第19話 社交界
あれからこれまで通りの忙しい日々が続いた。
今日は待ちに待った社交パーティー。帝国で行われる盛大なものだ。
帝国と、帝国に属属する2つの王国から王侯貴族達が集う。残念ながら知っている人は皇帝のみ。そりゃあ緊張するよね……。
皇帝の皇宮で行われるため、転移魔法で首都まで昼のうちにやってきた。また同じように休憩して、今に至る。
「ルカ、カン、ついにこの日が来ちゃったよ……」
「一夜だけの辛抱ですよ」
「美味しい食べ物がいっぱいあるんすよね?! 楽しみ〜〜」
「カンと居ればちょっとは落ち着けるかも……」
「へへ! でしょ? 楽しく行きましょ〜! なんかあったら陛下がなんとかしてくれますって!」
「そ、そうだね……服装大丈夫だよね?」
「この国の一員って感じがします! イカしてますよ☆」
「いつもより一層素敵ですよ、ご主人様」
「ありがとう。自信持たなきゃね。……ふう。行こっか」
今日は偉大な陛下の凄腕補佐官になったつもりで行こう。
調子に乗るわけじゃくて、それくらいの自信は持っておこう。
「準備出来ました」
「おお、様になってる。行こうか」
「アシュ、かっこいいですよ! 大丈夫、私達が付いてますから」
「ありがとうございます、先輩」
少しの距離を馬車で移動する。パーティー会場へ向かう馬車が次々と並んでいる。陛下ということもあり、ほかの貴族達より先に案内され中へ入る。
一度来た場所だけど、社交場へは初めて来たから別の場所に来たみたいだ。規模が本当に大きいな。1000人どころじゃない、万と言っていいほどの人数が入れるのではないかと思うほどだ。
美味しそうな食事や飲み物がズラリと並んでいる。国王が続々と集まっていき、陛下と一緒に挨拶回りをする。
国王の中には僕たちに敵意の視線を送る方もおられた。
同じ帝国だからといって、皆が友好的である訳では無いんだな。それぞれの関係性も、社交界ではよく見えるものだ。表向きでは何気ない会話でも、よく観察してみたり言葉の意味を考えると自ずと理解出来た。僕は社交デビューした身だから、波風を立てず大人しくしていよう。
そして、スイメイ王国の大公であるドマドフ・チャッカマンが来られた。彼は事前に要注意人物として教えられていた。陛下のことをよく思っていない反対勢力の中心人物だという。陛下の失脚をここぞとばかりに狙っている悪いやつ。
陛下のバックには皇帝・魔塔という強いメンバーが立っているため、なかなか手出しが出来ずにいるらしい。しかし、神殿における陛下側の人間は教皇だが、枢機卿は大公の側についているという噂もある。
枢機卿が教皇を騙し、陥れることも可能だということだ。
「大公、会えて嬉しいよ」
「私もです、陛下」
「お初にお目にかかります。アシュ・クイックと申します。ドマドフ・チャッカマン大公殿下」
「ああ、私も会えて光栄だ。君が噂の新しい補佐官かな?」
「その通り。私の優秀な補佐官だ」
「そうですか。これからが楽しみですな。しかしこんな若者が国の長の補佐官とは。時期尚早……ではないでしょうか」
「忠告感謝する」
「では」
明らかに敵視していることがわかる。陛下と言えども絶対王政ではないのだぞという考えをヒシヒシと感じた。
それから次々と貴族達が入場し、パーティー開始時間になった。
皇帝が吹き抜けの2階へ上がり、挨拶を始めた。
「諸君、全員揃ったようだな。今回がデビュタントの者もいるだろう。皆のために豪華な食事を用意した。今夜が輝かしい夜となるよう楽しんでくれ。」
皇帝の挨拶が終わると、皆が一斉に礼をした。
皇帝は1階まで降りていき、他の貴族との会話を始めた。
参加者達は次々と食事や飲み物を取り、会話を楽しんでいる。僕のことをチラチラと見る人も多く、注目されていることが分かる。
記事のこともあり、皇帝の挨拶が終わると同時に貴族の令嬢達が僕の周りに集まってきた。次々と自己紹介をされ、僕に取り入ろうと必死だった。
「想像以上に美しいですね」
「そうですわね……記事で書かれていたとおりですわ!」
「結婚は考えてらっしゃるのですか?」
こういったように多方面から話しかけられ、目が回るようだった。ルカとカンもその集団に飲み込まれる。陛下も思った以上の反応だというように、少し戸惑っていたが僕を助けてくれた。
「ご令嬢たち、彼は社交界が初めなものでお手柔らかに。記事で興味を持ってくださったようで嬉しい限りだ」
陛下がそう言うと、陛下の方にも質問攻めになり、ふたつの集団が出来た。10分ほどその相手をしていると、皇帝がこちらに話しかけてきた。
「早速人気者だな」
皇帝がくると、騒いでいた令嬢は一気に静かになった。
「光栄です……」
「記事を拝見した。なかなかいい記事だったぞ」
「ありがとうございます」
「始まりを飾るには絶好の機会だな。この者たちを見るに、好感触のようだな。ところで、ソウを借りても?」
「も、もちろんです!」
「行って大丈夫か?」
陛下は心配そうに僕を見つめる。さすがに皇帝の誘いを断らせる訳には行かない。
「2人がいるので……なんとか耐えます」
「疲れたら窓の外へ出るといい。カーテンを閉めれば誰も入ってこない」
「わかりました。ありがとうございます」
「では行ってくる」
名残惜しそうに陛下は皇帝と歩いていった。
そして僕はは30分程度令嬢達の相手をして、限界が来たためバルコニーへ逃げ込んでいる。
ルカとカンが代わりに質問攻めにあっている事だろう。
申し訳ないが、彼らもいざとなれば逃げることが出来るだろうし、大丈夫だろう。彼らは僕より何年もこの世界で生きてきたんだし。
「あ、飲み物…」
取りに行きたいけど、また人が集まってきたら対処できないだろう。仕方ない。ここで時間を潰すしかないな。ここは静かだ。
窓の向こうではあんなに大勢の人達が話をしているのに。やっぱり僕は静かなところが好きだな。好奇の目にはまだ慣れない。
ガチャッ
窓が開いた。誰だよ……勝手に入ってきたのは。ちゃんとカーテンも閉めたのに。そう思いながら、後ろを振り返ると陛下だった。なんだ。びっくりした。
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