第31話 奮起
津波でボロボロになってしまった家々を、修復魔法でなおす作業を行っている。規模が大きい災害ということもあり、完全に修復するまで3ヶ月〜半年かかると予想される。その魔道士達の中にカンと両親、ベル二が含まれており、夕食前に返ってくるとのことだった。
ルカニエは、地震と同時に引き起こった火山の噴火により産まれた、魔物達の討伐へ向かっている。
治療の手伝いくらいしかすることが無い僕は、他になにか出来る事はないかな……。
そうだ、災害関連死を防ぐためにできることを探そう。災害関連死とは、長期の避難生活が原因で亡くなるものだ。
主な原因は自分の薬が飲めないことでの持病の悪化、ストレスによる身体的な異常、自殺、衰弱死、過労死など……。不衛生な環境も原因になるという。これらの対策がどこまで行われているのか、先に確認しよう。
僕は統括のリーダーに話をしに行った。リーダーの話では、衛生面の対策に関して言うと不十分な点があった。トイレの清掃や外の大きいテントでの簡易風呂での入浴が出来ている。しかし、皆のこまめな手洗いは行っていないようだった。
食事面では他国からの物資や、キッチンの設備により問題はなさそう。
持病の薬に関しても、医者がちゃんと把握していて手配も出来ているとのことだ。
あとはストレスに関して。これは、辛い感情を吐き出す場所がないから不十分だと感じる。僕はここに対してアプローチする事にした。
まずはドーソンを探そうとキョロキョロ周りを見渡していると、誰かが声をかけてきた。
「アシュ様」
その方向を見ると、ドーソンだった。
「あ! 丁度探してたんです」
「そうでしたか? しかしお目覚めになって本当によかった」
「ありがとうございます。それより、ちょっと相談が」
「なんでしょうか?」
僕はドーソンにその件について相談した。
「なるほど……対策はしっかりしているつもりでした。しかしストレスに関しての対策は、確かにちゃんと出来ていないですね」
「精神科医の方にも協力を仰いで、悩みを打ち明けられる場所を作りましょう。ドーソンさんも適役だと思うんです」
「私ですか……? まあ確かに、災害のボランティアによく参加していましたから。そうとも言えるでしょう。アシュ様も適役だと思うのですが、いかがですか?」
「僕ですか……? 何ででしょう?」
「貴方は少女を救った。それに、人の痛みがわかるお方だ。話を聞くのも能力が必要ですが、貴方にはそれがある。辛くなったら辞めたらいいのですから、1度やってみては?」
「そうですね……僕がなにかの役に立てるなら喜んでしましょう。ではリーダーの方に相談しに行きましょうか」
「そうですね」
リーダーに相談すると、快く受け入れてくれた。精神科医の方々にも協力が得られた。それを皆に発表するため、僕は前で話をする事になった。ドーソンが過去の訓練で言っていた僕の役割を果たす時が来た。
✦︎✧︎✧✦
「皆様にお話があります。少しお時間をいただけますか?」
僕が大きめの声でそう言うと、シーンと静まり返り皆が頷いてくれた。
「皆様これまで1週間という時間を、乗り越えてこられました。ですが、これはまだ始まりに過ぎない。魔導師の方々が、今一生懸命修復にあたっています。
あと数ヶ月、私たちは力を合わせて、乗り越えなければなりません。そこで、無事に避難したのに亡くなってしまう方が多くいるのですが、原因があります。
その中でもストレスでの身体的な異常と自殺……これに対しての新たな対策を行います。
精神科医の方と協力して、外にブースを設置しますので、悩みがある方は誰でもお越しください。
更に、精神科医ではないのですが……僕や災害のボランティアに各地で参加しているドーソンさんのブースも設置しますので、好きな所へいらっしゃってください。話は以上です。ありがとうございました」
そうして次々とブースが設置され、そこには行列。
おかしな事に、僕のところに1番行列が出来ていた。
「どうぞ」
「失礼します」
「僕は専門的な知識がないのですが……なぜ来てくださったのですか?」
「貴方が少女を助けた時、私も希望が持てたんです。夫が子供を守るために死んでしまいました……瓦礫の下敷きになって、子供は幸い助かったのですが……」
「そんな……」
「貴方はなぜ少女を助けたんですか?」
「僕しかいないと思ったんです。魔力が切れようとも、助かる命が優先です」
「貴方の行動が、私達の心をも救ったのです」
「それなら……本当に嬉しいです」
「アシュ様は……民謡を知っていますか? 過去の災害で、力を合わせるために彼らが歌ったものです」
「ああ、知っています。本に書いてありましたから」
「それを皆で歌いたい……」
「いいですね! 歌いましょう。僕は楽譜は読めないんですけど……1度聞いたら覚えられるので、良ければ今歌って貰えませんか?」
「勿論いいですよ」
♪我らこの地に産まれ 愛を育み この地を愛す
居なくなった 貴方を想い 今日も生きていく
世界が変わったあの日 貴方を飲み込んだあの日
忘れない 貴方の分まで生きて 生きて 生きるの――――――
本で見ただけだった。歌詞がどんどん心に食い込んでいく……気付けば一筋の涙が頬を伝った。当時の彼らはどんな思いでこの歌を作ったのだろうか。大切な人を失う気持ちは測り知れない。
歌というのは、すごい力を持っている。歌う人によっても、伝わり方が違ったり。歌で人の辛い気持ちを救うことだってあるんだ。
この状況で、この歌を歌うことがこの困難を乗り越えるには、大きな力になるだろう。
今日の夜皆が集まった時に歌ってみようかな。
一筋の光が、射し込んだ。
✦︎✧︎✧✦
これで8万字みたいです!!
ここまで読んでくださりありがとうございます🥰
小説家になろうでは、来週の日曜日に完結予定です。
完結までお付き合いいただけると、嬉しいです!!
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