第6話 彼にたった一つだけ感謝を(改稿第1版)
「なあ、ケイン。リリアと寝るための言い訳は結構だよ。胸糞悪い。もう一度言うけど、君は何がしたいんだい?」
僕はケインにそう語りかけた。
そんな中、僕は自分自身の気持ちに戸惑いを覚えていた。
僕は今もリリアの事を愛しているのだろうか?
いや、当の昔に愛しているという感情も好きだという感情も失われてしまったのかもしれない。
そう、あの日の夜、ケインの部屋で裸で抱き合う二人を見てから。
毎晩、ケインの部屋を訪れるリリアを見てから。
毎日クラウンの男達に身体を触られても抵抗しようとしないリリアを見てから。
何も感じなくなってしまった……。
そう思っていたのに!
そう考えていたのに!
どうやら僕は自分の心に感情に蓋をしてしまっていたようだった。
その蓋が、ケインと話しているうちに徐々に開いてしまった。
どんどんリリアに対する気持ちが溢れてくる。
こんなにも僕はリリアを好きだったのか……。
こんなにも僕はリリアを愛していたのか……。
手を伸ばしても、その手を掴めない自分自身の不甲斐なさに怒っていたのか……。
自分ではない男の腕の中で愉悦に悶える君を見て、悔しかったのか……。
ケインの言葉を聞けば聞くほどに、あれ程静かだった心が急激に荒れ狂うほどに怒りが悲しみが込み上げてくる。
それは自分に対する怒りであり、悲しみであり、彼に対する怒りである。
リリアに対しては、申し訳ない気持ちで一杯だった
僕が基礎レベルを上げられず、ジョブもなく、無能であったから、耐えきれなくなった彼女はケインを頼ったのだろう。
僕はリリアを助けることも支えることも出来ない無能だ。
本当に薬が使われていたのか、洗脳されていたのか、脅迫されていたのか、それを知る術は僕にはない。
リリアがケインに毎晩抱かれていたという事実だけがすべてだ。
「ねぇ、ケイン。リリアの身体はどうだった?気持ち良かった?一週間毎晩毎晩リリアを抱いてさ、リリアを助けたかったとしたら別に抱く必要はなかったよね?」
わざとケインとリリアを貶す様な言葉を吐く。
自分でも驚くほど、どす黒い何かが言葉と共に溢れだす。
「楽しかった?それとも嬉しかった?幼馴染で婚約者の僕からリリアを奪えてさ。今頃、サブリーダーのヘイロンもグラウンメンバーの男共も悔しがってるだろうね」
「クロード、聞いてくれ。俺は」
「それともリリアとは遊びだったのかな?」
「ち、違う」
ケインの気持ちなんか聞きたくもない。
「まあ、いいさ。僕は君に、ケインに一つだけ感謝してるんだ。リリアをあのくそみたいなクラウンから連れ出してくれて、本当にありがとう」
僕はケインに深々と頭を下げ、謝意を示した。
「でもさ、それで僕が君を許せるとでも思う?」
頭を上げた僕はケインを憎々し気に睨み付ける。
「基礎レベルが高ければ何をしても許されるの?ジョブがあれば、ジョブレベルが高ければ何をしても許されるの?」
ケインを詰るたびに身体から更に何かか溢れだしてくる。
ねっとりとした何かが、ダンジョン内を満たすようにジワジワと。
ケインも僕の身体から何かが溢れ出しているのに気が付いたようだった。
「ク、クロード、お前、何を」
「ケイン、君は基礎レベル300越えでJobは勇者、ジョブレベルも60を超えてるんだよね?。僕の今はもう無い村で、ある人が教えてくれたんだよ。例えジョブが無かろうがレベルが無かろうが、どんな高レベルな相手だろうと殺すことが出来るスキルをさ。一生に一度しか使えないらしいんだけどね。それをケイン、君に使えるというのなら僕にとって本望だよ」
「よせ!やめるんだ!クロード!」
そして僕は、ある人が教えてくれたスキルを発動させる。
ごめんなさい、グランツおじさん。リリアのことを一生涯守るからって約束したのに。教会でリリアと三女神様の前で婚姻誓約書を結ぶとき、一番駄々を捏ねてたよね。
結婚なんかまだ早いって、お父さんともっと一緒に居るんだって。
結婚じゃなくて、婚約ですよって司祭様に諭されて、自分が勘違いしてたことを悟って顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしてたっけ。
それで周りの人たちから大爆笑されてたな。
思い出したら、笑みが零れてしまった。
あの頃は楽しかったなあ。
リリア、僕はここでいなくなるけど、どうか幸せになってほしい。
不甲斐ない幼馴染で、婚約者でごめん。
今度は苦笑が漏れた。
だってリリアが好きなのはケインなのに、僕は彼を殺そうとしているんだから。
本当に度し難い愚か者だな僕は……。
自分の身体を中心に真っ白な閃光が広がっていく。
真っ白な閃光に飲み込まれながら、僕は意識を失った……。
その直後、棲ざまじい衝撃と共にダンジョンを中心とした半径10キロの範囲の土地が半球状に消滅した。
領都城壁と街の一部を巻き込んで……。
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