第32話 復興

 夜になると、魔導師たちが続々と帰ってきている。

しかし避難施設の中へ入っていったのは10人程度だった。他の魔導師は、外のテントの中へ入っていった。

 そう言えば、仮説のお風呂意外に物凄い数のテントがあるな。あそこで寝泊まりしてるのかな?



 魔導師たちは、僕達がいるブースや行列に訝しげな表情をしていた。その中のベルニが、僕の所へ近づいてくる。


「ちょっとだけ待っていて貰えますか? すみません……」


「構いません!」





 僕はベルニの方へと近づいていった。






「師匠!」


「おお、目覚めたのか。しかしこれはなんだ?」


「実は皆のストレスを少しでも軽くしたくて、相談ブースを作ったんです!」


「お前はいつも発想が新しくて面白いな。それでお前が聞く側とは」


「精神科医の方々のブースもあるんですけど……なぜか僕のところによく集まってますね」


「そりゃあ少女を救った救世主様だからだろう」


「からかってます?」


「本当のことを言っただけだろ〜……しかし両親が心配してたぞ。会いに行かないのか?」


「うーん……まだ人が待ってるし……」


「もうすぐで夕食だろう? 一旦切り上げないと」


「うーん。今並んでる人を次優先したいなー」


「番号札かなんかを作って渡しておけばいいんじゃないか?」


「おお、それは名案ですね! 早速誰かに頼んできてくれませんか? 僕は人を待たせてるので……」


「お前も俺を使うようになったな。いいだろう」


「へへ、すみません……ありがとうございます」


「お易い御用だよ」






 そうして僕は1人待たせていた人と話をしている間に、札が出来たようだ。一人一人事情を説明しながら、手分けして渡していった。




 避難施設へ戻ると、ベルニと話をしながら両親が心配げに僕を探しているようだった。そして僕は両親の元へ行き、声をかける。





「お父様、お母様」


「っ……!! アシュ!!!!」


「ああ、良かった。元気そうで……少しやつれたかな?」


「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」


「家を出てから初めて見る姿がこれなんて……」


「それは確かに……まあでも、もうすっかり元気だよ!」


「心配したんだから……」


「2人とも僕よりやつれてない?」


「そんな事、もうどうでもいいくらいに今は嬉しい気持ちでいっぱいだよ……本当によかった」


「2人とも、ありがとう。師匠は平気そうだね」


「ハハッ、ただの魔力切れだろ? 寝てポーションを飲めば治るんだからな」


「時々師匠が幾つか分からなくなる……100年くらい生きてるんじゃないですよね?」


「ジジイ扱いするな! 経験豊富なんだよ」


「はいはーい!」


「心配してなかった訳じゃない! そう拗ねるな」


「拗ねてないですよ。やつれてる姿は見たくありませんし」


「それはそうだな」








 そうして僕達は後から来たルカニエとカンと一緒にご飯を食べた。ご飯を食べた後、歌を歌うことを皆に提案すると喜んでくれた。






 僕達は歌を歌い、お酒を飲んで大いにはしゃいだ。久々の宴だった。暗い表情をしていた皆が、笑顔で溢れた。僕が目を覚ましたことを皆で祝ってくれた。こんな日が続けばいいのに……そう思った。



 外ではキャンプファイヤーが行われ、皆で踊った。そんな楽しい一夜は直ぐに終わってしまった。施設内では、イビキをかいて寝ている人達、未だにお酒を飲みながら語り合う人達、コソコソと未来の話をする人達……どれも辛いことなんて無かったんじゃないかと思えるほどだった。





―――――――――――――――――――――


 多くの瓦礫が津波で流されたため、修復に困難を要した。まずは瓦礫の撤去をして、使えるものは再利用して……各国から材料を集め、家を建てていく。王宮は分厚いバリアを貼っていたため、特に影響は出ていない。





 それから、次々に宿から修復が終わり、魔導師たちは宿に泊まれるようになった。首都に集まる建物が、少しづつ景観が取り戻されていくようだ。




 その次に、工場が建て直され仕事を再開する者も。仕事が無く、働ける状態の者は修復作業に加わった。





 そして3ヶ月が経ち、ほとんどの国民が元の暮らしを再開させるほどに。元々農業が盛んではなかったため、仕事も再開させやすかった。他国の協力が得られたことが、特に復興を早めたのだ。





 陛下と僕とは被害状況の把握のため、国中を周っていた。勿論ルカニエとカンも着いてきてくれた。それぞれ必要な支援を、自分たちの目で見て判断した。本当に長い旅だったな……。




 僕達の訪問に大いに喜んでくれた。お互い考えることが多くて、心も身体も休めずに必死で……やっとここへ帰ってきた安心感。帰ってすぐだから休みたい気持ちでいっぱいだ。





 そして普段は騎士団の中でも警察隊に属している陛下の兄と、兄の妻が今は王宮を管理している。陛下の兄は、後継者としての義務を果たせなかったと、申し訳なく思っているという。陛下は家紋を捨てた兄のことを恨めしく思っているのだろう。


 そのために、頭が切れる名家の妻と結婚したそうだ。



 とにかく僕達は陛下の兄とその妻と挨拶だけして、数日休むことになっている。



「初めまして、アシュ・クイックと申します」


「こちらこそ、初めまして。兄のマティアス・ザントリエと申します」


「妻のバルバラ・ザントリエでございます」


「長い間ありがとうございます……本当に助かりました。私達は長旅で疲れたので、これで失礼します。お2人も無理はなさらないでくださいね」


「お気遣い感謝いたします」


「2人とも、本当に感謝する。数日休暇をとる間もよろしく頼む」


「お任せ下さい」


「では」



 夕方頃に帰ってきた僕達は、少し寝てから食事をとり早めに寝床に着いた。夕食時は僕たちが不在時にあったことを軽く話してくれた。特に問題はなかったようで、本当によかった。




 陛下が旅中も、皇帝陛下や他の国王と伝話や手紙のやり取りをしたり、忙しなく外交に取り組んでいたからかも知れない。

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