第23話 司祭長の聖剣とギルド長の刃、そして領主の魔剣

 死んだダンジョンと呼ばれるダンジョンがある。

 通常、ダンジョンはダンジョンコアによって生成される。

 ダンジョン内にいるモンスターも、基本的にこのダンジョンコアが生成する。

 基本的にというのは、例外的にダンジョンの外にいるモンスターがダンジョン内に住み着くことが確認されているからだ。

 ダンジョンコアは、未だ解明されていない部分が多いが、莫大な基礎レベル経験値やジョブレベル経験値を持ち、様々なモンスターのデータを保有するとされている。

 ダンジョンコアにもレベルがあり、最上級危険度指定であるSSS級からSS級、S級AAA級、AA級、A級、B級、C級、D級、E級、F級、G級、最低危険度指定のH級と十三レベルで危険度が分類されている。

 ダンジョンの深さも危険度が上がれば上がるほど深くなっていく、H級では5キロ四方正方形十階層が多く、現在確認されている最も危険なSSS級ダンジョンは広さは一階層50キロ四方の正方形で百階層を超えると言われるほど巨大だ。

 しかも地下に行けば行く程、モンスターも強く凶悪なっていく。

 但し、その分モンスターを倒せば、得られる基礎レベル経験値やジョブ経験値は莫大なものになる。

 他方、モンスターがもたらすドロップ品や素材は、高額で取引されるためダンジョンに挑む冒険者は後を絶たないが、犠牲も多い。

 だから、この世界では男女比が3対7、あるいは4対6であると言われ、人口が増えない原因とも、女性冒険者が多くなる原因ともいわれている。

 死んだダンジョンと言われるそれは、ダンジョンと繋がるダンジョンコアが保有する基礎レベル経験値やジョブレベル経験値を使い果たし、モンスターが出現しなくなったダンジョンの事だ。

 ダンジョンコアが再び基礎レベル経験値やジョブレベル経験値を貯めこめば、復活する可能性もなくはないが、可能性は極めて低い。

 ここは当の昔にモンスターが出現しなくなった死んだダンジョン。

 その最下層にあるボス部屋だ。

 数多の冒険者が、このダンジョンを制覇するために、この部屋を訪れたことだろう。

 今は訪れる者もいないが……。

 「ギルド長、何も君まで付いてくることはないのだが?」

 「そういうと思ってたよ、司祭長殿」

 「おいおい、わたしだけ除け者にしてさっさと出発するのだから、友達甲斐の無いと思わないのか?二人とも」

 「はぁ……、領主である君まで来ることはないと思うんだが……」

 「領主の地位は息子に譲ってきたよ。国王陛下にも了承を得ている。後のことは万事うまくやってくれるさ」

 「それにしても、その完全装備の君達を再び見ることになろうとはね」

 「それはお互い様だろう?私の聖剣グラハムと君の魔剣オーガ、それにギルド長ののアサシンソード『深淵の常闇』か、懐かしいね」

 「まあ、相手が相手だからね」

 「まあ、勇者ケインとそのパーティーメンバーは敵じゃないよ。特に勇者ケインはシスター長ネムリナの技を食らってるんだ。あれは時間が経てば経つほどに効果を発揮してゆく。感覚のズレが補正不可能なほど増大して、まともに戦えなくなる」

 「問題は、玩具を取り上げられた三女神がどう動くかだな……」

 「それが解れば苦労はないさ。現世に顕現してくれれば一太刀浴びせることも出来るが、顕現してこなければ一方的に殺されるだけだな」

 「そして、三女神が地上に顕現すれば、被害がどれほどになるかもわからない。だからこそ被害を抑えるために死んだ迷宮の最下層で待ち伏せしないといけないのさ」

 「創造神様は動かれないのか?」

 「まだその時ではないよ。三女神の力を削いではいる、しかし……」

 「この世界の管理権限までは、まだ奪えていない、か……」

 「三女神を滅ぼしました、そして世界も終わりましたじゃ話にならないらしい」

 「創造神様は、この世界に対して優しすぎるよ。この世界を見捨てて三女神と戦えば勝てるだろうに、それをしない」

 「まあ、だからこそ悪辣な策士にならざるを得なかったのだろうさ、創造神様は」

 「一番の懸念は、クロード君のことだ。もし三女神が次の勇者として彼を選んだとしたら……」

 「止めてくれ、想像もしたくないぞ」

 「基礎レベル7200の勇者か……、誰にも止められんな」

 「そのためにリリア嬢が最重要人物になったようなものだ」

 「人質か……」

 「その辺は良く分からん。教会総本山もあまりはっきりとは返答してくれなかったからな。何かありそうではあるな。ただし、リリア嬢の行動を制限するものではないそうだ」

 「しかし、クロード君が三女神に靡くかねぇ」

 「事実を知っていたら、靡かないだろうな」

 「そのためにクロード君に事実だけを書いた手紙を送っておいたよ。それとクロード君の監視につけておいた者から面白い報告があった。若造りババアが動く前に呪い付きのエルフが彼と行動を共にしているそうだ」

 「呪い付きのエルフ!?ああ、もしかして色情狂のシルフィーか!」

 「知っているのか?」

 「ああ、邪竜の呪いのせいで毎晩男を咥え込んでるから色情狂なんて言われてるが、冒険者としても魔法剣士としても腕は一流だな。それになかなかの美人でもある。三女神にもひけは取らんさ」

 「そうか……、なら一安心?かな」

 死んだ迷宮の最下層、ボス部屋。

 その扉の前に勇者パーティー一行が到着したようだ。

 私はゆっくりと立ち上がると聖剣グラハムを鞘から抜く。

 ギルド長もアサシンソード『深淵の常闇』を、そして領主も魔剣オーガを構える。

 そっと開かれる扉に向けて、私たち三人は最大レベルで剣技を放つ。

 だが、この程度では倒れないだろう。

 曲がりなりにも勇者だ。

 勇者といわれ、散々やりたい放題してきたのだ。

 何度私達が尻拭いをさせられてきたことか。

 私達だけじゃない。

 数多くの教会や国々が、司祭達が、領主達が、冒険者ギルドが、人々が歴代の勇者たちによってどんなに辛酸をなめたことか!

 いい加減その報いを直接我々から受けてもいい頃だろう。

 まあ、巻き込まれるパーティーメンバーには気の毒だが、ちゃんと勇者の手綱ぐらいは握っていて欲しかった。

 パーティーメンバーに初期の女性メンバーはいない。

 みんな死んだ。

 そして、今現在、若い女性のパーティーメンバーで固められている

 彼女達の罪も勇者と変わらない。

 勇者のせいで人生を狂わされていく女性達を、男性達を見て見ぬ振りをしてきたのだ。

 自分達の勇者に対する淡い恋心を守るために。

 例え、それが三女神に植え付けられた恋心だとしても……。

 やっとだ。

 やっと仇が討てる。

 勇者だからと封印した復讐心が蘇る。

 教会に入る前、今から二十年以上も前の話だ。

 まだ十代だった頃、私は結婚した。

 冒険者仲間の綺麗な女性と皆に祝福されての結婚だった。

 故郷に戻り、妻と二人つつましやかな生活だったが、幸いなことに子供にも恵まれた。

 とても幸せだった。

 私が二十代後半のある日、村に勇者ケイン率いるパーティーがやってきた。

 当時の勇者ケインは十代前半で率いるパーティーメンバーも若い女性達だった。

 なんでも、村から近い山地にドラゴンが現れたので討伐に来たらしい。

 あの頃は、まだ私も勇者というものを信じていた。

 だが、その幸せもあの勇者が周辺への被害を考慮せずにドラゴンに向けて放った魔法により無残に灰燼へと帰した。

 確かにドラゴンは討伐された。

 だが、村も壊滅した。

 妻と子供の遺体は見つからなかった……。

 私の幸せを壊した勇者を許せなかった。

 そして彼が何気なく吐いた言葉を一生涯忘れるものかとも。

 「ドラゴンを討伐できたんだから、これくらいの被害どうってことないでしょ」

 殺してやりたいと剣に手を掛けた時、村の教会の司祭様に止められた。

 「勇者と言う存在は、あああいうものだ。諦めるしかないのだよ。そう三女神が、教会が定めておる。真実が知りたければ教会に入ることじゃ」

 そして私は教会に入り、真実を知った。

 さあ、報いを受けろ!勇者よ

 そして、三女神よ!

 例え死すとも、目にもの喰らわせてやる。

 私は聖剣グラハムを構え直すと、勇者たちがいるであろう場所にゆっくりと歩き出すのだった。

 簡単に死ねると思ったら、大きな間違いだと思い知らせてやる。

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