第17話 リリアとの再会(改稿第2版)

 「みんな、お疲れさん。今日から一週間程休暇にするから、その間に消耗した回復薬だの毒消しだのの補充と武器や防具のメンテナンスをしっかやっておけよ。時間が掛かるようなら休暇の延長もあるから。解散」

 「「「「「は~い」」」」」

 「ケインはこの後どうするの?」

 「はぁ~、広域冒険者ギルドのギルドマスターのところに報告に行かなきゃならないから、まだ仕事なんだよ。だから、みんなで先に宿で祝杯でもあげててくれ」

 「うん、わかったよ。じゃあ、お仕事頑張ってね。宿で待ってるから」

 「おう」

 新しく見つかったというか、クラウン《暁》と冒険者ギルドが秘匿していたダンジョンに評定のために潜っていた俺達だが、流石に一月以上潜っていると効率が悪くなるので一端領都まで戻ってきた。

 ダンジョン消滅から三月以上過ぎている。

 まあ、領都からダンジョンまでは徒歩で十二日の距離にある。

 馬車だと五日といったところだ。

 徒歩で十日程いったところに、リリアたちが住んでいた村跡があり、死んだとされた女性冒険者たちを従業員兼性奴隷として働かせていた宿が存在している。

 今現在は、彼女達も解放され、教会で治療を受けているし、宿も真面なものになっている。

 村跡からさらに徒歩で二日ほど歩くとやっとダンジョンに到着する。

 はっきり言って、ダンジョンまでが遠すぎる。

 クラウン《暁》と冒険者ギルドの連中がリリアたちの村を滅ぼしてまで、中継地点を作った理由が良く分かる。

 それに、あの村跡で商人たちに直接、ダンジョンから得たドロップ品やモンスターから剥ぎ取った素材を卸すのにも他人の目が無い分便利だったわけだ。

 村人約百人の命とダンジョンからもたらされる利益を天秤にかけて、ダンジョンを取ったわけだ。

 こんなことしているから、人口が増えないとまで言われているんだが、目の前の金貨には敵わないか……。

 領主様が言っていたが、今ある領都を観光地として再開発して、ダンジョン近くに新たな領都を建設する予定だとか。

 資金は、クラウン《暁》や冒険者ギルド、あと俺から巻き上げた金銭で行うらしい。

 まあ、その方がダンジョンを管理しやすいだろう。

 今はまだ防具や武器の修理、消耗品の補充は領都まで戻ってこないと出来ないので苦労を強いられている。

 そんなことをつらつらと考えながら、歩いていると領都の教会の前に差し掛かった。

 「そういえば、リリアってここの治療院に入院してるんだよな……」

 俺の脳裏にあの時のリリアの綺麗で柔らかな裸体が思い出される。

 薬のせいでまともな判断力が奪われつつあったリリア。

 ヘイロン達がリリアを襲う算段を偶然聞いて、過去に死なせてしまった彼女を思い出してしまい冷静ではいられなかった。

 もちろん、リリアがクロードの婚約者だと知ってはいた。

 ただ、三女神の婚姻誓約書を交わしていたことは知らなかった。

 最初は、単純にリリアを助けようとした。

 だが、リリアを見た瞬間、彼女を手に入れたくなってしまった。

 それほど彼女は薬漬けにされようとも魅力に溢れていた。

 例え彼女が俺のことをクロードだと誤認していたとしても……。

 クロードは教えられていなかったが、あのクラウン《暁》にはある裏規則が存在した。

 定期的に入ってくる女性冒険者を薬漬けにしたら、最初に手を付けたメンバーが二週間、その女性冒険者を自由にできるというものだった。

 俺はその裏規則を利用した。

 そうして、形に上でリリアを手に入れた俺は、彼女を貪ったのだ。

 その代償がダンジョン一つとは……。

 「はぁ~、おれってやつは……。確かに『はぐれ勇者』だわ」

 教会を見上げながら、自己嫌悪に陥りつつ頭を横に振り、邪念を払おうとした時のことだった。

 「もう、駄目ですよ。そういうことしちゃ!コラ!待ちなさい!」

 「わ~い、リリアお姉ちゃんが怒ったぁ~。逃げろ~」

 「「「わ~い」」」

 教会の裏庭から、教会の治療院に入院しているであろう子供達と追い駆けっこをするリリアを見た。

 薬の影響から脱しつつあるのか、あの時より顔色も良く元気溢れる姿はあの頃のリリアとはまた別の魅力に溢れていた。

 気が付いた時には、俺は教会の敷地に入り込んで彼女達を眺めていた。

 走り回るリリアを目で追い、自然と笑みを浮かべてしまう。

 「ぷぎゃ」

 リリアが小石にでも躓いたのか、派手に転んで年頃の女性が上げていいのかというような悲鳴を上げる。

 思わず吹き出しながら、俺はリリアに近づいて手を差し伸べる。

 「お嬢さん、大丈夫ですか?」

 「ふえ?だ、だ、大丈夫れふ」

 鼻を打ったのか、鼻の頭を右手で押さえ涙目になりながら答えるリリア。

 その姿が可愛くて、可笑しくって笑いそうになるのを堪える。

 「むう、笑うことないじゃありませんか」

 怒りながらも、リリアは俺の差し出した手を取って立ち上がる。

 俺の顔を見ても、俺がケインだとは全く気が付いていないようだ。

 「ところで、貴方のお名前は? 教会に何の御用でしょうか?」

 リリアが少し警戒したような声で訊ねてくる。

 「俺の名前はと申します。クロード君の知り合いです」

 リリアの問い掛けに、俺は咄嗟に嘘を付いた。

 この再会をこれっきりにしたくなかった。

 今度こそ、彼女を手放したくないと思ってしまった。

 だから、クロードの名前を出せば彼女は彼の話を聞きたがるだろう。

 それを理由に彼女に近づくことが出来る。

 この一度の再会で、まだ禊を終えていないリリアが取り返しのつかない事態に陥ることに、リリアが三女神の怒りを買うことになるとも露知らず、リリアの不義密通の相手である俺は唯々彼女を欲してしまったのだ……。

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