第25話 シルフィーの本音(改稿第2版)
シルフィーさんが『邪竜の呪い』についてぽつぽつと語り始める。
何事もなく幸せな生活を送っていたシルフィーさん家族を、村をある日邪竜が襲った。
村の人達は逃げまどい、戦える力のある人は、村人を一人でも逃すために闘ったそうだ。
でも、邪竜は圧倒的な力を持って村を蹂躙した。
そんな中で、シルフィーさんは幸運にも生き延びることが出来た。
でも、それは邪竜がシルフィーさんで遊ぶために選ばれただけだった。
邪竜はシルフィーさんに呪いを掛けた。
それはあまりにも……。
話を聞いていて、ふと思った。
まるでリリアと同じような……。
リリアは媚薬とか複数の違法薬物を与えられて薬物中毒にされていたと言っていた。
シルフィーさんは、邪竜によって強制的に毎日発情させられている。
ある意味リリアと同じ薬物中毒みたいなものだろう。
シルフィーさんのステイタス表示は消されていなかったから、シルフィーさんの状態をリアルタイムで見比べることが出来た。
もしあの時、リリアのステイタス表示を見ることが出来ていたなら、シルフィーさんと同じような状態に陥っていたとすぐにわかっただろう。
でも、そんなこと言ったところで後の祭りだ。
僕はここで、どうしても疑問に思っていたことを質問することにする。
「あ、あのシルフィーさん、凄く失礼なこと聞きますけど、発情状態って我慢できないんですか?」
「はあ?我慢出来たらこんな状況になってないと思うけど!」
シルフィーさんの声に怒りが滲む。
「クロード君は、我慢できるとでも思ってる訳?」
「シ、シルフィーさん、お、落ち着いて、ね」
「これが落ち着いていられますか!このドアホ!私がどんだけ苦しんだか知らないくせに!私だって好きになった人に!愛した人に純潔を捧げたかったわよ!でも、そんな悠長な時間なんてなかった!刻一刻と身体は呪いに蝕まれて邪竜化していくのよ!それ以上にわたしの身体は毎日毎日発情していく!自分の意志なんて関係なくね!出して終わりの男のアンタになんか一生理解なんかできないでしょうよ!強制的に発情させられた女の苦しみなんてね!」
シルフィーさんが大粒の涙を流し、両手で僕の胸板を叩きながら、自身の心情を吐露する。
「生きていても男に抱かれなければ邪竜化する!絶望して死んだとしても邪竜化するのよ!じゃあ、残された道は好きでもない男に自分から声を掛けて抱かれて、たった一人で何百年も生き続けるしかないじゃない!一生娼婦として生き言い続けるのよ!それがどんなに辛いことか、アンタに分かるの?アンタの大切なリリアって娘だってそうよ!あの娘の事を分かりもしないで、裏切られたとか被害者面してんじゃないわよ!被害者はリリアって娘で、アンタはその娘を守ることも出来なかった役立たずの無能者なのよ!クラウンのせいだとか他人のせいにする前に、アンタは自分で動いたの?違うでしょ!力が無いから彼女の事を見捨てたのよ!それを自覚しなさいよ!どうせ、アンタも私を見捨てるんでしょう!良いわよ、邪竜化しても!冒険者ギルドには私自身が討伐依頼を出してるし、死ぬ覚悟ぐらい出来てるんだから!」
そう叫ぶと、シルフィーさんは毛布をもって、泣きながらテントを飛び出していってしまった。
まずい。
シルフィーさんは武器も持って行っていない。
本当の丸裸で出て行ってしまった。
早く追い駆けないと大変なことになる。
最低限下着を付け、剣を持ってシルフィーさんを追い駆ける。
本当に俺は愚かだ。
媚薬を盛られたからって、大量の薬を盛られて薬物中毒になったからって、平気で他の男と寝るものなのか?
それが僕がリリアに抱いた最大の疑問だった。
だから、僕はそれをリリアの意志によるものだと思っていた。
シルフィーさんだって、いくら発情していたからって男に抱かれるのは自分の意志なのだろうと思っていた。
確かに自分の意志ではあったのかもしれない、でもそれは邪竜化しないために選ばざるを得なかったことなんだ。
ああ、思考がメチャクチャだ。
自分で何を考えているのか良く分からなくなる。
ただ一つだけ、ここでシルフィーさんを死なせちゃ駄目だということ。
もし、シルフィーさんを死なせたら僕は一生自分を許せなくなる。
だから今僕は、シルフィーさんを追い掛けて森の中をひたすら走る。
シルフィーさんの後ろ姿が見えた。
あと少して追い付く。
「シルフィーさん!」
そう彼女の名を叫ぶと、思いっきり彼女の上半身に抱きつく。
僕に抱きつかれてバランスを崩したシルフィーさんは地面に転びそうになるので、身体を入れ替えるが勢いが付きすぎて二人抱きしめ合ったまま転がってしまう。
二回、三回、四回と転がり、やっと止まる。
シルフィーさんは全裸で、僕は一応下着は付けていたけどほぼ裸だったので全身擦り傷だらけになり痛い思いをしたが、何とかシルフィーさんを捕まえることが出来た。
腕の中にいるシルフィーさんの涙で濡れた眼を見ながら、僕は謝る。
「シルフィーさん、ごめん。僕、馬鹿だから女の人の心って分からなくって……、本当にごめんなさい。それに絶対、シルフィーさんのこと捨てませんから」
「ううう、クロード君の馬鹿、阿保、鈍感、本当にひどい奴だよ。君ってやつは」
涙を流し続けるシルフィーさんに罵倒される。
でも、事実だから仕方ない。
だから、開き直り笑顔でお願いする。
「はい、だから、もう二度と失敗しないために色々教えてくださいね?シルフィーさん」
シルフィさんの頬が赤く染まり、顔を逸らしながら返事をする。
「か゚、覚悟しなさいよ」
「はい、シルフィーさん」
「フィー」
「?」
「わ、私の略称よ。親しい人は私をそう呼ぶから……」
「わかりました。フィー」
森の中で全身傷だらけの裸の男女二人、くすくすと笑いながら抱きしめあっていた。
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