第49話 魂



「アシュ様……これは憶測の話なのですが……もしかしたら、身体の中に入ろうとしてみたら……何かが起きるかもしれません」



 なるほど。やってみる価値はあるよね。



「お気をつけて……あなたの身体のことは私たちに任せてください」



 ありがたいな。陛下の周りにいる人達はとても温かい。陛下がそうさせたんだ。僕も頑張らないと。陛下をこれ以上苦しませたくない……。まさかこんな事になってしまうなんて……。







 じゃあ、やってみるか……







 僕は恐る恐る僕の身体に入ろうとしたが、すり抜けて何も起きない。




 あれ?





 うーん、勢いよくやってみたらいいのかな?









 そして、僕は部屋の端まで飛び、僕の身体目掛けて飛び込んだ。










 ブワァァアアッ!!







 な、何?! 突然闇の魔力のような濃い紫のオーラに包まれ、真っ暗な世界にきたようだ。







 ここはどこ……?





 何も見えない。







 すると目の前に魔法陣が現れ、あの時の悪魔が現れた。




「また会ったな小僧。思ったより早かったじゃねぇか」


「えっと……ここは?」


「異空間……とでも言っておくか。お前に試練を与える。これをクリアしたら戻ってよし」


「試練って……?」


「試練っつうのは俺様が決める! 上級悪魔様だからな!!」


「なっ……そうだったんですか……」


「俺様はただ面白いもんが見てぇんだ。人間が苦しむ姿がみたい。お前の……苦しむ姿がな!」


「また……僕は苦しまないといけないんですか」


「そう落ち込むな。それを耐え抜けばいいんだ。お前は中々の精神力を持っているようだから、大丈夫だろう」


「そんなはず……」


「俺様の闇の魔力と共鳴したんだ。くっくっくっく……思い出しただけで笑える」


「笑い事じゃないです! 僕は生きて……陛下との人生を……」


「わかったわかった。じゃあさっさと行ってこ〜い!!」


「え、う、うわぁぁああ!!!!」






 視界が渦をまくように、グルグルと歪んでいく……。













 ここは……


「陛下!!」


 ガバッ


「おおっ……どうした? アシュ、何かあったか?」


「うぅっ……会えて嬉しいです……」


「何を言っている? いつも会っているじゃないか」


「へへ、そうでした……」




 やっぱりここは、現実じゃ無いんだ。でも、陛下に触れられて幸せだ。



「キス……して欲しいです」


「そうか……じゃあ、そなたからしてくれるか?」


「えっ」


「そなたがしたいのだろう? さあ早く」


「陛下のいじわる……」


「私ばっかりじゃつまらんだろう」


「そんなこと……!」


「あ〜アシュからはしてくれないのか……」


「もう! わかりましたよお!」


「ふふ」




 なんて幸せなのだろうか。これが現実なら……いいのに。




 陛下とのキスが久しぶりかのように、僕は陛下を求めた。


 嘘でもいいから、今は陛下を感じたい。






 自分から口付けをして、舌を入れてみる。彼女は少し驚いたような表情をして、彼女も舌を絡めてくる。





 温かくて、優しくて、濃厚なキス。




 何回やっても慣れない僕は、ぼーっとする頭で必死に食らいつく。






「はぁ……んぁ……はぁっ……」





 この時間が永遠に続けばいいのに。でも、これは現実じゃない。




 こんなに温かくて、陛下に触れられるのに……。





 僕はいずれ終わるこの偽りの時間を、噛み締めた。





 もっともっと、感じたい。まだ足りない。





 近くにあった机に腰掛けさせられ、深いキスが続く。




「はぁ……好きぃ……です……」


「わたし……も……はぁ……」






 すると僕の上の服のボタンを外され、上半身が露になる。



 え、ちょっと待って? こんな展開初めてすぎる……どうしたら……?!



 彼女も上の服を脱ぎ始めた。





 僕は訳が分からず、彼女を押し退ける。



「ちょっ……ちょっと!! ここからはまだ……」


「なんだ? いつもしているだろう」


「してません! まだ……してない!」


「なんだと……? 何を言ってるんだ? アシュ、こっちを見てくれ」


「や……まだ早いですぅ……」


「私を求めてくれないのか……?」


「ど、どういう事ですか?!」


「私を愛しているなら……抱けるはずだろう」


「まだ心の準備が出来てないって……」


「うるさい!! 私を……抱いてくれ……」





 知らない。こんなのおかしい。怖い……! 陛下の目がヤバい。




「いや! 陛下、頭を冷やしてください……!」





 陛下の口から目から、血が流れる!!




「ァァァァァアア」





 怖い!!!!







 なんなんだよー!!!!!!















✦︎✧︎✧✦






「はぁ……はぁ……?」



 ここは……?





 真っ暗だ。また……? 悪魔が来るの?














「陛下!!!!」





 陛下が遠くで歩いている。僕は走って追いかけるが、追いつけない。




 僕の事を見向きもせずに……。





「陛下! 陛下……! はぁ……はぁ……うぅ……っ! 」








 体力のない僕は、ついにその場にへたり込む。



 すると陛下は立ち止まった。ああ、よかった!!!!そう思って、陛下の元まで走った。




「陛下!!!!」




 振り向いた陛下は、陛下ではなかった。顔全体が真っ黒で……真っ黒で……








 それで…………。













 それから僕は終わっても、終わらない架空の世界を行き来した。














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