第44話 添い寝

 1人部屋で残された僕は、椅子に座ってひと休みする。

するとガチャッと扉が開かれ、陛下が扉の間から顔を出した。



 ルカニエとカンと僕達のこと話してくるって言っておいたから、大丈夫だと思うけど……早速来ちゃうところが可愛すぎる。



「アシュ、話終わったか?」


「終わりましたよ」


「どうだった?」


「2人とも応援してくれるみたいです」


「それはよかった。しかし私を置いて座っているとは……」


「ちょっと考え事をしてて」


「私以外のことか?」


「そうです」



 そういうと陛下はムッとして、僕が座っている目の前の机に、腕を組んで腰掛けた。



「あ、ちょっと、そこは座るところじゃないですよ! 座るなら僕の膝の上に……」


「か弱いそなたが押し潰されてしまうぞ?」


「そんなか弱くないです! いいから」


 陛下は控えめに僕の膝の上に乗る。もう、陛下は痩せてるんだから、大丈夫だよ!



 僕は陛下のお腹に手を回し、ガシッと掴んだ。




「なっ!」



 僕の方へ倒れ込ませることができ、思わず笑みがこぼれる。



「へへ、やったあ。できたでしょ?」


「ふふ、強がらなくてもいいのだが」




 でもなんか……思っていたのと違う。陛下は僕より背が高いから、前が見えない。もっとカッコよくキメるつもりだった。おかしいな……。



「私が下になろう」


「いやいや! 女性の上に乗るなんて……」


「言葉だけ聞くといやらしいな」


「そういう意味じゃないですってばぁ!」


「あはははは!」




 最近の陛下、本当に楽しそう。嬉しいな。僕のおかげ……なんだよね?




 陛下は僕の膝から降りてしまい、僕は陛下の上に乗った。



 確かに、こっちの方がしっくりきてしまう……。でも、重くないかな?



「こっちの方がいいだろう?」


「重くないですか?」


「そなたは軽い」


「そうですかね……」


「なあ、アシュ」


「はい」


「その……」



 僕は後ろを振り向いて、陛下の顔を見た。

 陛下は珍しく僕の目を見ずに照れているようだ。なんだろう?




「今日の夜、私と一緒に寝ないか?」


「へ……?」


「だから、添い寝だ!」


「えぇ?!?!」





 嘘?! 急に何を言うと思ったら……ルカニエとカンに話したから?? 陛下と一緒に寝られるなんて、夢みたいだ……。




「……嫌か?」


「なんでそうなるんですか! 嬉しくて……」


「はぁ〜……よかった」


「どうしたんですか?」


「まだ早いと言って断られるかと……」


「不安でしたか?」


「なぜ楽しそうにしている」


「ふふ、可愛いなーって」


「なっ! はぁ。私がこんなに情けないやつだとは。自分でも思わなかった」


「情けないだなんて。僕にとっては愛しくてたまらないですよ?」


「どれだけ虜にすれば気が済むんだ……」


「えへへ、愛してますよ」


「……私もだ」






 僕と陛下は王宮の中で穏やかな日を過ごした。





✦︎✧︎✧✦





 そして僕は夕食を食べ、お風呂に入って陛下の部屋へ向かうところ……





 緊張しすぎて味がしなかったな……寝間着姿の陛下はどんなだろうか。ネグリジェ……? 女性らしい姿なのかな。そんな想像をしながら廊下を歩く。



 暗い廊下を歩くのは少し怖いけど、ワクワクする。




 陛下の部屋の目の前まで来た。来たんだけど、開けられない!! ノックが出来ない!!!! どうしよう。緊張してきた……僕、勇気を振り絞るんだ!!!!!!






 ……と思いながらただ立ち尽くしている僕。あ〜!!!! 情けないったらありゃしない。




 そうこうしていると、ガチャッと扉が開いて、陛下が顔だけ出してきた。



 あ〜もう!!!! また陛下から来てもらっちゃったよ。僕のバカ。




「いつまでそうしているんだ? 待っていると日が暮れそうだ……」





 そう言って欠伸をする陛下。初めて見た。無防備な貴方。




「ご、ごめんなさい……緊張しすぎてどうにかなりそうで」


「はは、そなたはやはり面白い。さあ、中に入って」


「失礼します……」





 夜の陛下の部屋は、より一層輝いて見えた。暗いのに、どうしてだろうか。小さい灯りがともされ、いい匂いがする。アロマを焚いたのかな。嬉しいな。




「いい匂い……」


「だろう?」





 陛下は白いネグリジェを着ていた。目に毒だ。ヒラヒラと裾を揺らめかせながら歩いている。見てはいけないような気がして、思わず目を手で覆う。




「ふふ、何をしているんだ?」


「いや、あの……美しすぎて」


「嬉しいことを言ってくれるな。それならまじまじと見てくれないと」




 陛下は僕の手をどかして、至近距離で僕を見つめる。ああ、貴方のその熱い視線が僕をおかしくする。貴方の目から目が離せなくなる。何も考えられなくなる。




 ぼーっと陛下の目を見つめていると、ヒョイッと僕をお姫様抱っこした。



「ええ?!?!」


「そなたが固まっているから、手助けをな」


「お姫様抱っこは……僕がする方なのに!!」


「言っているだろう。それは違うと」



 ボスッとベッドの上に降ろされた僕は、その形のまま固まる。

へ、陛下のベッド〜!! 座ったことはあったけど、寝転んじゃったよ!!!!



「あははははっ!! どれだけ緊張すれば気が済むんだ」


「笑わないでくださいよ! そりゃあ緊張するでしょう!」


「わたしも緊張していたが、そなたの方が緊張しすぎて和らいだ」


「えっ」


「せっかくムードを作ったのに、台無しだな」


「し、仕方ないじゃないですか!」


「ふふ、そうだな」



 陛下は僕の隣に寝転んで、僕の方をむく。




「このままキスをしたら、そなたはどうなってしまうんだ?」


「え?! 余計寝れなくなると思います……」


「そうか……。今日は我慢するとしよう。ではおやすみ」



 僕の額にチュッとキスを落とし、僕を抱きしめて陛下は眠ろうとしている。



 え……?! これも寝れない状況なんだけど……陛下の香りがダイレクトに伝わって、陛下は薄着だから体温も伝わって……ひぇぇぇぇ!!!!




 心臓がバクバク言っているのがわかる。胸の柔らかさも顔で感じて……陛下ってば、拷問だよ?!?!




 気付けば陛下の寝息が聞こえてきた。僕は全く寝れないっていうのに、なんて人だ……これはこれで嬉しいんだけど。









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