第24話 魔法剣士の対決

 続いてカンと陛下の対決が始まろうとしている。

 先程の戦闘の緊張で疲労した身体にムチを打つ。見ているだけで、こんなにハラハラドキドキするなんて……





 ずっと気になっていた2人の実力が見れるのは嬉しいが、知っている人達がお互いを傷つけあうのを見るのは気が気でない。




 どっちが勝って欲しいとかはないし、どっちを応援したらいいんだ……いや、どっちも応援するんだけど。





 カンの主属性は大地。目の色が茶色なのを見るに、属性が強いことがわかる。対して陛下は水。お互い強い属性での闘い……僕達も危ない気がする……僕は活力を上げるポーションを一気に飲み干した。






 今度笛を鳴らすのはサリナだ。2人は同様に向かい合い、陛下は剣をうみ出した。




 もしかして、魔剣使い……?! それも、何も無いところから剣が出来るなんて……魔剣使いの中でも珍しいというのに。






「え?! 嘘?! まじかよ!」


「これは公にはしていないから、秘密事項だ」


「いやいや、ルカに続いて陛下もバケモンじゃないっすか!」


「本気を出すのは久々だから、どうかな?」


「こうなったら、俺も本気で行くしかないっしょ!!!!」


「当たり前だ。かかって来い」





 カンは足を大きく開き姿勢を低くし、剣の柄を身体に引き寄せる。






 ピーーーーーー!!!!!!




 音が鳴ると同時に、カンの足元の地面がボコッと突き出る勢いのまま陛下に飛び掛った。





 カンは50メートルという距離を一気に縮めた……!!地面で押し出す力を利用してスピードを上げたのか!






 カキィィィン!!!!

 剣と剣がぶつかり合う。陛下は少しづつ後ずさっていく。

 力はカンの方が上だ!! カンの見るからに重そうな両手剣に圧倒されている。







 すると、カンの頭上に数本の氷の刃が現れた。

 それに気付き、間一髪で後ろに避ける。カンの剣は空中へ投げ出され、カンは綺麗にバク転をした。




 地面に突き刺さる剣。それを植物が手元へ運んだ。カンがパシッと剣を握ると、陛下が次の攻撃に出る。





 攻撃の間の時間が一瞬で、瞬きを我慢した目が乾いていく。






 陛下が地面に剣を思い切り突き刺すと、氷の刃が次々と下から突き出る。





 バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!!!






 凄い音を立てて階段上にどんどん高く刃が伸びていく。

 カンの足元まで凄い速さで襲いかかる……!!!!

 災害級の攻撃に、足が震え立っているのがやっとだった。







 カンは氷の刃が突き出る地面ごと浮かせ、陛下の方へ刃が向けられた。

 陛下が危ない……!!あれに押し潰されれば、即死だ。一瞬足りとも目が離せない。








 一瞬にして氷が水に変わり、地面諸共泥になる。氷の壁を作り、泥が壁に当たって飛び散る。とてつもない泥の量が僕達の方へ飛んできた……! ルカニエが即座にバリアを張り、ビタビタと泥が当たる音が響く。はやくこの戦いが終わりますようにと、願ってしまった。






「なかなかやりますね」


「勝負はこれからだそ、カン」


「もちろん!! 余裕でいられるかな?!」




 陛下の足元が山のように盛り上がった。落ちる……!!!!

 と思いきや、氷で滑り台を作りスルスルと滑っていく。華麗に降り立つ陛下は、戦い中ずっと美しい。荒々しいカンとは正反対で、魅せられる。




「それだけか?」




 陛下はそのままカンの方に向かって地面を氷にして、滑っていく。





「まだまだアア!!!!!!」





 ドオオオオオオンと地面が割れる音と共に、下から生えたツタが陛下を縛り上げる。まるで生きているかのように、ウネウネと動いている。徐々に陛下の首を絞めあげて行く……!





「くっ……!!」


「抜け出せるかなアア?!」






 陛下を縛る植物が見る見るうちに凍っていく。純度が高く薄い氷が霜のように見えるくらいだった……ただ凍らせるだけじゃ、余計に苦しくなるだけ。



 絶妙な加減が陛下には可能ということか……!




「な?!」





 凍った植物がパラパラと崩れていく。カンは予想にしていなかったようで、かたまっていた。




「今度は私の番だっ!!」







 再び2人の剣がぶつかり、離れてはぶつかり……余りにも早すぎて、残像が見える。音が耳に響いて、余韻が残って耳鳴りがする……




 陛下は魔剣使いだ。氷でできた魔剣が、伸びたり縮んだりして生きているようだ。今度はカンが押されている。







 そしてその間に、カンの周りを針のように鋭い氷が囲っていく。




 剣の相手で必死になっているカンはそれに気付いていない……!!



 串刺しになったカンの姿を想像してしまう。どうか、踏ん張って……!!!!





 遂にカンが伸ばされた魔剣に弾き飛ばされ、木に背中を強く打ち付けた!




「かは……っ!!!!」






 そのままバタリと倒れてしまうが、すぐに起き上がると無数の氷の刃に気が付き、防御魔法で瞬時にバリアを作った。両手剣で前を守る。







 するとまだらなバリアの薄い部分を、1つの氷が突き抜けてしまった。



 カンの右肩をグサッと貫き、膝から崩れ落ちた。右肩からドクドクと血が流れ出る。





「くっ……まだまだ!!」





 痛みに耐えながら、陛下に向けて剣を振るが……力が入らず弾き飛ばされる。カンの喉元に陛下の剣が宛てがわれた。






 カンが、負けた。





「どうやら私の勝利のようだな」


「完敗っす……」


「突き刺して済まない。傷口を凍らせておこう」




 僕達は2人に駆け寄った。



「カン! 大変……ほら、ポーションだよ」


「あ、ありがとうございます……」



 僕が渡したポーションを一気に飲み干した。



「不甲斐ないっす……」


「相手が陛下だったんだから、寧ろ凄かったよ!」




 すぐにフォローするが、悔しさが表情から溢れ出ていた。




「ここまで手強い相手は久々だったぞ。私も危なかった」


「そうですかね……」


「本当にすごかったです! カンの実力も想像以上でしたよ」





 陛下もサリナも予想以上の実力に感心しているようだ。僕も鼻が高いな。こんなに凄い2人が僕を守るために命を捧げてくれたんだ。




「決めたよ。ルカニエは戦闘班、カンは救護班としよう」


「戦闘班がよかったのに!!」


「いや、水属性の魔物に大地の属性は弱いんだ。しかも植物とそのはやさが救護に向いていると思った」


「私もそう思います! 救護班は救護班ですごいメンバーなんですから!」


「それならいいか。頑張るっす!!」





 相変わらず切り替えのはやいものだ。救護班なら、少しは関われるよね……? カンの顔が見れたら安心出来る。

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