第23話 魔道士の対決

 今、ルカニエとサリナの決闘が始まろうとしている。

 2人から100メートルほど離れた場所で、僕達は観戦。





 ルカニエとサリナは50メートルの距離を空け向かい合う。始まりの合図は陛下が吹く笛。緊張が走る。




 サリナの主属性が火、ルカニエは風。火と風は合わさると凄まじい威力になるだろう。攻撃方法によっては共倒れする危険がある。ルカニエの方が目の色からして、黄色だし属性が強いけど……





 魔法は相性と戦略が大切だ。2人はどう闘う?





 ピーーー!!!!!!






 始まりの笛が鳴った。先攻はサリナ。手からルカニエに向かって一直線に火を放つ。迫る熱気に息が詰まりそうだ……小さい火には温かみを感じるものだが巨大な炎に感じるのは、恐怖。



 あれに飲み込まれれば、死。悪寒が全身を駆け巡る。ルカニエは無事でいられるだろうか……?!






 それに対してルカニエは風に乗って浮遊し軽々と避けた。


 空気の圧縮により爆発を引き起こす。

 なんて威力なんだ……空気がバチバチと唸っている。





 サリナは防御魔法でバリアを瞬時に作る。

 あのスピードで防御ができるのか?! あのはやさで完全なバリアを形成できる魔道士はほとんどいない。大抵まばらになってしまい、全てを防ぐことはできない。




 サリナは防御にも特化しているのか。そしてサリナは何度も爆発を防ぎ、次は反撃する番だ!



 竜巻が消え、地面に降り立つルカニエをすかさずサリナが攻撃する。

 ルカニエの周りに火が立ち込め、姿が見えなくなった。2人の激しい攻防に圧倒される。





 サリナが勝ったのか……?! そう思った時だった。

 凄まじい勢いで、ルカニエの周りに燃え上がっていた火が外側へ広がる。自分が放った火がサリナに牙を剥く。






 サリナはそのまま後ろに飛ばされ、地面に強く身体が打ち付けられた。


 ルカニエはゆっくりサリナに近づく。サリナは痛みに耐えながら上半身を起こした。






「油断は禁物ですよ!!」






 そういって、廃品置き場の周りに置いていた鉄筋や瓦が浮かび、ルカニエに向かって四方八方から次々と襲いかかる。あれは、サイコキネシス……?! 巨大な鉄をいとも簡単に、しかも大量に操るなんて……彼女の実力は計り知れない。





 それに対し、ルカニエは魔法で長い鎖を作り、両手で振り回す!

 拘束魔法で使われる鎖をそう使うとは……!!これぞ発想の転換。




 終始余裕な表情で戦っている彼に、恐怖を覚える。魔塔の主を想起させるような、彼の姿に全身が震え上がるようだった。






 弾かれる鉄筋や瓦。サリナに向かって飛んでいく……!

 僕達の方にも弾き飛ばされ、陛下とカンが剣で守ってくれた。







 し、死ぬかと思った……!!!! 心臓がバクバクと悲鳴をあげている。見ているだけなのに、息も絶え絶えになる。




 そして間一髪でバリアを作ったサリナ。






 サリナとは裏腹に、ルカニエはまだ無傷だ。膨大な魔力量を持つルカニエは、窮地に立たされているサリナに追い打ちをかけるように突風を吹かせながら次々と空中爆発を引き起こす。





 サリナは防御するのに精一杯で、攻撃する隙さえ与えない。

 睨み合う2人。バリアに拘束魔法で鎖を巻き付け、バリアがミシミシと音を立ててヒビが入っていく。まるで闇の魔法……










 そしてパリンッ……と音を立て、バリアが崩れ、サリナは鎖で身動きが取れなくなった。








「負けました!!」






 サリナが負けを認めると、拘束魔法が解除され、サリナは上を見て寝転がり、息を切らしている。





 それほど多くの種類の魔法を使った訳では無かったが、お互い得意な魔法だけでここまで魅せられるとは……すごい戦いだった。





「なかなか手強かったですよ」


「ご冗談を……一体あなたは何者なんですか」


「ただの魔道士ですよ」


「そんなはずは無い……魔塔主と同等レベルですよ」


「そうなんですか。光栄です」


「あ〜〜!! 疲れた!! こんなに呆気なく負けたのは初めてです……」


 2人が話す中、僕達も2人の元へ歩いていく。


「サリナが負けるとはな」


「私も思いませんでしたよ……彼は化け物です」


「それは私も思った。そなたは何者なんだ」


「サリナ様と同じ質問をされるんですね。それは私にもわからないので、なんとも……」


 そうルカニエが返すと、目を見合せ眉を下げるサリナと陛下。




「ルカ! かっこよかったよ! 正直サリナ様に負けると思ってたからびっくりしちゃった」


「それはそれは。私がどれだけ有能か理解いただけましたか? 貴方を守れるのはカンではなく私です」


 ルカニエは僕の手を取りキスをした。


「なんだと?! 2人いる方が心強いですよね! アシュ様?」


「もちろんだよ。陛下と闘うの楽しみにしてる」


「正直ルカの闘いを見て震えましたよ。俺はこんな強い魔道士見たことないっす。悔しいっすけど」


「貴方がどれだけお強いのか楽しみですね」


「う、うるせえよ! お前を超える事は出来ねえ……」


「私のせいで自信を無くしてしまったみたいですね」


「ルカニエとカンどちらが強いかを見るわけじゃない。ただ災害時どの班の担当にするか考えるためだから、気を落とすな、カン」


「陛下……ありがとうございます。でも同じご主人様を守る従者の強さに差があるのは……」


「ルカニエの強さは異常なんだ。それと比べる必要はない」


「そうですよ……魔塔主と比べるようなもんですから……はぁ」


「サリナ様がここまでなるなんて……」


「正直味方でよかったと思いましたよ……本当に……」


「それはよかったです。これもご主人様のお陰ですね」


「全くだ」


「僕は何も……寧ろ弱い僕を気に入るのもよくわかりませんけど」


「私が求めていた強さが力じゃ無かったということですね」


「アシュの周りにはおかしな奴ばかり集まるのだな」


「褒めてます? それ……」


「褒めてるよ。変わっている方が面白いだろう?」


「確かにそうですね」





 そしてサリナはポーションを飲み、ゆっくり僕達と次の戦いを観戦することに。ここまでのレベルになると、観戦者も身を削る戦いになるんだな……耐性がないから余計に疲れるのかもしれない。

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