第33話 安穏

 休暇の初日に僕が部屋で休んでいると、陛下が入ってきた。


「陛下、どうされましたか?」


「……そなたは兄を見てどう思った?」


「優しそうなお方でした」


「優しい……まあそうだな」


「お2人はそんなに関わりがなかったんですよね?」


「あ……ああ。ほとんど話したことはないな」



 ん?何か違和感を感じた。なぜ動揺されたのだろうか?僕に嘘をついているように見える……こんなこと今までなかったのに。以前話しかけていた、秘密の事と関係があるのだろうか?



「陛下……以前話しかけていた話の続きは……」


「そうだな……ちょっと今それを話せる状態じゃないんだ。すまない……少し1人になりたい。庭に散歩へ行ってくる」


「わかりました。お気をつけて」


「ありがとう」



 どうしたのだろうか。今が1番辛い時なのでは? 僕を頼ると約束したじゃないですか……どうして……胸が苦しい。所詮僕はただの補佐官なのか。何も教えてくれないなら、どうすることも出来ないじゃないか。いや、今はただ1人になりたい時なだけなのかも……僕にはわからない。辛い時はいつだって、誰かと一緒にいたいと思うから。



 陛下は僕じゃない。別の人間なんだ。違って当たり前じゃないか……今は僕に出来ることなんてないんだ。でもなんで、僕の部屋に来たのだろうか。僕が聞いたのが悪かったのかな? 聞かなかったら、たわいもない話をして、心を落ち着かせていたのだろうか。







 カンは流石の長旅に疲弊して眠りこけっているし、ルカニエはまたドラゴンの訓練をしている。僕は1人、部屋でこうして寂しく物思いにふけっている。









――――――――――――――――――――


 あれこれ悩んでいると、いつの間にか寝てしまったみたいだ。1日休んだくらいでは、疲れが取れない。未だに身体がだるい。あれだけ望んでいた旅だったが、こんなに疲れるものなのかと思った。



 もう夕方か……座ったまま寝てしまっていたから、身体がかたい。僕も外に出て散歩をしようかな。




 トボトボと庭を歩く。すると陛下が座って寝ているのが見えた。

 まだいたんだ。何時間も外で座っているなんて、休めているの? 心は休めたのだろうか。声を掛けるべき? 起こさない方がいいよな……そう思い通り過ぎようと歩いていると、陛下が起きてしまった。



「?……アシュか」


「あ、はい……眠りを妨害してしまってすみません……」


「いいんだ。そなたは少しは休めたか?」


「気づいたら寝てしまってて、身体がかたくて少し歩こうかなって」


「そうか。長旅だったからな。お疲れ様」


「ありがとうございます……陛下は部屋で休まれては?」


「今は外で風に当たりたい気分なんだ」


「そうですか……1人の方が楽ですか?」


「いや、寂しくなってきていたところだ」


「本当ですか? 陛下は辛い時僕に頼ると約束されていたのに、僕は必要ないのかと……」


「そうか……そんなことを考えていたのか。私のせいだな。少しだけ1人になりたかっただけだ。今はそなたが来てくれて嬉しいんだ」


「それならよかったです」



 あれだけ悩んでいたのに、陛下の気持ちがわかるとホッとした。そういう事だったんだ。やっぱり人って気持ちを伝えないとわからないよね。




「あの時せっかく話す心の準備ができたというのに、今は長旅で気を張っていたせいでこんな状態だ」


「無理もないです……」


「正直兄とはあまり会いたくないんだ。理由は今度でもいいか……?」


「勿論ですよ。その秘密とやらに関係あるんでしょう?」


「はは、その通りだ。夕食時にまた会わないといけないのが、とても憂鬱でな」


「わかります……会いたくない人と会うのは疲れますよね」


「そうだな……困ったものだ。彼が全部悪いわけじゃないし、今こうやって国のために協力してくれているから無下にはできない」


「そうですね……」


「2人でデートにでも行きたいものだな」


「デ……?! ま、まあそうですね……変装したらデートになりますもんね……」


「また連れていってくれるか?」


「もちろん。どこに行きたいですか?」


「そうだな……馬に乗るのはどうだ?」


「いいですね。乗馬は好きです」


「そうか。では2人で並んで馬を走らせよう。そして、自然を感じて頭を空っぽに……」


「楽しみです。明日はさすがにまだ疲れてるでしょうし……明後日とか?」


「そうしよう。約束だぞ」


「陛下は約束が好きなのですね」


「そうかもしれないな」



「少し聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「最近陛下、髪伸ばしてるじゃないですか。なんで急に伸ばし始めたんですか?」


「結構伸びただろう? ただの気分さ」



 肩にギリギリ付かないくらい伸びた髪を後ろで結っている。陛下はどんな髪型でも似合うだろうな。






 僕達は無事夕食を終え、静かな1日を過ごした。









――――――――――――――――――――



「ルカ、ドラゴンの訓練の進捗状況は?」


「順調ですよ。背中に乗って空を飛んだり、威力はそこそこですが、火を噴いたりは出来ます」


「え、それってもう十分じゃない?!」


「いや、炎のコントロールが上手く出来ずに分散してしまうので……」


「そっか……なかなか時間がかかるんだね」


「ドラゴンの育成なんて初めてですからね」


「そっか……今度会わせてくれるんだよね?」


「この休暇中にでも会ってみますか?」


「いいの?!」


「キャッツクロウのギルド長は大丈夫でしたが、どうでしょうね……危険なら中断します」


「ありがとう! 楽しみだな〜」


「いつがよろしいですか?」


「明後日は陛下と2人で出掛ける予定だから、3日後は?」


「いいですよ」


「じゃあ決まりだね!」





 久しぶりの休暇は充実した日々になりそう。楽しみなことがいっぱいあって幸せだー! すっかり僕も有名人になっちゃって、感謝されたり賞賛されたり……こんな僕がだよ? 考えられないよね……。長旅で実感させられた。





 辛いことも多々あったけど、こうやって乗り越えられているのは皆のお陰だ。なんだか急に大人になった気分で、変な感じ。

 もう家を出て1年3ヶ月か。あっという間だった。濃い毎日で、怒涛の日々だったなー。よく頑張ってるぞ、自分。




 明日も1日ダラダラ過ごすぞー……おやすみなさい。

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