第57話 彼女たちの企み?

 強くなるために一刻でも早く訓練をはじめたかったクロードだが、重大な問題が一つ。

 クロードが邪竜と戦うためにステイタスを普人族として限界まで上げてしまったことで、種族としてステイタス限界値には程遠い神族であるアルテナやルーナ、ウリエル、妖精族であるシルフィーの四人では訓練の相手にならない、いや、今の世界でクロードと真面に戦えるモンスターや冒険者が存在しなくなってしまった。

 そのためにまず、クロードの力や速さなどありとあらゆるものに制限をかけなくてはならなかった。

 そして現在、クロードはルーナに言われた剣術の型である素振りを結界の隅でゆっくりとした動作で行い、アルテナやルーナ、ウリエル、そしてシルフィーは車座になってクロードの能力制限の方法や訓練の内容などを話し合っている。

 「でも、姉さまたち、クロードさんの能力に制限を掛けると言っても、制限の掛け方は一杯ありますよ。一体どういう風にするつもりなんですか?目的を何にするかによって変わってきますよ」

 「問題はそこね」

 「万が一のことも考えるなら、クロード君の能力制限は数段階に分けて、再設定と解除が可能なものが良いわ。あと反射神経もどの制限でも違和感が生じないように調整しないと制限解除するたびに振り回されることになるし……」

 「万が一ですか?」

 「これはクロード君に直接聞いたことなんだけど、みんなリリアって名前に覚えがないかしら?」

 「うん、覚えれるよ。お姉さまに教えてもらったもの、確か神罰が下った娘だよね」

 「でも、顔や容姿は知らないわよね?」

 「「「うん」」」

 「どうやらリリアって娘は私にそっくりらしいわ。双子じゃないかというくらいに」

 「うわ、知らなかったとはいえ、姉さまにそっくりな姿の娘にとんでもないことしようとか言ってたけど、そうなると……」

 「まさか?」

 「ウリエル、ルーナの想像の通りよ。まず間違いなくあの爺はリリアさんを手に入れようとするでしょうね」

 「アルテナ姉さまの代わりに、ですね」

 「幸いなことに、今の私たちはクロード君の作ってくれた装飾品のお陰であの爺には消滅したと考えてられていると思う。そこに私そっくりなリリアさんがいたら、あの爺のことだから絶対に手に入れようとするでしょうね」

 「でも、確かリリアって娘は神罰が落ちて今禊の最中なんじゃ……」

 「その通り。でも、禊が終わるであろう16ヵ月後以降、あの爺がどう動くか……、いいえ、もう動いてるかもしれない」

 「攫うか、召喚するか」

 「彼奴は、今、アルテナ教会の教皇に就いてるから、聖女として迎えようとするんじゃないかな」

 「そうなる前に会いに行って、保護しないとまずいんじゃ?」

 「でも、上手く逃げられたとしても、どのみち教会騎士団とぶつかる羽目になるわ」

 「教会騎士団ですか……。あの糞爺の忠実な子供であり兵隊ですね?」

 「それでね。ウリエル、ルーナ、シルフィーさん。今回クロード君に出会えたのは物凄い幸運なことだと思うの。シルフィーさんは邪竜の呪いを解くことが出来るし、私たちにとっては、あの糞爺を教会騎士団ごと完全に滅ぼすことが出来る。この機会を私は逃したくない。今度こそ父様や母様、皆の、彼の、オリウル様達の仇を打ちたいの」

 「ねえ、アルテナさん、話は分かるわ。でも、もしリリアさんを故意に危険に、創造神に差し出すようなら私は賛成できないよ。それにそんなことをしたってクロード君にばれたら、貴方達を許さないと思う。そして、貴方は貴方と同じ容姿を持つ彼女が貴方と同じ目に合うのを許容できるの?」

 「それは……」

 「でしょう。どのみち、クロード君が力に振り回されているうちは動けないわ。今できることはリリアさんに手紙で自身の身に迫ってる危機を知らせることとクロード君を一刻も早く鍛え上げて、素敵な男性に作り替えることよ!私たちの手で!」

 「「「おお~~~~~!」」」


 結界の隅で剣術の型をゆっくりと繰り返し、クロードは自身の体に覚えこませていく。

 結界中央部では、クロードの能力制限と訓練の相談が行われているはずなのだが、段々と話の内容がずれていく。

 (シルフィーやアルテナさん達、気が付いていないと思うんだけど、話の内容が駄々洩れなんですけど……。でも、創造神がリリアを狙う可能性があるとは思ってもみなかった。もしアルテナさん達にしたように、リリアに手を出すというのであれば、リリアの幸せを踏みにじるのであれば、創造神を絶対に許さない、ただでは済まさないぞ)

 そんなことを考えていたからなのか、クロードから強烈な殺気と威圧が漏れ出して、結界内の空気を圧迫する。

 結界内の空気が突然変わったことにシルフィーやアルテナ達が慌てだす。

 「ど、どうしたの!?」

 「ク、クロードさんが」

 「こ、これはきつい」

 「こ、こらぁ~、ク、クロード君、殺気と威圧を出すのやめなさい。い、息ができないでしょう」

 クロードは自分が殺気と威圧を放つていたことに気が付いておらず、シルフィーたちの言葉に戸惑ってしまう。

 「え!?」

 「「「「え!?じゃ、なぁ~い」」」」

 いきなり強烈な殺気と威圧をクロードから受けた四人は、クロードが本気で怒ったときのことを想像して、恐怖に膝や身体を震わせながらクロードに苦言を呈していた。

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