第60話 クロードの決断

 毎日の訓練は順調に消化され、剣の鋭さも魔法の正確さも格段に上達しつつある。

 以前は基礎レベル150相当にまで負荷をかけて能力を落としていたが、今はもっと負荷をかけなければルーナさんもウリエルもシルフィーもアルテナさんも僕の相手を務めることが出来ない。

 ルーナさんからもウリエルからも能力的に及第点をもらっている。

 これで、いつでもシルフィーの呪いを解くことが出来る。

 ただ、今の僕にとって最大の悩みとなっているのが、アルテナさん達三姉妹の創造神によって掛けられた呪いの解除もしくは呪い回避のアイテムの作成方法だった。

 一部種族に関係するジョブ以外の全てジョブを最高レベルで習得している僕にとって、アルテナさん達の呪いを解くこと、もしくは創造神に見つかることなく世界に溶け込むアイテムは製作可能だと思っていた。

 錬金術師ジョブからの説明でも『可能』という返答をもらっている。

 だが実際にアイテムを作ろうとしたり、呪いを解こうとすると、『不可能』とされる。

 無理して呪いを解いたり、創造神に三人の存在を認識させないアイテムを作ったとしても、創造神にアルテナさん達の居場所を悟られる危険性がある。

 錬金ジョブ上『可能』であるのに、作成し実行しようとすると『不可能』になる。

 制限を掛けているとはいえ、普人族としてのステイタスは上限に達してしまっているし、全てのジョブレベルも上限一杯にまで上げてしまっている。

 こうなると、『不可能』と出る原因で残るのは『種族』の影響だろう。

 アルテナさん達は『神族』という種族だ。

 そして、創造神も『神族』だ。

 基礎レベルで言えば、僕は創造神さえも遥かに超えているらしい。

 単純に考えれば、僕自身が『普人族』から『神族』以上の種族に変えれば創造神の呪いも打ち破ることが出来るはず……。

 ただし、神族としての強靭な肉体と莫大な魔力や英知を得る代わりに、人としての寿命を捨てることになる。

 種族を変えれば、リリアともシルフィーとも同じ時間を生きることはできなくなる。

 ルーナさんに聞いた話だと、神族は他の種族と比べて圧倒的に歳を取り難い種族だという。

 それは普人族であるリリアやエルフ族であるシルフィーが老いて死んでいくとしても、僕はまだまだ20代の姿を保っているらしい。

 エルフ族であるシルフィーだと本来なら僕がシルフィーを置いて先に死んでしまう。

 神族になれば、それが逆になる。

 先に老いて死出の旅へと旅立つリリアやシルフィーは、一向に歳を取らない僕に対してどう思うのだろう……。

 そう考えるとすごく怖い。

 アルテナさん達は僕が神族になることを望んでいるようだけど……。

 一方で、アルテナさん達は創造神との決着を付けることに決めた。

 それは、圧倒的な基礎レベルを持ち神族さえ滅ぼしうる僕がいるから……。

 でも、今のままでは彼女たちが不利になるのは予想が付く。

 創造神に彼女たちの居場所が露呈すれば、創造神に忠実な下僕であるが三人を再び捕まえるために襲い掛かってくるだろう。

 しかも、創造神に居場所が露呈するということは創造神の呪いが復活することを意味する。

 そうなれば、彼女たちの力が創造神に吸い取られながら、騎士団と戦わざるを得ない状況になり、消耗戦になってしまう。

 それに、今度こそ創造神は自分に二度と反抗できないように、徹底的に心を折りに来るだろう。

 三人が捕まった時、何が行われるか想像に難くない。

 僕は、どうすればいい?

 果たして、老獪な創造神に勝つことが出来るのだろうか……。

 僕は首を左右に振って、一旦思考を白紙に戻す。

 今置かれている自分の状況を整理する。

 基礎レベルはLv79800。

 普人族として、基礎レベルは上限であるLv1000に達している。

 普人族として、全てのステイタスも上限である500に達している。

 普人族として付けるジョブには全て付いている。

 全てのジョブレベルは、上限一杯まで上がっている。

 ジョブのレベルが上限に達していることによるステイタス補正だけで、ステイタスは上限である500に更にプラス補正で1000を超えている。

 更に基礎レベルがそこに補正値として加わるから、実質80000を超える。

 ジョブポイントもスキルポイントもそれぞれ何百万ポイントというレベルで残っている。

 不明な点は、種族進化をしたとき、ステイタスの上限やジョブの上限がどうなるのか?

 新たなジョブが派生するのか?

 神族になったとして、創造神に勝てるのか?

 そして、一番の問題が種族を元に戻せるのか?

 今までステイタス画面で、数字をいじってきたが数値の増減は出来た。

 ジョブ数値も増減できた。

 では、種族は?

 種族欄を普人族から神族に変化させてみるとその系統に沿った種族が表示されるようになる。

 普人族→天使族→古代天使族→神族→古代神族→超神族→古代超神族→創生神

 創生神?

 これだけ『族』じゃないんだな……。

 というか、選択できてしまうことの方が怖いんだけど……。

 しかも、ステイタス欄に『これにしますか? YES or NO』って!?

 基礎レベル79800って最上位を選べちゃうほどのレベルなんだ……。

 試しに他の最上位を探してみると破壊神かぁ。

 結局のところ「創生神」と「破壊神」の二つにしか行きつかないんだな……。

 今のところ、創生神にしても破壊神にしても、なってる人はいないみたいだ。

 というか、普人族とか、エルフ族とか、妖精族とか、一番下の種族が一番多いな。

 神族なんかは4人って表示されてるし、それ以上では0人だ。

 しかし、ダンジョン・コア恐るべしだな……。

 「あの~、そのダンジョン・コアを7個も8個も壊してるクロードさんの方が恐るべしなんですが……」

 背中越しにいきなり声を掛けられ、驚くクロード。

 どうやら内心が言葉に出ていたみたいだ。

 後ろに振り向くと、呆れ顔の四人がいた。

 「え?いや、あの邪竜さんがダンジョン・コアを自分の分も含めて6個ぐらい持ってて、それを偶然壊しただけですよ?」

 「じゃあ、クロードさんとその邪竜さんが恐るべしなんですぅ」

 「でも種族進化って、こんな感じなんですね」

 「でも、アルテナ姉さま、確かあの糞爺から創造神としての権能『創成』を奪ったんですよね?でもこの『創生』って?」

「創成は世界を成り立たせることよ。創生は世界を生み成り立たせること。同じようなことを言っているみたいだけど一番の違いは有から作りだすのが創成。無から作り出すのが創生よ。権能が段違いなのよ。でも、どんなことになるかわからないから、絶対『創生神』を選んじゃダメだからね」

 アルテナさんに釘を刺される。

 でも、神族の一人である創造神と唯一神の創生神とでは、出来る範囲が違うはず。

 特に無から有を作り出せるのなら、アルテナさん達の呪いも完璧に解けるかもしれない。

 

 そして僕は密かに決断する。

 その日の夜、皆が寝静まった頃、僕は種族進化を行った。

 事前の予想に反して、種族を元に戻すことは不可能だった。

 そして、リリアやシルフィーだけでなく、アルテナさんやルーナさん、ウリエルが無事に寿命を終え死出の旅へと出たとしても、僕は若いまま歳を取っていないだろうということに気が付かされた。

 明日、もしアルテナさんに知られたら、ただでは済まないだろう。

 だから、ステイタスに新たに得たスキル『偽装』を掛けて、事実を隠蔽する。

 この世界に唯一人取り残されるにしても、彼女たちに知られちゃいけないから。

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幼馴染の許嫁をはぐれ勇者に寝取られてショックを受けましたが、それが僕達にとって本当の冒険者としての始まりでした。 龍淳 燐 @rinnryuujyunn

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