第32話 三女神達(三姉妹)の過去

 ふん、ガキを腹から掴み出されて握り潰された程度で泣き叫ぶとか能天気な奴らで反吐が出る。

 次期勇者として決定したことをクロードって新しい玩具に告げに来たのに邪魔なんかするからそういうことになるのよ。

 でもまあ、考えようによっては、私、あの女の事を助けてあげたともいえるけどね。

 あのままだったら、流産は確実だったし、早産に可能性を見出だしてたようだけど子供を産んでも拾い上げてくれる他人がいなきゃ赤子は死ぬ。

 そして、あの女が邪竜化しようものなら、目の前にいる赤子は餌でしかない。

 あ~あ、早く『神殺し』が生まれないかしらねぇ。

 それで、あの創造神をギッタギタに切り刻んで、存在そのものを消滅させてやるんだ。

 そうすれば、私は安心して死ねる。

 私のために、ルーナ姉様のために、私達以上に身体も心もボロボロの筈なのに頑張ってるアルテナ姉様を解放してあげられる。

 私達を助けようとしてくれた優しい神達を無残に殺して、私達の幸せを、家族を、女神アルテナ姉様を、女神ルーナ姉様を、そして私を穢しに穢し、私達姉妹の大切なものを壊した創造神様を絶対に許すものか!

 そして、私は過去の事を思い出していた。


 優しくも厳しい父様、慈愛に満ち私達をはぐくんでくれた母様

 アルテナ姉様には、婚約者の全能神オリウル様という素敵な婚約者がいて結婚間近だった。

 ルーナ姉様は恥ずかしがり屋だけど、とても優しかった。

 三姉妹の私達はいつも一緒だった。

 私にとって世界はとても幸せに満ちたものだった。

 創造神であるおじいさまがアルテナ姉様に邪な欲望を抱くまでは……。

 いや、おじいさまはアルテナ姉様だけじゃなく、ルーナ姉様や私にも邪な欲望を抱いていたんだ。

 あの日、私達姉妹は家から少し離れた草原でピクニックを楽しんでいた。

 母様が作ってくれたお弁当や姉様達が作ってくれたお菓子を摘まみながら、太陽の日差しにうっとりとし、花冠を作ったり、恋バナに花を咲かせていた。

 そこに馬に乗った創造神のおじいさまがやってきた。

 馬を降りたおじさまが私達に近づいてきて、アルテナ姉様にいきなり襲い掛かかった。

 ドレスが引き裂かれる音、アルテナ姉様の悲鳴。

 最初は何が起こってるのか理解できなかった。

 「や、やめてください、おじいさま」

 姉様のその声に私とルーナ姉様は、アルテナ姉様を助けるためにおじいさまに掴みかかった。

 「ええい、邪魔をするな。そこでおとなしく見ているがよい。後でお前達もたっぷりと可愛がってやるからな」

 おじいさまはそういうと、神力を使い私とルーナ姉様を身動きでないようにした。

 そして始まるアルテナ姉様への暴行を私達は声を出せぬまま見せつけられることになった。

 それから数刻後、私達姉妹はおじいさまに暴行され尽し、草原に横たわっていることしかできなかった。

 でも、これで終わりではなかった。

 おじいさま配下の者達によって、私達はおじいさまの屋敷へと連れて行かれ、軟禁され、毎日毎日穢され続けた。

 その頃、私達が家に戻らぬことに心配した父様と母様、姉様の婚約者のオリウル様が必死に私達を捜索していた。

 そして、ついに私達がおじいさまに連れ去られたことを掴んだ父様たちが、おじいさまの屋敷に乗り込んできた。

 やっと助かるんだ。

 私はそう思っていた。

 でも、待っていたのは絶望の始まりだった。

 おじいさまは、私達を連れ去り、監禁していることを認めた。

 そして、あろうことか両親の前に、姉様の婚約者の前に、穢され尽した全裸で首輪を嵌められた私達を引きづり出したのだ。

 そして、父様たちに告げたのだ。

 「返してほしければ、いくさしかないな」と。

 あとで知ったことだが、おじいさまは姉様の婚約者全能神オリウル様に自分の神としての権能を侵されることを恐れていた。

 だから、私達を手に入れ自分の欲望を満たすとともに、戦を仕掛けさせオリウル様の抹殺を図ったんだと。

 おじいさまは狡猾だった。

 自分で私達を穢し攫って戦となるよう煽っておいて、自分は被害者だと、孫娘誘拐の因縁を付けられたと周りに吹聴して味方を集めた。

 だけど、おじいさまに味方した神達は、みんな知っていた。

 私達がおじいさまの慰み者になっているという事実を。

 知っていておじいさまに味方したことを。

 本陣のおじいさまの両脇には、全裸の私達が鎖でつながれているのを彼らは見ているのだから。

 父様とオリウル様の軍は、圧倒的なおじいさまの軍によって蹂躙された。

 そして、本当の絶望が始まった。

 父様と母様、オリウル様は、私達の目の前で見るも無残に殺された。

 父様やオリウル様に従って参戦した神達も同じように殺された。

 そして、残された神達の妻や娘達も子供たちも兵達に穢されながら殺されていった。

 ある女性は腹から赤子を掴み出されて握り潰され、尻から鎗を付き入れら殺された。

 ある女性は穢されながら、手足を斬りおとされ最後に腹を斬り裂かれて死んだ。

 それを私達姉妹は、その光景を最後までみせられた。

 目に映るのは、私達を助けようと立ち上がってくれた神達の、そしてその家族たちの惨たらしい死体だけだった。

 その日、私達は帰るべき場所を失った。

 その後も、私達はおじいさまに穢され続けた。

 終わる日が見えない絶望の中で、ルーナ姉様は感情を失った。

 私は壊れてしまった。

 そうすることで、辛すぎる現実から逃げたともいえるのかもしれない。

 でも、アルテナ姉様だけは正気だった。

 私やルーナ姉様を守りながら、おじいさまに穢され続けた。

 そして、アルテナ姉様はおじいさまの創造神としての権能『創成』を奪うことに成功する。

 新たに創成の女神となったアルテナ姉様は、奪った権能でおじいさまに味方した神しかいない天界を滅ぼしたが、何故かおじいさまだけは滅ぼせなかった。

 だから、新たな世界を作って、おじいさまをその世界に閉じ込めた。

 その世界は、アルテナ姉様の良心の欠片。

 例え神であろうと、その世界に顕現すれば世界の理に縛られるように作られた。

 権能を失ったとはいえ、おじいさまは私達姉妹より遥かに強いし、強かだ。

 しかし、その世界であればおじいさまの力の大半は封じられる。

 あれから幾年月が経とうと、おじいさまは未だ諦めてはいない。

 権能を取り戻し、再び私達を世界を手に入れようとしている。

 だから、おじいさまを倒すには、どうしてもその世界で神を殺せる人間が必要だ。

 でも、未だに神を殺せる人間は現れていない。

 一体何が足りなくて、『神殺し』が現れないのか。

 ねえ、誰でもいいから早くアルテナ姉様を助けてあげて。

 今も尚正気を保って苦しんでいるアルテナ姉様を、創造神の魔の手から。

 そのためになら、神殺しを生み出せるなら悪神にでも邪神にでも何にでもなってみせるから……。


 過去を思い出して、決意も新たに周りを見渡す。

 もう、まだあの女、泣き叫んでるし、うるさいなぁ。

 このまま殺しちゃおうかな。

 あの玩具も私を睨み付けてるだけだし、早くあの女に治療魔法掛けてあげなさいよ。

 ああ、もう使えない鈍い男ね。

 「ちょっと、そこの、私を睨み付けてる暇があるならあの女に治療魔法掛けてやりなさいよ。 あのままだと死ぬわよ。まあ、私としては別に死んでもいいんだけど?それとも殺しちゃう方が貴方にとっては都合が良いのかしら?」

 そう声を掛けると、玩具は此方を警戒しながらあの女の元に行く。

 「フィー、しっかりしろ」

 そう言いながら、回復魔法を掛ける。

 クロードっていったかしら、スキルを覗くと回復魔法に攻撃魔法、体術に剣術、いろんな能力が使えるのね。

 ステイタスも全部振ってしまえば、確実にこの世界を滅ぼせる。

 でも何で、こんなにステイタス低いままなの?

 疑問に思った私は女の方のステイタスも覗く。

 ふ~ん、成る程ね。

 自分より強くなられちゃうと、教えることも教えられなくなっちゃうからねぇ。

 敢えて低く抑えさせてるわけだ。

 でも、この玩具ってば顔は全く似てないけど、まるで人間版全能神オリウル様みたいな能力よね。

 基礎レベルも高いし、スキルも……、あれ?コイツ、勇者ジョブも勇者スキルも私達が勇者選定しなくても選べるの?

 でも、コイツも『神殺し』に至るのに何かが足りないのよね。

 神に対する明確な反意がたりないのかな?それとも……。

 う~ん、そうだ!いい事思い付いた。

 あの女を利用させてもらおう。

 それにリリアとかいう女も。

 そうと決まれば、早速始めますかね。

 私の顔に笑みが浮かび、玩具に抱き付いて泣いている女、それを抱きしめて慰めている玩具、その後ろにそっと私は近づいていく。


 




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