第12話 裁判と僕の護衛

 そして裁判の日。

 普段は公開で行うのだが、ギルド長が顔を公開したくないとのことで、非公開で行われることとなった。

 参加者は裁判長・陛下・第1王子・第1騎士団の団長・僕と両親・ギルド長・被告人のルカニエ・武器製作所の責任者。



 裁判室へ入ると、全員が揃っていた。


「では、被告人ルカニエ・ソウメンの武器不正売買事件の審理を始めます。被告人、前へ」







 裁判は淡々と進んで行った。第1騎士団団長が、事件の経緯を話す。予定通りギルド長が供述し、陛下も同じく返答する。

 武器製作所の責任者は、不正売買の利益を10%貰うという取引をしたようだ。





 それほど長い時間はかからなかった。結果は無罪。キャッツクロウは国の傘下に入った。

 武器製作所の責任者は1ヶ月の謹慎処分となり、今後定期的な捜索が入ることになった。作業員の方々は、反省文をかく程度で済んだ。






 裁判が終わると、第1王子は帰って行った。いつも自由で嵐のような人だ。跡を継ぐまで思う存分自由を謳歌するとのことだ。







 そして陛下・両親・ギルドの2人で話をすることになった。

 裁判所の別室を借りたのだ。さすが陛下の権力といったところだ。



「無事解決だな」





 陛下は満足気にそう言った。本当に終わったんだ。僕も肩の荷がおりた。






「陛下のご慈悲に感謝致します」




 ギルド長も安心した表情をしていた。こんな表情も出来るんだ。




「これからよろしく頼むぞ。拠点も首都の方へ移すとしよう。準備を手伝ってくれるかな?」


「もちろんです。何なりとお申し付けください」


「ルカニエ男爵もギルドの団員としてよろしく頼む」


「そのことなのですが……」





 ん?何か嫌な予感がするぞ……気の所為であってくれ! 僕は関係ありませんように……!






「私は夢を叶えるまでギルドに居ることになっているのですが……夢が叶いまして。ずっと探していた人が見つかったんです」





 僕の願いは虚しく、砕け散った。





「ついに見つけたのか」




 ギルド長は驚く素振りはみせず、少し呆れた様子だった。




「ほう。誰を探していたんだ?」


「それは……アシュ公子です。彼を私のご主人様にしたい」


「はぁ?!」





 思わず声を粗げてしまった。

 急いで口を抑えるが、時すでに遅し。僕の珍しい様子に陛下は目を丸くしていた。






「どういうことだ?アシュ」


「僕にもよくわからないんです。急に一時身柄を拘束することを伝えた時、僕の目つきが気に入ったみたいで……」


「そうです。私はあの目で見られた時、背中に電気が走ったような感覚がありました。ずっと探していた人はこの人なのだと思いました」







 またもや恍惚とした表情で話す彼。

 ああ、断る理由もないし……どうしたものか。







「はは、面白いな。アシュ、君はどうなんだ?彼は稀に見るくらい優秀な魔道士だ。これから大いに役に立つことだろう」


「えっと……はぁ。そうですよね。構いません」





 そう言うと、ルカニエはぱあっと表情を輝かせた。






「そうか。だが、君のような人材を手放すのはとても惜しいことだ。できるなら、今後私達の事も手伝ってくれるかな?」


「ご主人様の元を離れなくても出来ることなら、お手伝いいたします」





 結局ルカニエは悪い人ではなかったし、かなり変な人だけど、僕に危害を加えなければ構わないか。

 まさかこんな事になるとは思わなかった。

 でも、これもまた運命なのだろう。僕は受け入れることにした。






 その日の夕食後……僕は3回目のソウハン陛下との伝話。久しぶりだな。




「陛下!お久しぶりです」




 いつもの挨拶は省くように言われたため、自由に話すことができる。




「ああ、久しいな。表情が前より明るいが、裁判はいい結果だったのか?」





 僕は裁判であったことを全て話した。ルカニエのことも。




「はは、それは驚きだな。優秀な専属魔道士か」


「そうですね……僕もびっくりです。陛下は、あれから何かありましたか?」


「そうだな…特にないが、今日は父の話をしようか。父が認知証を患っていることは知っているな?最近特に酷くてな。亡くなった娘はどこだとウロウロと探し回っている。そして私の元へ来ると、すまなかったとボロボロ涙を流すんだ。私達生きている家族を気にかけることもなく、死んだものの事ばかり。実に腹立たしい」


「まだお若いのに……お気の毒です。

 陛下の父はどんな人だったんですか?」


「私を後継者にするため、必死だったよ。もう1人の息子のことは放ったらかしだ。私の義理の兄のことだ。愛情を与えてもらった感覚はない。ただ立派な大人になって、失望させるなと言われ続けたよ」





 陛下は遠くを見て、悲しそうに笑った。

 僕は家族にめいいっぱいの愛を注いでもらった。

 反して陛下は、愛情をもらえずに苦しんでいるのだろう。僕はどう声をかければいいか分からなかった。





「そんな父だよ。だから私は家族のことを家族と思えないんだ。君たち家族が羨ましいよ。立派だと思っていた人が、実は愛に飢えている悲しい人だと知った気分はどうだ?」


「そんな事言わないでください。どんなに完璧な人でも必ず悲しみを持っているものでしょう?辛い時誰かに打ち明けられたら、少しは楽になると思うんです」


「4つも歳下の君にそんな事を言われるとは。そなたは大人びているな。なんでも話してしまいそうになる」



 陛下が本音を話してくれたのかな。そうだと嬉しい。これからもっと信頼されて、心の支えになれたらいいな。






 陛下は子供の頃から、ずっと寂しい思いをしてきたのだろうか。相談する相手もいなくて、苦しんできたのだろうか。陛下の僕がまだ知らない過去を想像して、胸が苦しくなる。一体どんな思いで過ごしてきたのですか? 幸せな時間はありましたか? まだまだ知らないことばかりだ。また、聞ける時が来たら聞いてみようかな。

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