第5話 教会の病室にて(改稿第1版)
リリアを教会に運び込んで、薬物中毒の治療を始めたのだが、一向に良くならない。
逆に体中が痛いと苦しみだしていた。
そんな状況を見ていたケインのパーティーメンバーの一人が、治療に当たっていたシスターに問いただした。
「ねえ、どういうことなの?治療すれば治療するほど、この子の、リリアの状態が悪くなってきてるなんて」
シスター達の顔にも困惑の表情が広がる。
「わかりません、しかし解毒魔法は効いています。なのにこんなに痛がるだなんておかしいわ。回復魔法も効果が無いなんて」
「至急、司祭様に連絡して!この痛がり方は明らかにおかしいわ。もう一度良く調べて!」
上司の判断を仰ぐべく、治療に当たっていたシスターの一人を司祭の元に走らせ、残ったシスターたちがリリアに状態把握魔法でリリアの清神状態と身体状態を把握しようと努める。
しかし、結果は「精神自失状態」と「薬物中毒状態」とでるだけそれ以上はわからない。
「リリアさんに関する情報をお持ちではありませんか?生まれた村でも、どういうふうに生活していたとか、何でもいいんです」
シスターの一人は、リリアが病気に罹患している可能性も視野に入れているようだ。
確かに病気だった場合、回復魔法を掛けても効果はない。
「私達も詳しくは知らないんです。私達のパーティーリーダーであるケインが一昨日連れてきて、彼女をとあるクラウンから匿ってくれって言われて……」
「それにしても、リリアさんに使われた薬物は悪質よ。解毒魔法に対する魔法抵抗力を持たせてるなんて、明らかに違法薬物よ」
一人の神父見習いが病室に駆け込んできて報告する。
「わかりました!どこかで聞いたことがある名前だなと思って調べてみたら、二年前にモンスターの氾濫で全滅した村の住民名簿の中に名前がありました。しかも村の教会の司祭様から修道女として弟子とする旨の書類と三女神様が御認めになられた婚姻誓約書が出てきました」
「ええっ!じゃあ彼女、教会関係者じゃない。何で冒険者ギルドから連絡が入ってないのよ!しかも三女神様が御認めになられた婚姻誓約書ですって!?聖紋の位置は何処だか書いてあった?」
「ええっと、左肩甲骨中央付近だそうです」
「急いでリリアを起こして、処置服を脱がせてちょうだい。聖紋を確認するわよ。男は室外へ」
「は、はい」
リリアの聖紋の位置は、書類の通り左肩甲骨中央付近にあった。
ただ、処女であれば青い聖紋であるはずが、赤くなっている。
婚姻誓約者同士が婚姻前に肉体関係を結んだところで聖紋が赤くなることはない。
赤くなるのは、婚姻誓約者以外の者と肉体関係を結んだということであり、婚姻誓約が破られた証拠だ。
合意か不合意かは関係ない。
だから、婚姻誓約書を交わした男女は家族や周りの人達に密かに守られることが多い。
「これは……。まずいわね」
深刻なシスターの声に、ケインのパーティーメンバーがためらいがちに尋ねる。
「あ、あの、いったい?」
「貴方達、三女神様が御認めになられた婚姻誓約書に関して何か知ってるかしら?」
「い、いえ、まったく存じ上げません」
「そうでしょうね。いまどき王侯貴族の間でしか行われなくなった儀式ですからね」
「でも、彼女達は村の司祭様の立会いの下で儀式を行ったのね。余程仲睦まじかったんでしょうけど、それを……。リリアはすでに処女じゃないわ。一体誰が相手?知ってるわよね。貴方達なら」
「リ、リーダーのケインです」
「この子に婚約者がいるってことは?」
「知っていたと思います。ある程度の事情説明は私達もされてますから。ですが」
「黙りなさい!創成の三女神像の前で司祭立会いのもと、男女が将来結婚しますって誓いを三女神様が御認めになられたものを婚姻誓約書というの!そして、誓約すると男女ともに体の何処かに聖紋が刻まれるの!だから、婚約者がいる場合は気を付けろって言われてるわよね?そのまま結婚できれば問題ないわ。でもね。三女神様が御認めになられた婚姻誓約書を交わした男女のどちらかが、もしくは両方が不義密通なんてしてごらんなさい。天罰が下るのよ。死ぬまで全身を激痛に苛まれてね。過去の事例だと一睡もできない激痛に20日間曝された挙句に衰弱死したってあるわ。痛み止めの薬や魔法も一切聞かないわ。一体いつから痛みが出始めたのか判らないけど、二週間から三週間で彼女死ぬわよ」
「え?」
「だから!このままだと彼女が死ぬの!まったく勇者だか何だか知らないけど、とんだ外道だわね。彼女は薬物の影響で幻覚を見ていたはずよ。もしかしたら好きな人のかもしれない。それにつけこんで肉体関係を持つだなんて……。三女神様が御認めになられた婚姻誓約書が未だに有効だということは、まだ婚約解消はしていないし、婚姻誓約書の相手の男性も生きてる。彼女の、リリアの婚約者は誰?もし婚約者を殺したり事故で亡くなったりしたら、その時点で彼女は死ぬわよ」
「クロードっていう冒険者でリリアと同じクラウンに居ます。けど今は、ケ、ケインがダンジョンに連れていってます」
「なんですって!? 貴方達まさか」
「ち、違います。ケインは事情説明しながら彼を鍛えるって」
「他人の婚約者を寝取っておいて、事情説明して鍛えるですって、ふざけるのもいい加減にしなさい!リリアを助けるには婚姻誓約書の相手の許しが必要だし、創成の三女神像の前で司祭立会いのもと婚姻誓約書の無効の儀式をしないといけないの!しかも不義密通した方は数年間は教会で禊をしないと赤くなった聖紋は消えないのよ!」
ケインのパーティーメンバーである女性陣は、シスターの剣幕に顔を青くして小さくなるしかなかった
その時、教会の建物が立っていることもできない程大きく鳴動する。
ガラスが割れ、壁には罅が入るほど激しい鳴動だった。
シスターが慌てて外を見ると、領都全体が揺れたようで、あちらこちらで倒壊した建物がみえた。
被害はかなり大きい。
炊き出しの準備と怪我人の治療、テントの用意をしないといけないと考えていると景色の一部に違和感を覚えた。
モンスターの侵入を防ぐ堅牢な城壁がそこだけぽっかりと無くなっていた。
いや、城壁だけじゃない。
城壁が無くなっている周辺にあったはずの建物までもが綺麗になくなっていた。
「一体何が起きたの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます