第36話 本当の貴方
ドラゴンとの戯れが終わり、王宮へ戻るとえらく騒がしかった。何があったんだ? バタバタと使用人の人たちが走っている。
「アシュ様! 急ぎで陛下がお呼びです。先代国王が危篤です」
「え?! わかった! 案内してくれる?」
「はい! こちらです!」
「ルカ、ごめんね! 今日はありがとう。またね!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
僕達は早足で王宮内の先代国王の部屋へ向かった。先代国王は食事を取るのも1人でできなくて、誤嚥して肺炎になっていたけど……それが悪化して、もう助からない状態ってことだよね。陛下はどう思うのだろうか。仲が悪いと言っても家族だし、悲しいよね……?
なんて声を掛けたらいいのかな。黙ってただ横にいればいいかな。そんなことを考えていると、あっという間に着いてしまった。どうしよう。まだ心の準備が……
「こちらです。中は見ないようにと言われておりますので、私は失礼致します。開ける際はこちら側のドアをお開けください。アシュ様、アシュ様はいつも通り陛下に寄り添って差し上げるだけでよいのです。では」
「う、うん……ありがとう」
周りを見渡すが、誰もいない。あれだけ忙しくしていた使用人たちはどこにいるのだろうか。恐る恐るドアを開け、入ってから中を見た。
「アシュ……父は、家族以外入れるなと言っていてな」
……どういうことだ?
陛下が先代国王のベッドの横に……女性のドレスを着て……それに、なんて言うか……胸があるぞ?!
え、ちょっと待って……どういうこと? 陛下は女性なの? それとも魔法で? そんな魔法あったっけ?! わ、わかんないよ〜〜!!!!
「驚かせて済まない。隠していたことはこれなんだ」
「えっと……え、あの、あ……」
「落ち着いて。私は女なんだよ」
「……」
「開いた口が塞がらないとはこういうことだな」
「じゃあ……貴方が亡くなったとされていた……王女ってこと、ですか?」
「そういうことだ。私の本当の名前は、オレリア・エルギール」
「オレリア……」
「嫌いになったか? 男の私が好きだった……? はぁ。だから言いたくなかったんだ……嫌われたくない。そなたに嫌われたら……お終いだ。何もかも……」
「それが僕に曖昧な態度をとっていた本当の理由ですか?」
「そうだよ。しかも胸も小さいし、筋肉質だしか弱くない……女性らしいところなんて、何も……っ」
「貴方は……何も分かってない」
そんなことで悩んでいたのか? 僕だって……僕だって、僕が女だったらどれほどよかっただろうかと考えて。なぜ国王陛下という地位で、さらに男性を好きになってしまったのだと。悩んで、悩んで、悩んで。
国王陛下が子供をつくらないなんて言語道断。僕と一緒になれば、批判殺到になるだろうと思っていた。僕と結婚して、新たに女の人の側室も迎えて、その女の人と子供を作る。そんなの、耐えられるはずないじゃないか。
今女性と聞いて、どれほど嬉しいかわかりますか?
「貴方だから好きなんです! 僕はなぜ男の人を好きになってしまったのかと……ずっと悩んでいたんですよ……女性と分かった今、嬉しい気持ちしかない」
「……本当か? この見た目でも、好きでいてくれるのか?」
「当たり前です! 貴方が好きです」
「ああ……そうか……はは、もっと早く言えばよかったな」
僕は陛下に近づき、髪を撫でる。なぜ髪を伸ばし始めたのかよくわからなかったけど、この時のためだったのですか? 肩にギリギリ付かないくらいの真っ直ぐ伸びた髪。初めて触れた、貴方の髪。指の間を通る、美しく綺麗な髪。
頬に触れて、今にも泣きそうな目に触れて。唇に、触れて。
あ、僕ったら何してるんだ?! 急に恥ずかしくなって顔が熱くなるのがわかった。ボンッと爆発したように真っ赤に。
「あ、いや……ごめんなさい」
「続けてくれないのか?」
「は、恥ずかしい……」
「こんな大胆なことをしておいてお預けとは。そなたは悪魔か?」
「え! そんなつもりじゃ……勝手に身体が動いたんです!」
「あはははは! そなたは見ていて飽きないな」
すーっと唇をなぞられ、ドキドキして目が離せない。
ていうか、危篤の先代国王の横で何してるんだ? ちらっとその方を見ていると……こっち見てるじゃん! ガン見じゃん! 弱いけど息してる。てか、笑ってる。すごい状況なんだけど?!
「ちょ、ちょっと待ってください! めっちゃ見られてますし、というか危篤の人の前でこんなこと良くないです!」
「ああ、そうだったな。お父様、これを見てどう思いますか?」
「ちょ、え?!」
「……私の愛しい娘。やっと会えた。……ずっと謝りたかったんだ。君を犠牲にして……すまない。私は必死……だった。君にしか……務まらないと思った。でも、厳しくしすぎて……辛い思いをさせて……しまった。父親失格だ。もう、私は無惨に死ぬだけだ」
先代国王は、か細い声で、息も絶え絶えだったけど、必死に言葉を紡いでいる。
「もういいんだ。そのお陰で、大切な人に出逢いました。小さい頃、お父様は私を可愛がってくれた。その事実は変わらない。辛くて堪らなかったけど、今は辛くないですよ」
「君は……誰だ? 私の娘と結婚するのか?」
「新しい補佐官のアシュと申します。いや、まだそれは……」
「まだ始まったばかりですが、いずれは結婚したいな」
「え?! それは、僕もです……」
「だそうです」
「そうか……幸せになるんだぞ。空から……見守って……いるからな」
ずっと娘を探していた先代国王は、遂に娘に会うことが出来た。唯一残っていた記憶が、2人を結んだのだ。最後に会えてよかったですね。
陛下は父親の額にキスをして、先代国王は安らかに眠った。
「先代国王は幸せに逝ったんですね」
「そうだな。笑っている。いい最後だった。可哀想な父親だった」
「国のために生きてきた方ですからね。国民に慕われるいい国王だったと」
「そうだな。家族がバラバラになってからは、私達にとっていい人ではなかったが」
「そうですか……」
「兄は結局来なかったな。後で呼びに行くとするか」
「冷たいものですね。王妃達も……」
「2人とも父を愛していないからな。しかも認知症だし、もうどうでもいいのだろう。それに、第2王妃はただの他人だ」
「ソウハン・エルギールは存在しないから……ですか?」
「そうだ。疑いを少しでも晴らすために契約しただけ。彼女はお金に困らない生活を望んでいた」
「利害が一致したんですね」
次々に明らかになった陛下の真実。僕は全てを受け止め、陛下との未来を……
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