第26話 二通の手紙①(改稿第2版)
あの日から私達の関係は変わった。
クロード君と私、別に恋人同士とかそういった関係じゃないけど、二人でいるのが楽しくなったし、私はクロード君といると胸がドキドキするようになって落ち着かなくなる。
私は呪いから解放されたわけじゃないけど、気持ちが楽になったのは確か。
でも、クロード君にはリリアさんがいる。
リリアさんは今、教会で禊をしているはずだし、手紙を送ることでリリアさんの心の中でクロード君に対する想いは膨らむ一方かもしれない。
そう思うと、私はリリアさんに対して物凄い罪悪感を覚えてしまう。
クロード君も思うところはあるのだろう。
一月から二月に一度は街に食料品や消耗品の補給やドロップ品や素材を冒険者ギルドに売りに来た際にリリアさんに手紙を出しているようだし……。
彼は知らないと思ってるようだが、私の事をリリアさんには『冒険者の先輩』と説明しているのを知っている。
冒険者の先輩かぁ・・・・・。
確かに嘘はついていない。
でも、本当のことを言っているわけでもない。
私もクロード君に内緒でリリアさんに本当の事を手紙で伝えた方が良いのかな?
でも、なんて伝えたらいいのかな?
別にクロード君とリリアさんの仲を壊したいわけじゃない。
普人種族のクロード君とエルフ種族の私……。
生きる時間に差があり過ぎるよ。
クロード君が私を
私は若い姿のまま、クロード君は年老いていく。
そして、クロード君とリリアさんの間には子供がいて、幸せな温かい家庭が・・・・・。
想像するだけで、涙が零れてくる。
私もクロード君の子供が欲しいなぁ……。
クロード君と幸せな温かい家庭が作りたいなぁ……。
でも、それは叶わない夢だよね。
私は悩みに悩んで、そしてリリアさんに手紙を送ることにした。
もちろんクロード君には内緒にして。
嘘偽りのない私の本心をしたためた手紙を。
そして今日、町に来た私達は冒険者ギルドでそれぞれリリアさんに手紙を出した。
クロード君には気が付かれていないはず。
ごめんね、クロード君。
私は悪い女です。
この後は、いつも通り冒険者ギルドのフードコートでクロード君が戻ってくるのを待つばかり。
すると、さっき受付で対応してくれた受付嬢が慌てた様子で此方に近づいてくる。
「あ、あの、冒険者のシルフィーさんで間違いありませんか?」
私の耳元で小声で訊ねてくる。
ああ、この娘、私の悪い噂を知ってて気を使ってくれてるんだと察した。
だから、私も頷くだけで返事を返した。
すると、受付嬢はそっと手紙を私の前に差し出してくる。
「領都司祭長様からのシルフィーさん宛てのお手紙です。直接手渡すように謂われております」
「司祭長様から?」
「はい、では、確かにお渡しいたしましたので、此方にサインをお願いします」
ペンを受け取り、受領書にサインをすると受付嬢は一度頭を下げると、カウンターに戻っていった。
手紙を確認すると、確かに領都教会司祭長の名が記してあり、蜜蝋で封がしてある私宛の手紙だ。
確かリリアさんが禊をするため身を寄せている教会があそこだったはず……。
でも、一度も訪れたことのないそこの教会の司祭長から手紙をもらう理由が解らない。
もしかして、リリアさんのためにクロード君と別れろとか書かれているんじゃ……。
待って、教会がそんな個人的なことを司祭長が書くかしら?
それに何処で、私がクロード君と一緒に居るって知ってるのよ?
取り敢えず、後でゆっくり読みましょう。
そう思って手紙をしまう。
「フィー」
「あ、終わったの?」
「うん、でも、領都教会の司祭長様から手紙が来てて吃驚したよ」
クロード君の右手には、私に来たのと同じく蜜蝋で封がしてある手紙があった。
「ねえ、その領都教会って、リリアさんがいるところよね?」
「うん、そうだよ」
「もしかして、私達の関係がばれたのかな?」
「そ、それはないと思うけど……、また揶揄ってる?」
「まあ、私とクロード君の関係って、世間一般的に愛人関係みたいなものじゃない?本妻さんはリリアさんで」
「!?」
クロード君の反応に、クスリと笑みが出てしまう。
「病気の本妻さんを放って置いて、浮気相手と長期のバカンスなんて、イケナイ旦那様だわ」
「全くフィーは……」
「それじゃあ、行きましょう」
クロード君と私は連れだって冒険者ギルドを後にする。
その夜、お互いテントの外と中で別々に手紙を読んでいた私達は、リリアさんを襲った新たな悲劇と勇者と三女神と教会の関係性を知ることになる。
そして、クロード君がもしかしたら次の勇者として三女神に選ばれる可能性と、出来るならば私にそれを阻止してほしいと懇願する内容だった。
勇者が三女神の玩具?
勇者の周りには三女神に
クロード君が次の勇者候補?
私にそれを阻止しろ?
なんだか凄い無茶ぶりされてるような気がするわ。
理解が追い付かない。
でも、私の大切なクロード君を奪いに来るっていうんなら、受けて立ってやるわ。
その時は覚悟しなさい、三女神、いや女狐たちよ。
そして、冒険者として立派になったクロード君をちゃんとリリアさんの元に送り届けて、さよならしないとね。
数ヵ月後、何事もなく冒険者としての日常を過ごしていた私は、突然の吐き気に襲われ体調を崩した。
原因不明のそれに、クロード君は慌てふためいていたが私には何故か確信めいたものがあった。
不妊魔法を施してあるはずだった。
でも、ここのところ月のものが来なくなっていた。
そんなことあり得ないと、ただ遅れているだけだと頭の中で必死に否定していた。
でも、ここまで来れば認めざるを得ない。
それは、出来るわけがないと思っていた子供が、クロード君と私の子供が私のお腹の中に宿っていることを知らせるものだった。
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