第24話 持ちつ持たれつ?(改稿第2版)

 時間は遡り、リリアの元から逃げるように旅立ったクロードがエルフ種族のシルフィーと出会い、暫らくたったころのこと。

 はぁ~。

 私の口からため息が漏れる。

 ギルドの所属する冒険者達の誰からも相手にされなくなり、諦めて死ぬために滅んだ故郷の村へ向かっていたのに、なんで私は居辛くなったこの町に戻ってきてるんだろう……。

 本当に人生、何が起こるかわからない。

 この町に戻ってくる原因を作った当人は、今はギルドの買い取り所でモンスターのドロップ品やモンスターから剥ぎ取った素材を買い取ってもらっている。

 出会ったころに比べれば、冒険者として立派になりつつあるけど、まだまだ心配の種は尽きない。

 私は目立たないように、ローブのフードを目深に被りながらも冒険者ギルドに併設されたフードコートから彼の後ろ姿を眺めている。

 なんか良いな、こういうの……。

 彼と出会って、初めて夜を共にしてから一月。

 今では昼間は私が剣術や魔法、対人戦闘、対モンスター戦、魔力鍛錬、モンスター解体術等々、冒険に必要なイロハを教えている。

 夜は彼に私の呪いを押さえてもらうために抱いてもらう日々だ。

 まあ、俗にいう持ちつ持たれつ?ていうのかな。

 私にとって、夢にまで描いた甘い日常をクロード君はもたらしてくれた。

 だから、今とっても幸せ、な、ん、だけど……。

 あ、あれ?

 よくよく考えたら、これってクロード君一人得なんじゃ……。

 うわぁ~ん。

 何が持ちつ持たれつなのよぉ。

 冒険者としての技能も心も身体も全部全部、クロード君に差し出しちゃってるよ!?

 クロード君に捨てられちゃったら、私、邪竜化一直線不幸一直線じゃない?

 そんな風にフードコートで一人身悶えしていると彼が戻ってきた。

 「フィー、お待たせ」

 「お、お疲れ様、クロード君」

 「顔が赤いけど、どうかした?」

 「う、ううん、なんでもないよ。ただクロード君がいてくれて幸せだなぁって思ってただけ」

 「フィーは、またそうやって揶揄からかうんだから」

 はにかむクロード君の顔を見ながら、私は初めてクロード君と交わった次の日の事を,クロード君と私の運命が変わった日の事を思い出していた……。


 「あっ、そうだ。ここでもう一泊しない?今からテント畳んで、出発する頃にはもう夕方になっちゃうしさ。だ、ダメかな?」

 「そうですね。仕方が無いので、もう一泊しますか。ただし……」

 「はぁ~い。今晩は自重しま~す。その代わりクロード君の隣で寝ていいかな?」

 「わかりました」

 「ありがとう~」

 シルフィーは裸体のままクロードに抱きついた。

 「と、取り敢えず服着てください、シルフィーさん」

 「その前に近くの小川で身体を洗ってくるよ。クロード君も一緒にどう?」

 「遠慮しておきます。僕は後で」

 「ぶぅ、守ってくれないの?」

 「え?」

 「一応武器は持っていくし、結界も張ってるけどね。小川とか泉で身体を洗ってる時が、男性冒険者も女性冒険者も一番無防備になるんだよ。武器を持って水には浸かれないしね。だから護衛が必要になるの。身体を見られるのを嫌だと感じる女性冒険者の子もいるけど、パーティーメンバーがモンスターや盗賊なんかに襲われたりして危険な目に合うよりも安全を優先しないとね。特にクロード君は将来的にパーティーメンバーは自分以外は全員女性冒険者で固めそうだし~」

 「そ、そんなことは」

 「まあ、男性パーティーでも女性パーティーでも、男女混合パーティーでも水浴びの場合は男女関係なく護衛を付けるものなんだよ。男性が水浴びしてるときは男性若しくは女性のパーティーメンバーが護衛に付くんだよ。まあ、見ないように隠れて護衛するのが礼儀だし、だから裸を見られた程度でギクシャクしてられないし、恥ずかしがってはいられないし、パーティーメンバーを襲うなんてしないんだよ。これはパーティーが上手くクエストを熟していくための不文律みたいなものなの。まあ、その反面テントの中では色々あるけどね」

 「そ、そうなんですか……」

 「そうなんですよ。だからクロード君、護衛お願いね」

 「は、はぁ」

 うふふふ、私はクロード君に嘘を付きました。

 結界の強度は、基礎レベルの高さに応じて強度が増す。

 今の私の基礎レベルは102だから、強度的には全く問題はない。

 実は護衛は必要ないのです。

 でも、クロード君と離れたくないと思った私は、クロード君に護衛を頼んだのですが……。

 「ねぇねえ、クロード君、どうしてそんなに離れてるの?それじゃあ護衛にならないじゃない」

 「だって、シルフィーさんが見ないように護衛しなさいって」

 「もう真面目なんだから、もし私が襲われたら、今君がいる場所から私のいるところまですぐに来れないでしょう?だからもっと近くで護衛しないとだめだよ。それにこれは気配察知の訓練にもなるんだからね」

 「いや、それは」

 「昨日わたしの身体の隅々まで見たんだから、もっと近づいても構わないわよ」

 「それにクロード君、女性とああいうことしたの初めてでしょ」

 「ええ、まあ」

 「じゃあ、教えておいてあげる。私はエルフ種族だから、普人種族とああいうことしても滅多にというかほとんど妊娠しないの。でも、普人同士だとかなりの確率で子供が出来ちゃうから避妊には気を付けること!」

 「女性冒険者のほとんどは妊娠しないように、教会とかで不妊魔法を掛けてもらってるけど、念には念を入れないと大変なことになっちゃうから」

 「でも、ああいうことして中で出されたら、女性冒険者としては出されたものを洗い流したいんだよ。理由は綺麗にふき取っても下着付けた後に中から垂れて下着が汚れちゃうし、結構臭いがねぇ。まさか態々ゴブリンとかオークを呼び寄せたくないし、洗浄魔法もあるけど私の場合、目の前でそれするの相手に失礼かなぁなんて思ってるから、小川とか泉があれば、そこで良く洗うようにしてるの。その後に洗浄魔法を使ってモンスターを寄せ付けないようにしてるって訳。だから変なことしてるわけじゃないから、顔赤くしないでしっかり見て女性の身体の事とか勉強しなさい」

 うん、上手く呪いのこと誤魔化せたかな?

 本当なら、わたしだって洗浄魔法で一気に綺麗にしたいんだけど、呪いの効果を弱めるためには、暫らくナカに留めておかないといけない。

 それはそれとしてクロード君、顔真っ赤にしちゃって本当にかわいいんだから。

 そんな反応してくれる人なんて久々だから、私も少し?いやかなり恥ずかしくなってきちゃうじゃない。

 事実、頬が熱く感じるから顔が赤くなってると思う。

 なんかうれしいな、こういうの。

 夕食を終え、テントの中で並んで横になっている。

 「ねえ、聞いてもいいかな?クロード君。どうして君は一人で冒険者してるの?」

 「え?」

 「普通、ソロで冒険者をやってる人は凄く強い人だけだよ。でも、クロード君はまだそれほど強くないよね。どうして?」

 「……。ジョブ無しの無能だから……。十二歳の成人の儀のとき、僕はジョブを得られなかったんです。それに基礎レベルもレベル1のままで……、幼馴染の婚約者がいたんですが、他の男性に寝取られてしまって……。教会のシスターは薬物中毒のせいで、正常な判断が出来てなかっただけだから、許してあげるように言われたんですけど、信用できなくって……。別れを告げて逃げてきちゃったんですよ。それで何処か辺境の村にでも行って畑でも耕そうかと……」

 「ちょっと待って、クロード君、言いたいことがいっぱい出来たんだけど、順番に行こう!クロード君は自分のステイタスを見たことないの?」

 「ええ、無いですよ。司祭様の鑑定とか、クラウンメンバーの鑑定で聞いたぐらいです」

 「ステイタスは自分で見ないと駄目だよ。他人が見たステイタスは絶対じゃないから」

 「え?絶対じゃない?」

 「ああ、ここからなのかぁ」

 クロード君の冒険者としての知識の無さがここまでとは、私も思い至らなかったわ。

 「あのね、他人が鑑定スキルで見たからといって、自分のステイタスが正確に表示されるとは限らないんだよ。つまり、自分で自分のステイタスを確認しない限り、ステイタス表示は更新されないんだよ。鑑定スキルでは更新される前のステイタスが表示されるから、クロード君の場合は基礎レベル1の時のステイタスしか表示されないの。教えてもらわなかった?」

 「教わってないです」

 ホントにもう冒険者ギルドやクラウンは何やってたのよ、もう……。

 職務怠慢どころの話じゃないじゃない。

 「それに鑑定スキルは、相手の基礎レベルが高いとまともに表示されないとか、まあ、色々デメリットがあるんだよ」

 「そ、そうなんですか?」

 「取り敢えず、クロード君、言葉に魔力を込めること出来る?魔力を意識して喉に集めて言葉を出すんだよ。 できそう? じゃあ『ステイタス表示』って言ってみようか」

 許可なく他人のステイタス表示を見ることはマナー違反だ。

 だから、私は顔を背けてクロード君のステイタス表示を見ないようにする。

 「はい、『ステイタス表示』……、はあああ?」

 クロード君の驚きに声に私は慌ててクロード君に顔を向け声を掛ける。

 「ど、どうしたの?クロード君」

 「い、今、目の前に僕のステイタスが表示されてるんですけど、基礎レベル7200って表示されてて……」

 「えええ!?ク、クロード君、ちょ、ちょっと私にも見せてくれる?ほ、本当だ。どういうこと?」

 クロード君のステイタス表示には確かに基礎レベル7200と表記されている。

 一体どういうことなの?

 基礎レベル7200なんて、見たこともないレベルだよ。

 それより、世界で誰もそんなレベルまで上がったこと無いと思う。

 だってS級冒険者だって基礎レベルは300越えくらいの筈で、それでだって物凄く強いのに、それの24倍って……。

 混乱する私はざっとだけどクロード君のステイタス表示を確認する。

 すると、更に驚愕する表記がある。

 称号が『ダンジョンコアを破壊せし者(ダンジョンコア破壊数2個)』

 「ダンジョンコア破壊数二個!?うそ、まさか本当に?」

 「ステイタスは……、基礎レベル1の時と同じなんだよね?」

 「はい」

 「クロード君も私のステイタス表示見ても構わないから、自分の表示と違うところ探してみて。『ステイタス表示』」

 「あ、あの、シルフィスさん、これって……」

 表示された私のステイタス表示には『状態:状態異常『邪竜の呪い(発情・軽度)』と表示されている。

 これで、クロード君に呪いのことばれちゃった。

 何となくだけど、クロード君には知られたくなかったから、知られてショックを受ける私が居た。

 でも今はクロード君のステイタス表示だよ。

 「ああ、今は気にしないで。クロード君の方を優先して、ね」

 「ねえ、この▲と▼が各数字の上下についてるところが違うね。あと何だろう?この未分配ステイタスポイントとか、未分配ジョブレベルポイントとか、未分配ジョブ経験値とか、ジョブ欄にも▲と▼がついてる」

 「でも、これって何の意味があるんだろう?」

 「さわってみるしかないかも」

 「一回だけさわって確認しましょう」

 クロード君がステイタス欄にある『▲』マークにそっとタッチするとステイタスが1上昇するのが解った。

 「「あ!」」

 「今」

 「うん、ステイタスの数字が一つ上がったね。あっ、未分配ステイタスポイントの数字は1減ってる。これって……。凄いよクロード君、自分で自在にステイタスとかいじれちゃうなんて……」

 しまった。

 興奮してクロード君の腕に抱きついてしまった。

 ただでさえ距離が近くなってたのに……。

 呪いが強く発動し始めてる。

 自分のステイタス表示に目をやると『状態:状態異常 邪竜の呪い(発情・重度)』になってる。

 ああ、駄目、我慢しなきゃ。

 身体が熱くなってきちゃ……。

 「ね、ねえ、クロード君、ごめん、今晩もしてもらってもいいかな?ちょっと我慢できそう、にな、い」

 「シ、シルフィーさん、もしかして!うぐっ」

 クロード君が何か言ってたけど、発情してしまった私は無我夢中でクロード君の唇を貪り付いていた……。

 

 私が目を覚ますと、まだテントの中は真っ暗だった。

 それに私もクロード君も全裸で、毛布が掛けられている。

 また、クロード君としちゃった……。

 もう駄目だな、わたしってば。

 自分のステイタス表示を消さないまま、しちゃった訳だけど、『状態:状態異常 邪竜の呪い』しか表示されてない……。

 完全に発情が治まってる。

 これの意味するところって、また失神させられちゃうほど感じさせられたってこと?

 ……。

 うわぁ、うわぁ、クロード君、まだ2回目なのに凄すぎないかな?

 クロード君って将来は絶対女性啼かせか何かになっちゃうんじゃ……というか、これは気を付けないと私がクロード君に完全に依存しちゃうかもしれない。

 私も結構やばいけど、クロード君はもっとやばいよ。

 クロード君がもし本気で寝込みを襲ってきたら……。

下手したら、私も他の女性も身体が持たない可能性も……。

 「シルフィーさん、大丈夫ですか?」

 考え事をしていると、私の頭の上からクロード君に声を掛けられた。

 「え?」

 自分の置かれている状況を改めて確認すると、私はクロード君の胸に抱きつくように横になっていた。

 現実を認識するにつれ、顔に血液が上がってくるのを感じる。

 本気で恥ずかしい。

 こんなシチュエーションなんて経験したことないよ!?

 ど、どうしよう。

 そうだ!

 毛布があるから、それを被ってしまえばいい。

 私は自分に掛かっていた毛布を掴んで頭の上まで引き寄せると、そのまま被って顔を隠す。

 すると、クロード君が毛布の上から私を優しく抱きしめてくれる。

 ああ、何だかほっとする。

 「ねえ、シルフィーさん、シルフィーさんの『邪竜の呪い』について教えてくれませんか?」

 クロード君の問い掛けに私はもう逃げられないことを理解する。

 頭まで被っていた毛布を少しだけずらして、クロード君の眼を見ながらポツポツと私は呪いのことを話しはじめた。

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