第5話 報告
それから、ルカニエが領主代理として仕事を行ってもらうにあたり、監視役を母が任命した。
唯一父と僕以外に財政状況を把握している執事長も、監視役として傍に置いた。
ここ数日、僕と執事長でルカニエが処理した書類を見直したが、特に怪しい点は見つからなかった。
共に領地の事業責任者などと挨拶に回ったが、特に挨拶以外でしたことはなかった。疑っていたのは気の所為だったのかと思うほど、平凡な毎日が過ぎていった。
1ヶ月がたった頃のことだった。
ルカニエがよく外出するようになったのだが、毎回監視役がルカニエを見失ってしまうという事態に。今日は陛下に報告をする日。
母と父の部屋に入り、遮断魔法をかけた。
「お父様、体調はどう?」
「咳は出るけど頻度は減ったし、熱も微熱だよ。
夜の咳が少し辛いけど…それより体力がかなり落ちたと思う」
「ほぼ寝てばったりだから仕方ないんじゃない?今は休んでもらわないと。それで悪化したら意味無いじゃない!」
母は心配げに言った。いつも父が風邪をひくと、こっそり仕事をしてたりしてたっけ。
それを母がみつけて、その度に怒られて。父はじっとしてるのが辛いみたい。
でもこんなことになったんだし、さすがに休まないとね。
「わかってるさ。2人には本当に感謝してるよ。ありがとう。それより、陛下に報告するんだろう?」
「うん。じゃあかけるよ」
執事長に通信鏡を持ってもらい、3人が見えるようにベッドの横に座る。
数秒ほど経ち、陛下と繋がる。
「「国王陛下にご挨拶申し上げます」」
「3人とも、いつもご苦労。ルーノは少し顔色が良くなったか?やつれているのは変わらないがな」
「お陰様で」
「さあ、最近の動向はどうだ?」
「実は1ヶ月は何も無かったのですが、ここ数日妙な動きをしています」
母が報告をし始める。
「はあ…予想通りか…妙な動きというのは?」
「頻繁に出掛けるようになったのですが、監視役を変えても、みな同じ結果なのです。数秒間の記憶がなく、その間に見失ってしまう。私も同じことになってしまいました。
1人をルカニエ男爵のそばにつけ、私は遠くから見張っていたのに……服従魔法を使えるのではないかと疑っております。
それも範囲がどこまでなのか……」
母は気配を消す能力が高い。それなのになぜ?
「なんだって……実際に使える魔道士はそうそういないぞ。」
魔法とは複雑で、難しい。そのため、服従魔法や転移魔法、強化魔法、変身魔法など、扱えるものが少ない魔法は数多くある。
その中でも服従魔法と変身魔法は別格だ。
使える者でも服従魔法では意識と行動同時には操れない。
そのため、ルカニエは意識の服従魔法を使ったことになる。
「もしかして……ここモルガ王国のギルド、キャッツクロウの主要メンバーだったり?」
ふと思い立ち、僕は呟いた。
この国のギルドで一番の勢力を持つ暗殺ギルド。
時には国の持つ情報を上回る情報量を持ち、どんな依頼でも、報酬が多ければなんでも受けるって言われてたっけ。
そんなギルドがもし関わっているとしたら、僕たちは暴けるのかな……
魔道士としてもトップレベルの実力を持つメンバーが何人かいるらしい。
そんなの勝てっこない。背筋にゾワッと寒気が走った。
「私もそう思ってしまった……そうなると納得がいってしまう。しかしなんの目的で?国を欺くメリットはあるのか……わからん」
「依頼を受けたんでしょうか……」
「もしそうなら、アルペンが脅かされてしまうな。その妙な動きの他になにか無いか?書類に不備があるとか」
話は聞いているのだが、ついつい考え事をしてしまう。
この国で一番広い領地でそんなことが起きたら……国の信用にも関わるよね?
もしかして、他の領地でもこんなことが起きてる?
「それがないのです……どこで何をしているのかはわからないのですが、仕事はきっちりこなしています。問題も起きてません」
「なるほど……そうなると、ただギルドに出入りしているだけという可能性もあるのか。とりあえず今は様子を見るしかないか……」
「もし怪しい動きを見せたら、魔法を封じる手錠で拘束してもよろしいですか?」
母は目付きを変え、拳を叩いた。
「必要ならしてもよいが、慎重にな」
「かしこまりました」
「あの、すみません。陛下、こんなことがほかの領地でも起きてますか?」
「いや、そのような事はないよ。でも、もしアルペンで問題が起きたら、ほかの領地も危ないかもしれない。だからこそ、徹底的に情報を集めるんだ」
陛下も同じこと考えてたんだ。
ダメだ、弱気になっては。僕たちで防いでみせる。
「では引き続き警戒するように。またなにか新しい情報があれば報告してくれ。ルーノは心配で手伝いたい気持ちがあるだろうが、ここは我々を信じてゆっくり休むのだぞ。無理は厳禁だ」
「わかりました。我慢します……」
「よかろう。第1騎士団のメンバーも数人よこすよ。では」
そう言って陛下の姿は消え、通信は終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます