に居るよう僕が言った。
子供の時から父の手伝いばかりで、ほとんど遊んだことはなかった。本を読むのが好きだった僕は、本を通して世界を想像していた。僕は想像の域を超えて、隣国へ行く。背中に翼が生えたような気分だ。
パーティーは夜通し行われた。
騎士団やギルドの方達も来ていたため、本当に多くの人達が集まった。ただでさえ人が多い街に、人が溢れかえった。
父の病や裁判…短期間で色々なことが起きた。僕の人生でとても大きな出来事だった。
目を閉じ、風・音・振動を感じる。心が満たされる。僕は本当に幸せ者だ。心の底から、ここに産まれて良かったと思った。
物思いにふけっていると、カンが僕に話しかけてきた。
「アシュ様、成人おめでとうございます!俺、アシュ様の専属騎士になりたいです!!」
専属魔道士に続いて、騎士?! カンまでなんてことを言うんだ……
「正気なの?! 隣国に行くんだよ? しかも僕に命をかけるっていうの?!」
「正気です!アシュ様の為なら、命だって捧げます」
「はは、いいんじゃない? カンがそばに居てくれるなら、安心できる」
横で母は笑う。絶対知ってたじゃん。母がいいって言うなら、僕はどうすることも出来ない。
「アシュは人を惹きつける能力が高いみたいだね」
「護衛魔道士と護衛騎士を連れて歩くなんて……傍から見たら只者じゃないじゃん。でもカンとずっと一緒に居られるのは、正直嬉しいかも……」
「ですよね?! やったー!!!」
僕に勢いよく抱き着いてきた。く、苦しい……大型犬を飼ってるみたいだ。
「う……息が……」
「あ、申し訳ないっす! つい、嬉しくて。じゃあ騎士の誓いをさせてください!」
そう言って剣を鞘から抜き出し、僕に預けた。
そして僕は跪いたカンの肩に剣の刃を置く。
「騎士カン・ロナウドは、主アシュ・クイックを命を懸けて守り、主の敵を討つ矛となることを誓います」
僕の成人という記念すべき日に、カンが僕の専属騎士になった。
―――――――――――――――――――――
僕は誕生日パーティーの後、家族との時間を思う存分に過ごした。
今日、僕はスイメイ王国の補佐官になるんだ。気を引き締めないと。
「アシュ、立派になって……向こうでも元気で。ちゃんと食べて寝て、健康でいてね」
母は涙を堪え、僕を力いっぱい抱き締めてくれた。
「何かあったらすぐ言うんだよ。たまには帰っておいで。いつでも歓迎するよ」
父も暖かい言葉をかけてくれた。3人で抱き締め合い、この瞬間を忘れないようにしようと思った。
「カン、アシュを頼んだよ!!」
「はい!ラノ様、お元気で!!」
「ルカニエ男爵も、アシュをよろしくお願いします」
「はい、領主様。お任せ下さい。命を懸けてお守り致します」
「ところで、アシュは君をどんな目で見たんだい?」
「それはもう殺気を感じましたよ。背筋が凍るようでした」
「もう!その話はもういいって! あの時はごめんなさい。悪い人って決めつけてました」
「そんな事いいですよ。そのお陰で今私はここに居るので」
「アシュは私に似て怒ると怖い人で有名になるだろうね」
「僕はそんな事ない……はず……」
僕達3人はその道を歩いていく。使用人の方達が総出で出迎えてくれている。通る度に暖かい声援を受け、お別れをした。
門の前に、迎えが来ていた。
「うう……」
カンと僕は転送魔法により相変わらず元気をなくしているが、ルカニエは平然と立っていた。
「ルカ様は慣れているんですね」
「はい。魔道士ですから。あと、様は要りません。敬語も辞めてください」
「いや、歳上で僕よりすごい人じゃないですか……」
「貴方はわたしのご主人様ですよ。気軽に接してくれないと、ずっといい続けますよ。カンには敬語じゃないくせに……」
「わ、わかったよ……じゃあルカも敬語を辞めてよ」
「変な人ですね。じゃあ、もっと仲良くなれば」
「残念」
「さあ、おんぶして差し上げましょうか?」
「え、いいの?でもルカ細いし持ち上げれるかな」
「こう見えて筋肉は結構ついてます」
ルカは薄手の長袖を着ていたが、袖をまくるとなかなかの筋肉で驚いた。
「え……」
驚いている隙に僕はルカニエの背中に乗っていた。
おんぶされるのはいつぶりだろうか。懐かしい気分になる。
さすがの王宮はとても広く、入口まで距離があった。
暖かい背中の上に乗っているせいか、気づけば眠ってしまっていた。
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1章まで読んでくださりありがとうございます!
次回から2章突入ですー!
早く陛下とのイチャイチャが見たいぞー!
主人公応援したい!
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