第26話 陛下とデート

 訓練から4ヶ月が経ち、仕事にも慣れてきた。ほとんどの仕事を任されるようになり、サリナにチェックしてもらう。





「アシュ、これまで良く頑張ったわね。もうほとんど教えることは無いし、あとは陛下がフォローしてくれるわ」


「もうお別れが近づいてきたなんて……考えられません」


「短い間だったわね。ああ、寂しくなるわ」






 もう数週間で、サリナは結婚する。そっと僕を抱きしめてくれた。頼ってばかりではダメだ。サリナの代わりに陛下を支えるんだ。きっとうまくやって行ける。







 それから、王宮内でサリナとのお別れ会が行われた。

 その後はまた仕事に仕事……ただこなしていく日々。そんな変わり映えのない日々を過ごしていると、時間はあっという間に過ぎていった。











 ✦︎✧︎✧✦




 サリナの結婚式。隣国で盛大に祝われ、祝福の声が飛び交う。サリナは美しい純白のドレスを着て、幸せそうに笑っていた。彼女の第2の人生が始まったのだ。サリナはこれからが人生の始まりだと言っていた。




 サリナの夫も、とても幸せそうに陛下にお礼を言っていた。『こんな素敵な人を僕に預けてくれてありがとう』と。




 幸せそうに笑いあう2人を見て、陛下は少し寂しそうな目で見ている。






「はやかったですね」


「本当に。出会った頃が昨日のことのようだ」


「寂しいですね」


「ああ。でも縛り付けておくのはな。人の幸せを想うなら、時に自分が犠牲になることもある」


「……僕が頑張ります!」


「もう充分頑張ってくれているし、充分だ。ただ、大切な人が離れていくのが辛いんだ」


「その気持ちは正直全てはわかりません。でも、僕にとってもサリナ様は大切な人です。僕も寂しいです」


「そうだな。でも、会えないわけじゃない。これからはアシュ、そなたが弱い私を支えてくれるか?」


「はい。約束します。だからどうか抱え込まないで」


「ありがとう。本当に……そなたには感謝してもしきれない」


「僕の方こそ」







 2人の幸せを願って。僕は国王唯一の補佐官として、貴方を支えます。新たな僕達の日々が始まった。





























 ✦︎✧︎✧✦



 サリナが最後だからと、仕事を頑張って終わらせてくれたので数日陛下も僕も休暇をとることに。




 ピクニックの後、月10日くらいは休みを貰えていたし、時々陛下と僕の護衛たちと山登りをしたこともあったっけ。陛下と僕は特に進展はないけど……








 友達のいない僕達はまた、陛下と共に休日を過ごそうと思う。



 陛下はスイーツが好きだ。周りの目を気にして、彼は自分で買いに行ったことがない。いつも誰かに頼んだり、僕もたまに買ってあげたりした。







 今日は2人で変装をしてスイーツを買いに行く。

 僕は久しぶりに女装をしている。女性の姿の僕を見ると、懐かしい気持ちになる。アルペンを思い出す。僕の故郷。







 陛下に平民の姿をさせる訳には行かないので、どこぞの下っ端貴族のカップルとして出掛ける。




「陛下、行きましょうか」


「ああ……とっても綺麗だよ」


「っ……! ありがとうございます……」






 向こうを向いていた陛下が振り返り、一瞬目を見開かせた。女の子の気持ちがわかったような気がした。綺麗……だって。胸がギュッと締め付けられる。





「陛下も素敵です。その髪色と眼の色もお似合いですね。陛下は何でも」


「そうか……?さすがに水色の眼と言うだけでバレてしまうからな……」






 今日の陛下は、銀髪に紫の眼。いつも着ないような流行りの服を身につけているが、端麗な容姿は誤魔化せないな。でも、陛下がまさかそんなことをしているとは思わないだろうし。






 この街で有名なスイーツ店。貴族や平民にも人気で、お店に入るまでに30分くらい並ばないといけない。陛下はお店に入るために並んだことはないから、楽しみだって。






「今日もすごい人気……だね」

(危ない、敬語になる所だった)


「そうだな。初めてだから少し緊張する」


「並んでみると結構退屈だよ」


「そなたと一緒なら、退屈なんて感じないだろう?」


「なっ……またまたご冗談を」


「本当のことを言ったんだがな……」


「と、とりあえず並びま……並ぼ!」






 並び始めると、スイーツ店のスタッフからメニュー表を渡される。ケーキやパフェ、甘いものだらけで涎が……僕も甘いものに目がない。







 陛下はチョコ系が好きなんだけど、僕は果物たっぷりのパイが好きだ。好みは少し違うけど、趣味が同じってのは嬉しい。僕達は2人で1つのメニュー表を見た。







「期間限定! 美味しそう」


「本当だ。そなたは期間限定に弱いのだな」


「策略にまんまと引っかかるタイプなんだ……よね〜っ」


「自覚ありか」


「ソウは相変わらずチョコ?」


「もちろん。チョコなら永遠に食べられる」


「それは幸せすぎます……」






 いつも敬語なのに、疑われないためにタメ口で話す。慣れないなあ……名前で呼ぶのも、少し緊張する。スイーツについて語り合っていると、あっという間に順番が来た。







「店内でお召し上がりですか?」


「はい!」


「こちらへどうぞ。メニューはお決まりですか?」


「チョコケーキと期間限定のケーキを1つずつください」


「かしこまりました。ご一緒にお飲み物はいかがですか?」


「うーんと……」


「おふたりカップルでしたら、ラブラブストローで1つの飲み物をシェア……とかいかがですか?」






 今どきそういうのがあるの?! 恥ずかしすぎるじゃん! まあ、僕達は関係ないか。






「それでお願いしようか。何味があるんだ?」







 え?! カップルっていう設定だけど、ここまでしなくてもいいんじゃ……もう、陛下ったら何考えてるんだよ〜!






「イチゴ味、ミックスジュース、ミルクティー、カフェラテがございます」


「何がいい?」


「え……ソウは?」


「俺はどれも好きだから選びなさい」


「じゃあ……カフェラテでお願いします!」


「かしこまりました。ではお待ちください」






 10分もたたない内にスイーツと飲み物が届いた。






「わあ……ストローがハート」


「2人で1つってのがいいんだろうな」


「なんだか恥ずかしい……」


「俺とお前の仲だろう?」


「っ……!」




 くすっとイタズラな笑みを浮かべる陛下。いつもと違って俺様な感じ、ちょっとずるいよ……





「じ、じゃあ、いただきます」


「召し上がれ」






 季節限定のスイーツ。メロンがぎっしり入ったケーキ。いつもタルトばかりだったから、たまにはこういうのもアリだよね。1口食べると、メロンが口いっぱいに広がって鼻からすーっと通っていく。






「おいしい……! ほら、ソウも食べなよ」


「ああ、ついつい見てしまった。俺もいただくよ」





 そして陛下はチョコケーキを上品に口へ運んだ。食事をするのも絵になるなあ。





「美味しい……」






 うっとりした表情で食べ進める陛下をみながら食べるスイーツは、いつもより美味しく感じた。





「ほら、口についてるぞ」


「え? どこ?」


「逆だよ。ほら」





 僕の口の端についたクリームを手で取り、ペロッと舐めた。



「い、今舐め……?!」


「ん?カップルなんだから当たり前だろう? これも飲んでみよう。一緒に」






 ゆっくり飲み物に顔をちかづける。陛下の顔がどんどん近くなり、僕が飲めないでいると、カプっとストローを咥え飲み物を飲む。そんなに見つめないでよ〜〜!!






 僕も続いて飲む。恥ずかしくてあんまり飲めなかった……!

 僕はどんな顔をしているだろうか。みっともない顔をしてるんじゃないか……





「ふ、かわいい」





 可愛いだって……?! 顔が熱い。今日も陛下に振り回されてばかりだ。






 まるで本当のカップルみたいな甘い時間だった。

 今日くらいは、恋人みたいに振舞ってもいいよね?独り占めしても、いいですか?



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