第6話 旅の始まり
結局1ヶ月経っても、有力な情報は得られなかった。
今でも特に問題は発生しておらず、今後も継続して監視していく方向となった。
第1騎士団でも情報を集める能力が高い人が助っ人に来てくれたんだけど……なかなか上手くいかない。
キャッツクロウの方が情報能力が高いって噂もあるし……
父が病気で休んでなかったら、こんな事にならなかったかな。
父ならもっと上手くやってるかな。どうしても卑屈になってしまう。
そうこうしているうちに、試験が近づいてきた。
隣国スイメイ王国の首都まで行くのに、馬車で約1ヶ月かかる。
そのため、ベルニに転移魔法で転送してもらう予定だ。
その出発の日は試験の2日前。
スイメイ王国の文化を肌で感じて、試験に活かすつもりだ。
「忘れ物はない?」
母が名残惜しそうに僕を見つめる。
長い旅行は初めてだから、心配なのだろう。
「うん! 長い間離れるけど、出来るだけ毎日電話するから!」
「勿論そうして! 心配だから。気をつけて行ってらっしゃい」
「攻撃魔法と防御魔法のブレスレットはちゃんと着けてるかな?」
歩けるまで回復した父も出迎えてくれた。
「着けてるよ!」
貴族とバレて襲われないよう、平民の服を着ている。貴族として好ましくないことではあるが、僕は気にしていない。
ブレスレットは袖に隠れるようになっていて、念の為手首より上の方に着けている。
「隠れてるから大丈夫だと思うけど、無くさないようにね」
それぞれ1度しか発動しないため、なるべく危険なことに巻き込まれないようにしないと。
「カン、息子を頼んだ! しっかり守るんだぞ。」
母がそう言って、カンの肩に手を置き念押しした。
「相変わらず圧がすごいっす……勿論、任せてください!」
カンという名の人物は、僕の護衛として旅に同行してくれる。第3騎士団の中でも強く、よく遠征に参加していたこともあり選出されたのだ。
髪は赤茶色に茶色い眼と、サメのようなギザギザの歯。正義感が強く、母のことを慕っており母も可愛がっている。
カンも平民の姿で、剣も練習用で使っているものを身につけてもらった。
時々話すくらいしか関わったことがないから、これを機に仲良くなれたらいいな。
「じゃあ、行ってきます!」
僕達は使用人たちと両親に見守られながら、旅への1歩を踏み出した。
ベルニは用事があると言って出掛けていたが、いつの間にか用事が終わり門の目の前で待ってくれていた。
「師匠!」
「おう! アシュ、元気にしてたか?」
がばっとベルニに抱きつくと、ベルニの大きな手が僕の頭を包んだ。
抱き心地最高!ガッシリとしていて安心感がたまらない。
分厚い胸板に頬を擦り付ける。
「はい! また会えて嬉しいです!」
「俺もだ! ……ん? そいつは?」
「申し遅れました、アシュ様の護衛のカンと言います!」
「ほおー! 仲良くなれそう気がする」
「僕もそう思います!」
何となく雰囲気が似ている2人。いいコンビになりそう。
「じゃあ、転送するぞーっ」
初めての転送魔法に胸が高鳴る。
頭痛とめまいがするらしいけど、大丈夫かな……休めば落ち着くらしいから、何とでもなれ!
目の前に大きな魔法陣が出現し、目の前の景色が歪んだ。
「うっ……!」
急な頭痛と目眩に襲われる。
頭が割れるようだ。こんなに辛いとは思いもしなかった。
しんどさで景色を見る余裕がないが、周りの音が騒がしくなった。ほんの数秒で隣国に来れるなんて。
「辛いだろう?宿に行って休もう。カンはどうだ?」
「俺も頭が痛いっす。めまいも……」
「アシュよりはマシに見えるが、カンは何度か転移魔法したことあるのか?」
「数えるくらいは」
「そうか。まあ慣れるまで時間がかかるからな」
ベルニが僕の肩に腕を回し、支えてくれた。
「ありがとうございます……」
「どうってことないさ。歩けるか?」
「はい。宿ってすぐ着きますか?」
「数分で着くぞ」
「なら頑張ります……」
支えながら何とか歩いた。
カンは後ろで若干フラフラしながら歩いていた。
宿に着くと、一人部屋が空いていなかったため、3人部屋になった。平民には少し値段が高いようだったが、貴族用でなさそうだった。この国の平民は財政状況が比較的良いのだろうか。
部屋に入ると、トリプルベッドの横に机とイスがあるのみだった。
受付で、お風呂は近くの温泉に入るよう言われていたため、予想通りだった。
僕はそのままベッドに寝かされた。
「あ、ありがとうございます……」
「いいってことよ!」
カンは机に座り、突っ伏している。
「カンも横で寝転ばないの?」
「座ってる方が楽なんすよ」
「そっか……」
「でも貴族のおぼっちゃまが、護衛とかと同じ部屋にするなんて。しかも貴族用の宿じゃないし。アシュ様はやっぱり変わってます」
カンは顔だけこちらに向き、気だるげに話した。
貴族が嫌いなわけじゃない。ただ、みんなと同じ目線でいたい。
両親も似たような考えを持ってるからか、いつの間にか僕もそう考えるようになった。
それが当たり前になってしまったせいで、貴族がどう考える物なのかわからなくなった。
「アシュのそういう所が俺は好きだぞっ☆」
でも、こういう性格だからこそ2人と仲良くできてるんだと思うと、そんなことはどうでもよく感じる。
僕たちは夜ご飯時まで宿で一休みした。
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