第20話 陛下と過ごす静寂
「へ、陛下でしたか……もうびっくりさせないでくださいよ」
「すまない。でも合図もなにも決めてなかっただろう? ほら、飲み物を持ってきた」
「えー! テレパシーでも使えるんですか?!」
「状況を考えればわかる事だ」
「ありがとうございます……でもお酒はまだ」
「お酒じゃないよ。ジュースを持ってきた」
「あ、ありがとうございます。子供みたいですよね……」
「そんなこと思っていない。私も初めてお酒を飲むまで勇気がいったからな」
「陛下も……? そうだったんですね。よかった」
グラスを受け取り、1口含む。美味しい。
「お腹も減っただろう? なにか取ってくる」
「え、でも……僕が取りに行きます」
「飲み物も取れずにここで時間を潰していたのにか?」
「う……痛いところを付かれましたね」
「大丈夫だよ。私は人をあしらい慣れているからな」
「ふふ、それ自慢するところですか?」
「はは、確かにな。とりあえず行ってくるからこれを持っていてくれ」
そういって陛下の飲み物を持って待つ。
カーテンが再び閉められてしまったため、中でどうなっているかはわからない。
数分が経ち、陛下が戻ってきた。両手にお皿いっぱいの食べ物を載せて。
「え?! 盛りすぎでは?」
「いいだろう。そなたは痩せすぎているから、もっと食べた方がいい」
「大きなお世話です……」
「はは、そなたも生意気なことを言うようになったか」
「嫌でしたか?」
「いや、寧ろ嬉しいよ。わかるだろう?」
「はい。そうだと思ってました」
「そなたはなんでもお見通しか」
「そんなことないです。まだ僕は陛下の一部しか知らない……」
「そなたには一番自分のことを話しているんだが?」
「本当に?」
「ああ、本当だ。サリナが嫉妬するだろうな」
「サリナ様はずっとそばで陛下を支えてきた方ですからね。でも、正直嬉しいんです。信頼されるって、中々ないことですから」
「そうだな。無意識のうちに他人と壁を作ってしまっていた。サリナのことを信頼していない訳では無いんだ……ただ、サリナには言いにくいこともある」
「誰しも相性ってのがあるんじゃないですかね……たまたま僕と気が合ったのかも」
「そうなんだろうか……自分の事さえよくわからない」
「僕もそうです。最近なんでこう思うんだろうとか、自分の行動が理解できなかったり」
「そうそう。おかしな話だな」
バルコニーには1つテーブルが置かれていたため、そこに置いて食事を取る。
「皇帝が静かな部屋を用意してくれたんだが、どうだ?」
「そうなんですか……でも、風邪に当っていたくて。ここに居たいんですけど、皇帝の気を悪くさせてしまうでしょうか……?」
「いや、そんなことはない。ただの提案だよ。そなたがここでいいならいいんだ」
「陛下は行かれますか?」
「いや、いい。そなたと一緒にいたい」
「え……? あ、あんまりそんなこと言わない方がいいですよ」
「なぜだ? 本当のことなのに?」
「勘違いします……」
「私をそういう目で見ていると……?」
陛下は意地悪な笑顔で僕を真っ直ぐ見つめた。
このよく分からない気持ちが、僕に説明できるはずがない。
「いや、どうでしょうか。僕に恋愛はまだ早い気がします」
「恋愛に歳なんて関係ないさ」
「そうだとしても、僕にはまだわからない」
「そうか。これから知っていくといい」
「陛下は恋愛したことありますか?」
「ないよ」
「じゃあわからないじゃないですか!」
「いや、恋をしたことはないが、されたことは多いからな」
「どうしたんですか?」
「断るだけだ」
「そんな……」
「好きでもないのに受け入れた方が失礼だ」
「確かにそうなんですかね……」
「そういうものだよ」
陛下は僕のこと恋愛で見てますか?聞きたいこの言葉が口に出ることはなかった。この疑問は胸にしまっていよう。いつか聞けるといいな。
料理が思いのほか美味しくて、気づけばほとんど平らげてしまった。緊張がほぐれたのもあるのかもしれない。
「珍しく食べたな。王宮の料理はあまりお気に召さなかったかな?」
「いや、そういう訳では……! ただ、今日は特に気を張っていたので。今余計に食べたくなったんです」
「そうか。そんな時もある。たまにはこれくらい食べなさい」
「ふふ、何だか親みたいですね」
「そんなに歳はとっていないぞ」
「わかってます。両親によく言われたもので。なんだか懐かしくて」
「そうか。家族に会えなくて寂しいか?」
「いや、それはないですね。今までずっと一緒だったし、今は2人の時間を大切に過ごして欲しいです」
「本当にそなたは時に何歳かわからないような言動をする」
「それが僕のいい所です」
「はは、そうだな。……さて、片付けてくるよ」
「何度も申し訳ないです……」
「そこはありがとうでいいんだ。謝られるのは好きじゃないんだ」
「わかりました……陛下、ありがとうございます」
「いいんだ。私が好きでやっていることだ」
そして陛下が戻ってくると、一緒に皇帝陛下も来ていた。
「パーティーはどうだ? 楽しめているか?」
「はい、楽しいです。ただ、慣れない環境なので少し疲れてしまって……」
「それは無理もない。記事のおかげかいい印象が持たれたようだから、収穫はあったんじゃないか?」
「全くその通りです。今日やるべき事はもう済みました」
陛下がそういうと、皇帝陛下は満足気に言った。
「ではまた会おう」
「はい、失礼致します」
✦︎✧︎✧✦
「あーーーー疲れたーー!!」
「ご主人様がそこまで疲れいてる姿は初めて見ます」
「ルカも疲れたでしょう?」
「まあ、少しは。それよりご主人様のお役に立てたので嬉しいです」
「ありがとね。ご令嬢達の相手してくれたもんね。カンも」
「慣れないことだったっすけど、 女性にチヤホヤされるのも良いもんでした!」
「はは、カンは恋愛に興味あるの?」
「ないっすけど、たまにはこういうのもありだな〜って感じっすね〜」
「そっか」
「ご主人様は陛下と2人で長い間バルコニーに居ましたが、何を話していたんですか?」
「何気ない会話だよ。陛下も騒がしいのは苦手みたい」
「そりゃあ国王っていう肩書きがあるっすからね。皇帝とも仲良いから、冷たい目で見られることも多そうっすね」
「そうだね。イメージ通りの国王らしく振る舞わないといけないだろうし」
「もう夜遅いし寝ようか」
「おやすみなさい」
そして、僕の長い長い夜が幕を閉じた。
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