第10話 補佐官の面接

 実は遡り試験から3日後、スイメイ王国の王宮から手紙が届いていた。

 魔道士は手紙を魔法で一瞬にして転送できるため、やり取りはとても早く行うことが出来る。

 その手紙の内容は第1段階合格の旨と、第2段階の面接の日程調整についてだった。丁度武器の不正売買の調査期間中だったため、暫くは難しいと返事の手紙を送った。その件が落ち着いたら連絡くださいと返答がきた。










 ルカニエを一時拘束した次の日、その事件について記事が書かれた。記事が出回った日の内に、再び手紙が届いた。その後何回か手紙のやり取りをして、1週間後に行うことになった。












 ✦︎✧︎✧✦


 面接の日の前日の夕方頃、魔道士の方がお迎えに来た。早速転送魔法で転送され、手配してくれた宿で1泊した。




 面接のため部屋に入ると、机を挟んだ目の前に補佐官のサリナが座っていた。





「再びお会いできて光栄です。そちらにお掛けください」


「僕も光栄です。失礼します」





 部屋には僕達2人だけ。緊張で震える手を抑える。面接って人生で経験するかしないかくらいのものだから、どういう感じで受け答えしたらいいのか……とりあえず嘘はよくないよね。ありのままで行くしかないか。






「大変な時期にお時間を下さり感謝致します」


「こちらこそお待たせして申し訳ございません」


「構いませんよ。ところで、第1段階突破おめでとうございます。実は合格されたのは貴方だけなんです」


「ありがとうございます。そうなんですか、僕だけ……」




 唯一の合格者か。嬉しさのあまりついついにやけてしまう。

 でも、面接と謁見という壁も待ち受けてるんだよね。その壁の方が分厚かったりして……。



「自信を持ってくださいね。では、面接を始めさせていただきます。いくつか質問致しますので、気兼ねなくお答えいただければと思います」


「わかりました。お願いします」


「補佐官になろうと思ったきっかけは?」


「きっかけは……僕の夢です。父は領主をしていて、国で1番の栄える地にしたのも父です。僕は父が作り上げた物を、ただ引き継ぐだけの人生は考えられませんでした。そして、後継者訓練でみたスラム街の光景が、とても悲惨なものでした。それをみて、苦しんでいる人たちを少しでもより良くしたいと思うようになりました」


「後継者訓練でスラム街に? それはどういう……」






 サリナは訓練について疑問に思ったのか、どう言った教育を受けてきたのか、詳しく聞かれた。







「そうなのですね…かなり過酷な教育を受けられたんですね」


「両親はかなり悩んでいました。僕が構わないと言ったんです」


「なんと……トラウマにならなくて本当によかったです。話を遮ってしまい、すみません。続きをお話いただけますか?」


「はい。それで、世界を旅して学びたいと思うようになりました。そちらの募集のチラシが届いた時、これだ! と直感で思って応募したんです」






 僕が熱弁している間、サリナは笑顔で頷いてくれた。とても暖かい雰囲気で、リラックスすることが出来た。所謂圧迫面接みたいじゃなくてよかった。好感触って思ってもいいよね……?







「素晴らしい夢だと思います。補佐官は国全体を管理するだけでなく、外交にも参加します。その夢にも繋がると思います」




 そしてその後も何度か質問が繰り返され、僕はそれに正直に答える。




「ありがとうございました。面接は以上になります。正直に言いますと、予想以上です。17歳という若さでここまで信念を持たれているとは。早速陛下と謁見に行きましょう! 念の為確認の連絡をしてきますのでお待ちください」






 そういって速歩で部屋を出ていった。






「え、え?!?!」




 謁見?! 今から?そんな急な……謁見を想定して動いてらっしゃったのかな。

 そりゃあ早い方がいいんだろうけど。またもや心の準備が出来ていない……ポンポン物事が進みすぎて、戸惑いを隠せない。




 あの美しい顔を見てフリーズしないだろうか?! みっともない姿を見られないといいけど……


 そんなことを考えていると、扉からコンコンと叩く音がした。






「入ってもよろしいですか?」





 サリナの声だ。





「あ、はい!どうぞ」





 そう言うと扉がバンッと勢いよく開かれた。






「行きましょうか!」






 めちゃくちゃ楽しそうじゃん……僕はこんなに緊張してるのに! こういうのが普通なの?! もうわからないや……。




 僕は緊張でこの後自分がどうしていたか思い出せない。気づけば、王宮の庭に来ていた。






「あちらに陛下がいらっしゃいます。気軽にお話できるよう、ティータイムとしましょう」







 一面に水色のバラが咲いている中、テーブルとイスが置かれている。屋根があり、それらは白で構成されていて庭に溶け込んでいた。




 僕はサリナと2人で、陛下が座っているところへ近づく。






「陛下、お連れしました!」


「おお、待っていたよ!」







 僕を見るなり陛下は立ち上がり、握手を交わした。

 ああ、笑顔が眩しい……!今日もなんとも麗しいお方だ……手に触れたぞ? 一生洗えないな……と言っても結局洗うんだけど。







「再びお会いできて光栄です! ソウハン・エルギール陛下にご挨拶申し上げます」


「私もだよ。アシュ公子、サリナもかけてくれ」


「失礼します」


「面接が終わってすぐにサリナが興奮気味で報告してきたよ。サリナが人を推薦すること自体珍しいことなんだ」


「これほどの人材にはもう出逢えないかと!」





 サリナは興奮気味に答えた。





「そんな……身に余るお言葉です」


「期待しているよ。しかし記事を見させてもらったが、大変だったな」


「はい、でも無事解決できそうで本当によかったです」


「全くその通りだ。所でなんだが…私達としては、アシュ公子には補佐官として働いてもらいたいと思っている。明日にでも来れるように準備は出来てるんだ」


「明日?! えっと……来月記事の件で裁判があって、その次の月に僕の誕生日があるんです。その後なら構いませんので、待っていただけませんか……?」


「困らせてしまって申し訳ない。是非そうしよう。では2ヶ月後に18歳になるんだな」


「はい」


「ではその1週間後はどうかな?」


「お気遣い感謝致します」


「私が結婚するまでの短い間ですが、共に働けることを楽しみにしています!!」


「僕もです! これからよろしくお願いいたします」



 それから僕達は軽く談笑をして、これから仲良くなるために定期的に通信鏡で伝話でんわをすることになった。

 僕が陛下と伝話……?!考えられない。夢を見ているような気分だった。雲の上のような存在の人と伝話するようなものだ。





 こんなに心が踊るのは初めてだ。今まで遠くに感じでいた夢が近づいてきた感覚だった。






 まさか僕が補佐官になれるなんて…正直無理かもしれないと思っていた。


 家族と一緒に暮らせるのもあと2ヶ月か……。

 あんなに外に出たがっていた僕だが、実際出て行くと決まると何だか寂しい気持ちになる。



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