第38話 世界の狭間の何処かで②、そして教会総本山で

 「ウリエル!?」

 疲れきった身体と心を休ませていたアルテナは突然ウリエルとの接続が切れたことに驚きを隠せなかった。

 アルテナが心と身体を犠牲にして、創造神であるおじい様から奪った創成の権能で元々の神々がいた世界を滅ぼし、創造神であるおじい様を閉じ込めるために世界を作った。

 最初は創造神であるおじい様も元々の世界諸共滅ぼすつもりだった。

 だけど、おじい様のところから妹のルーナとウリエルの三人で逃げ出した時、気が付いた。

 ルーナとウリエルにおじい様と繋がる連結が作られていることに。

 おじい様は、ルーナとウリエルから魂の情報や神力を吸い出している。

 このまま、おじい様を消滅させれば、ルーナとウリエルがどうなってしまうかわからなかった。

 最悪の場合、ルーナの、ウリエルのどちらかにおじい様の魂が入り込む可能性もある。

 私は、このままルーナとウリエルが消滅してしまうことを恐れ、ルーナとウリエルの魂を守りながら、二人に自分の神力を補充し続けるために私と妹達の魂の間に繋がりを作り上げるしかなかった。

 

 身体に鞭打って必死になってウリエルの気配を探すが、世界のどこにもウリエルの気配がなかった。

 ウリエルは確か、新たな勇者の元に向かったはず。

 その勇者の気配もなくなっている……。

「どういうこと?ウリエルも新しい勇者の気配も世界の何処にも感じられないなんて。まさか、おじい様に共に滅ぼされたとでもいうの?でも、おじい様にまだそんな力は戻っていない……、それにウリエルを私達を滅ぼせるのは『神殺し』だけの筈……、この世界を作った時にそう設定したはずなのに、魂も肉体も神力さえも一瞬で消滅してしまうなんて……」

 アルテナは、クロードがダンジョンコアを破壊したことによって獲得した『同時に全てのジョブのジョブ補正を受け、全てのジョブのスキルを使うことが出来る。ただしジョブレベルは一度に一種類しか上げられない』という能力があることを知らない。

 あまりに基本的すぎる設定とダンジョンコアを破壊するという極々稀な、いや、世界が誕生して、崩壊するまでの長い年月の中で2、3度あれば良い現象なのだから、アルテナが知らないというの頷ける。

 そして、それは創造神でさえも例外ではない。

そもそもクロードがウリエルに使った『多重断層結界』自体が取得するものが全くいないスキルなのだから。

 結界魔法は回復術師系統ジョブの上位スキルであり、空間魔法はアイテムボックスなどのスキルを持つ商人系統の、もしくは魔術師系統のジョブの上位スキルである。

 それぞれ求められるジョブ経験値やスキル経験値は莫大であり、そもそも回復術師系ジョブと商人系ジョブ、魔術師系ジョブと複数のジョブに転職を繰り返し、それぞれのジョブのスキルを一通り得なければ『断層結界』など習得することさえ不可能なのだ。

 それが『多重』となれば、どれほどの技量や魔力、知力が求められるかは想像に難くない。

 アルテナのいる空間に、もう一人の妹が転移してくる。

 ルーナだ。

 「アルテナ姉様!ウリエルの気配が!」

 「ルーナ!貴方も感じたのって、あなたまで傷だらけで……」

 「無事『神殺し』候補が誕生しました。しかし、今はウリエルの事です」

 「そ、そうね。ルーナ、悪いんだけどウリエルが向かった場所に行ってくれる?何があったのか知りたいの」

 「わかりました、アルテナ姉様」

 「気を付けてね」

 「はい」


 同じ頃、アルテナ教会総本山の教皇執務室で執務中の教皇猊下に扮する創造神は異変を感じとっていた。

 うん?おかしい。ウリエルとの連結が切れた?

 滅ぼされたのなら、アルテナと直接つながるはずじゃし、ウリエルの魂も手に入るはずじゃったんだがな……。

 一体どういうことじゃ?

 ルーナの方とはまだ繋がっておるな。まさかアルテナが連結を切ったのか?いやアヤツに連結を切ることはできまい。

 そもそも、アルテナにも洗脳を施してある。

 中途半端にはなってしまったが……。

 だからこそ、ルーナとウリエルとの繋がりは看破できたのだろうが、ルーナとウリエルの施してある洗脳やら、称号やらはアルテナには認識すらできないように仕組んである。

 それにこの感覚はまるでウリエルが突然消滅したとしか考えられん。

 神力を発揮する間もなく一瞬でとなると、とんでもない化け物が現れたか?

 それとも『神殺し』か?

 いやいや、それはないな。

 ルーナからやっとが誕生したと伝わってきたくらいじゃ。

 元神官長と元領主、広域冒険者ギルド長が候補になるとは……。

 だが、年齢的にいって『神殺し』には届くまいから心配はいらんな。

 では、一体何者がウリエルを消滅させた?

 この世界には、神と呼ばれる者は儂と孫たちの四人しかいないはず。

 新たな神など誕生する訳がない。

 そういうふうに世界をアルテナが作ったのじゃし、一体何が起こったのだ?

 創造神の疑問に答えられる者は執務室にはいなかった。

 その後、創成の女神アルテナの従属神ルーナの存在までもが消えたことによって、女神アルテナも創造神も困惑を深めていくことになる。

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