第7話 満喫
一休みして回復した僕たちは、夕食を食べに行くことに。
「おーい起きろー」
ユサユサと肩を揺すられ、目を開ける。
ぼやけていた視界に目を擦ると、2人が僕の顔を覗き込んでいた。
「あれ……? いつのまに寝て……?」
「横になって暫くしてたら寝息が聞こえてました」
「そっか……カンはもう回復した?」
「もう元気モリモリです!」
「夕食の時間だから行くぞ」
2人は準備出来ているようだった。
ボサボサになった髪を、再びゴムでお団子にする。
「よし! 準備できました! はやく行きましょう!」
僕は急かすように2人の手を引っ張る。
「寝起き早々元気ですね」
「若いね〜」
そして街をブラブラ歩いていると、美味しそうな大衆居酒屋が見えた。
「ここの食事が絶品なんだ」
ベルニのおすすめということで、入店する。
店の中は騒がしく、大きな声で話さないと聞き取れないほどだった。歌ったり踊ったり、自由な姿に幸せな気分になった。
空いているテーブルに囲んで座ると、テーブルにはメニュー表が置かれていた。
「すごい、魔物のメニューが多いですね。分からないものだらけ……」
「この国は海に面してるし、海の魔物もうじゃうじゃいるからな」
「食べた事ありますか?」
「もちろん。どれも美味しいぞ。適当に選んでやる」
しばらくすると、色んな意味で大きな女性が近づいてきた。
「注文はなんだい?」
彼女はメモ帳とペンも持たずに、仁王立ちしている。
「海の魔物食べ比べセット、クラーケンの足丸ごと揚げ、ソーセージ、あと赤ワインと海のソーダ……あと」
「ビールも」
カンはビールが好きなんだ。
「あいよ!」
彼女は厨房に入り、先程の注文を大声で伝える。料理をしているのが見えて、目が釘付けになった。クラーケンを捌くと、客が歓喜の声で溢れかえる。きった後も足がうねうね動いている。
「楽しいです」
「だろう?食事はこういうところが一番いい」
10分程度で料理が次々と運ばれる。ひと皿ひと皿が大きく豪快に盛り付けられている。
「すごい量…これ3人で食べられるかな」
心配をよそに2人は食べ始めている。
「俺、結構食べますよ」
「俺も!」
2人して同じように口いっぱいに含みながら答える。
「はは、ならよかったです」
僕も負けじとソーセージを頬張った。ここではマナーを気にしなくてもいいんだ。
「小動物みたいだな」
そんな僕を見てベルニが笑った。カンは優しい笑顔を向けてくれた。ニッと笑うと見えるサメのような歯。噛まれたら痛そうだなとふと思った。
お腹を満たした僕たちは、また街を練り歩く。
「ここの建物は丸いんですね」
「そりゃ、この国の象徴が水だからな。水滴を表してて、屋根とか電灯とか、みーんな丸い構造をしてる」
「へー…だから色も水色が多いんですね」
建物全てが神秘的で、違う世界に来たみたいだった。立ち並ぶ店は魔法関係が多く、ポーションや魔法道具・アクセサリーなどが建ち並んでいる。
「ポーション!! お父様が喜ぶ!」
「そうなのか?」
「はい!お父様の趣味はポーション作りなので。領主が変われば、そっちに専念するみたいです」
「モルガ王国はポーションを作るより、輸入に頼ってるからな。ちょうどいい趣味じゃないか!」
「ポーションは無くてはならないもんっす!俺もいつもお世話になってます。領主様に期待ですね!」
僕の住む国モルガ王国では、ポーションや魔法道具はほとんど扱っていない。食品や娯楽、武器がメインで栄えている。買って帰ったら喜ぶだろうな。帰る直前に買おうかな。
そうして街を一通り見た後、3人で温泉に入った。お互いの背中を流し、談笑してさらに仲が深まったように思う。
「はあ〜! 旅行最高!」
温泉から出て、大きく伸びをする。今までほとんど領地を出たことがなかった僕にとって、最高の1日だった。
「まだまだ終わりじゃないぞ!」
「え?」
「綺麗な景色が見れる場所があるんだ。行くか?」
「行きます!!」
僕達は通りから数十分歩いた高台にやってきた。
「綺麗だろ?」
「はい……」
あまりの美しさに言葉を失う。
統一感のある水色の建物に、光で輝く通りが見える。
夜だからか、光が1層眩しい。残存が広がって、生きているかのようだった。
そこかしこに電灯が設置されていて、賑わう通りは何個も見えた。ある通りではなにかのイベントをやっているのか、音楽が流れていて、多くの人が踊っていた。
アルペンは自由を象徴した、カラフルな建物が多い。
それはそれで美しかったが、ここの街並みも違った魅力がある。土地によってこんなにも違うのかと思い知った。
僕たちは存分に夜景を楽しんだあと、宿に戻り両親に電話をかけた。
「遅い!!」
母の顔が鏡いっぱいに映し出される。
それもそうだろう、着いたという連絡をせず、夜遅くまで待たせてしまった。
「ごめん。ついつい夢中になっちゃったみたい」
「うそうそ。実は着いてすぐカンから電話があったの。うちの部下優秀だから」
そう母が褒めると、カンは得意げな顔をしてこちらを向く。
「え?そうなの?? なんだ。よかった。カン、さすがだね」
「それよりどうだった?」
「そうだ、お父様! ポーション店があったんだ!何個か買って帰ろうと思う」
「おお!それは嬉しいな!」
そして僕は今日あった出来事を全て話した。
「旅と言っても、訓練しかさせてこなかったから。
楽しい旅が出来たみたいで本当によかった」
訓練…確か13歳になってからだったかな。
モルガ王国でも、スラム街と言われるところに1人で旅をさせられたっけ。そこで暮らす国民の辛さを体感できた。その分過酷だったけど。
「訓練ってなんだ?」
「師匠に話したこと無かったですね。スラム街の平民に紛れて暮らすだけの訓練なんですけどね」
「スラム街?!生きるだけでも過酷じゃないっすか?!」
「酷い親だと言われても仕方ないけど、辛い経験はいずれ宝物になるんだよ」
「そう、可愛い子には旅をさせよって言うじゃん?暮らせるだけのお金は持たせたけど。それでも子供ってだけで、襲われたりするから……大変だっただろう?」
「そうだね……でも、それがあったから国民の辛さとか、色々わかるようになったんだ。だから感謝してるよ」
「うう……なんていい子に育ったんだろう……」
「本当に立派に育ったと思う。今にも1人で生きていけるんじゃないかと、時々寂しくなる……」
「そんな事があったなんて知らなかったです。アシュ様は俺が命を懸けてお守りします!!」
「当たり前だ! かすり傷1つ許さんからな!」
「はい! 団長!」
「俺もいるしね。俺にとってアシュはもう、家族だ」
「師匠…じゃあ4人家族になりますね」
「いや、俺とお前2人だけだ」
「え?!親の座は明け渡しませんよ!!」
そんなあたたまる会話をして、通話は終了し、次の日も3人で旅行気分を味わった。
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