第2話 募集(ヒロイン登場)
――その頃ヒョウガ帝国スイメイ王国の国王執務室――
「はぁ……」
昼食を終え、椅子にどかりと座り込んだ。頭を悩ませため息がこぼれる。
「知ってました? ため息をすると幸せが逃げるんですよ」
私の隣で窓を開け、景色を眺めている。
「そんな根拠もない噂を信じるのか?」
窓から見えるのは、私の母親が大事にしてきた庭園。
1面に咲く水色のバラはとても美しく、魔力が含まれているため枯れにくい。
「ため息を聞く私がいい気分では無いので、あながち間違いでは無いかと」
そう私に言い返した女性は私の補佐官であるサリナ・ベクトルだ。外は晴れており、涼しい春の風が吹く。右に垂れる1つに束ねた三つ編みの金髪が揺れる。
「ハハッ! それはすまない。しかしため息をつかせるのは誰のせいだと思う?」
そう私が呟くと、サリナは眉間に皺を寄せた。
「なんですって?! 私が嫁ぎに行くのを許可してくださったのはあ・な・た ですよ! ソウハン・エルギール国王陛下」
「わかってる……サリナには幸せになって欲しい。だがこんな人材を手放すなんて」
右肘をつきおでこに手を当てる。自分の黒い前髪が視界に入る。我ながら嘘をつくのが上手い。
幸せになって欲しいのは本当だが、そんな理由だけで解雇するはずがない。
「フフ……まあ女性で国王の補佐官を務める者はわたしの知っている限り、私だけですから。というか、補佐官を辞めさせてくれる上司はこの世界にはいません。辞めるからにはいい人材を探します」
誇らしげにサリナは笑った。
「ありがたいよ。さて、あと1年だな……それまでに見つけねばならん」
結婚式を挙げれば、サリナは嫁いでしまう。
同じ帝国の隣の国の公爵家に嫁ぐなんて思いもしなかった。
隣の国が栄えるのは嬉しいことだが、我が国を越されては困る。
先代国王が創り上げてきたこともあるが、サリナの手助けもあり、帝国一栄える国として有名になったのだから。
「しかし補佐官試験の結果が合格者0か……しかも面接さえ出来ずに」
【補佐官募集条件】
・忠誠を誓えるもの。
・国のために最善を尽くせるもの。
・身分は問わないが身辺調査を行う。
・外部に情報を漏らさないこと。
・住み込みで働けること。
・契約時には魔法契約書を交わすこととする
第1段階:筆記テスト(知識量を試す)
第2段階:面接(臨機応変に対応できるかを問う)
第3段階:国王陛下と謁見
試験を1か月前に行ったところ、参加者は1000人ほど。
その中で第1段階を突破したものが1人もいなかった。
「貴方の求める基準が高いんですよ……まあでも1回目ですし。この国の者限定で募集したので範囲を広げるしかないですね」
「身分は関係ない、実力があればいいんだ」
「平民は学ぶ機会がありませんから。結果的に貴族になるでしょう?」
「学校があるだろう」
「学校に入るのも読み書きができないとでしょう?
他にも条件がありますし……平民は居るにしても少ないです」
「確かにそうだな」
なかなか代わりのものを見つけるのは一筋縄ではいかないな。
分かってはいたが、現実を突きつけられると痛感する。
「私の秘密がバレてしまわないようにしなければならないし、すぐに辞めさせる訳にもいかないだろう? 簡単には決められない」
「そこが1番の問題ですよね……まさか国王陛下が女性なんて。身体付きは結構筋肉質ではないものの、男らしいのが幸いですね」
「褒めているのか?」
サリナに意地悪な笑みを浮かべた。
「もちろんです」
何故かサリナは誇らしげに笑った。手は少しゴツゴツしていて男寄りではあるし……身長も、家族みんな背が高いため私も175cmはある。
しかし裸を見られたり、寝巻きのサラシなしの状態を見られるとまずい。使用人もほとんど知らない。
「陛下がお強いから、補佐官は強くなくてもいいじゃないですか?」
確かにそうだ。私の家系の主属性は水で、属性が強いほど水色に近い色の眼をしているのが特徴だ。
そしてこの世界で数少ない魔剣使いでもある。
剣術に長け、剣をも自分の体の一部のように魔法で覆いながら戦う。生まれてから今まで、親の言う通りにしてきた。強い自分も、そのお陰だ。でも、時折虚しくなる。
私はただの操り人形として、死んでいくのか?
それにしても……国王陛下の補佐官となると、業務量も多いし忠誠を誓わねばならないため、長い間拘束されることになる。
「はぁ……諦めてはならん。また募集をかけるぞ。次は隣国で」
「お任せ下さい! 私も諦めません!」
そう言って、サリナは無邪気に笑った。
「そういえば……陛下は恋人とか作らないんですか?」
ずいっと顔を近づけられ、サリナの大きなピンク色の眼が私を見つめる。
「きゅ、急に何を……私は恋愛などに興味は無い」
「ふーん。でもヒョウガ帝国の皇帝が、" 国王や上に立つものの継承権は女性も有する" って内容の法律を作ってくれているでしょう? それができれば、陛下も女性ってことを明かせられるし。今からでも早くないのでは?」
皇帝は恐ろしい。仲がいいというのは体裁だけだ。
彼はただ面白がっているだけなのだ。わたしの奇想天外な行動を待ちわびている。私は籠の中のインコのように、喋らなければ価値は無い。
でも誰かに認めてもらいたくて、目に止めて貰いたくて奇想天外なことをしている自分もいる。それがとても滑稽に見えるんじゃないかとも思う。
「確かにそうだが、今頃女の格好など……」
「嫌なら私みたいにパンツスタイルで、女性の格好をしたらいいのです!」
「はぁ……考えておく」
恋愛か。悪くはないかも……?でも今更女らしく振る舞うなど、気恥しいではないか。そう振る舞う自分を想像しただけで吐き気がする。
とにかく今は補佐官探しと職務に集中しよう。
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