第29話 祈り

 少女を助けるんだ……!!!!






 震える足を奮い立たせ、柵を飛び越える。10メートル以上の高さから飛び降りたが、浮遊魔法を少しだけ使ったから足は大丈夫!




 飛び降りてすぐに強化魔法で足を極限まで速くし、少女の元へ全速力で走った。






少女を抱えると、津波はあと数メートルの所まで来ていた。そのまま避難施設まで、駆け抜ける!!






「掴んで!!!!」





 僕が見上げると同時にカンが叫んだ。僕達に植物を巻き付け、引っ張りあげる。水しぶきがかかるのがわかった。少女を包み込むように守り、カンが僕達を受け止めた。







「アシュ様!!!! なんでそんな無茶したんすか!!」

「僕なら助けられた。実際助けたよ?」

「みんな諦めてた……俺も届かなかった……ご主人様が……死んだら……俺は……っ!!」






 ボロボロと涙を流し、僕の頬にぽたぽたと落ちてくる。





「ごめんね。でも、助けないと一生後悔すると思ったんだ」

「アシュ様の馬鹿……馬鹿野郎っ……くそ……」

「とりあえずこの子が優先ね」






 そうしていると、助けて欲しいと叫んでいた母親らしき人が駆け寄ってきて、少女を抱き締める。





「ああ……ありがとうございます……ありがとうございます……!!」

「助かって良かったです」

「お兄ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」





 本当に良かった。皆の歓声が聞こえる。この地獄のような状況でも、人の幸せを願える皆は本当に素敵な人たちだな。

歓声に応えていると、視界が歪み、意識が途絶えた―――。

「アシュ様……!!」とカンの呼ぶ声が聞こえた気がした。












――――――――――――――――――――



 どれくらい時間が経ったのだろうか。瞼が重くて開けられない。カンに大丈夫だよと言ってあげたい。心配させてごめんね。こんなくらいで倒れてしまう弱い自分でごめん。でも、僕が助けられた命があるんだ。自分が誇らしいと思える。僕にも出来ることはあったんだと。





周りで話している声がきこえる。応えたいのに身体が重くて……動かない。誰なんだろうか?意識を向ける。





「いつ目が覚めるんですか……」

「大丈夫だ。ただの魔力切れだと言われただろう?」

「うう……くそ、俺は何も出来なかった」

「アシュを受け止めただろう」

「それまで皆と同じように……諦めて……何もしなかった……」

「仕方なかった。カン、そなたはよくやってくれた。アシュも。休めばよくなる」

「ルカは……このこと知ってますか」

「知らせていない。知らせれば駆けつけてくるだろうと思ってな。私が抜けてきてしまったから、サリナが代わりに動いてくれている。ルカニエは主戦力だから抜けさせられない」

「そうっすよね……ルカにあとで怒られます」

「きっと理解してくれるさ」








陛下が僕のために来てくれたの……? 嘘、なんて不甲斐ないのだろうか。迷惑をかけてしまったな。皆に心配されて、幸せものだけど……こんなに魔力がない自分に嫌気がさす。




 両親の魔力量と比べて、子供の僕はなぜこんなにも少ないのだろうか。

 小さい頃からそれがコンプレックスだった。両親は強化魔法ができることが凄いから、そんなこと思わなくていいと言ってくれたっけ。










 そして僕は、再び意識を手放した。














――――――――――――――――――――


目を開けると、夜になっていた。まだ1日は経っていないのか。よかった。魔力切れになると僕はいつも、何日も寝込んでしまう。いや待て。ということは……? これはもう数日後だったりする?


 焦るままにガバッと上半身を起こすと、カンが僕の足元で突っ伏し寝ている。ここはベッドの上か……。僕が動いた振動でカンが目を覚ました。






「んー……はっ?! アシュ様!! アシュ様あぁぁ……!!」







 勢いよく抱きつかれ、よしよしと頭を撫でる。





「カン、僕何日寝込んでた……?」

「1週間っすよぉ……もう目を覚まさないのかと思った……よかったああ……!!」

「え?! 1週間……?! 皆は?! 僕も手伝わないと!」

「ちょっと!! 病み上がりに何してんすか!! 動かないでくださいお願いだから〜〜!!」






 起き上がろうとする僕に必死にしがみつかれ、身動きが取れない。




「わ、わかったよ……わかったから離して……」

「本当にわかったんすか?!」

「本当だよ。いいから1週間何があったか聞かせてよ」

「とにかく今は大丈夫です! それより陛下とルカが心配して凄いことになってるんで、呼んできます」

「え?! そうなの?! わかった。待ってる」





 そういえばここは別室かな? 狭いけど誰もいなくて静かだからありがたい。カンが出ていくと、数分後にルカニエが食事を持って入ってきた。




「ご主人様……!! やっと目を覚まされたのですね……」

「このとおり!」

「ああ……どれだけこの時を待っていたか……」





 ルカニエは僕の手を取り、頬を擦り寄せた。柔らかくて、あたたかい。

 すると僕のお腹がグーーっと鳴ってしまった。






「あ……ごめん」

「いえいえ、1週間も食べずにこんなに痩せて……知らせを聞いて急いで食事を持ってきました。どうぞ」

「気が利くね。ありがとう」







 あたたかいスープにパン。病み上がりにはもってこいだな。

久々の食事が染み渡る。あつい食べ物が喉を通るのがわかる。目を覚ます前の緊迫した気持ちがほぐれていく。





「ルカ、カンを責めないであげてね」

「……最初聞いた時は怒り狂いましたよ。ご主人様が死んでしまったら、カンを殺そうと思っていました。でも、引き上げたのは彼で……ご主人様を助けたのは彼。私はその場にすらいなかった」

「仕方ないよ。ルカは魔物と闘ってたし」

「わかっていても、悔しくてたまりませんでした。貴方を失うなど考えられない。ご主人様が死ぬならわたしも死にますよ」

「こわいこと言わないでよ……こうやって、生きてるでしょ? もうあんな真似はしないからさ」


「約束してください……」

「うん。約束する。ルカもこんなにやつれちゃって……寝てないしご飯食べてないでしょ」

「そんな余裕なかったですね」

「食べてきてよ」

「ご主人様が食べ終わるまで待ってます」

「頑固だな」





 そんな話をしていると、突然扉が勢いよく開いた。





「アシュ!!!!」

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