第12話 リリアの決意(改稿第4版)
トントントン
シスターは扉をノックすると、中にいる人物に声を掛ける。
「リリアさん、何時まで閉じこもっているつもりですか?いくらクロードさんに許されたとはいえ、三女神様からはまだ許されていませんよ。そのまま一生、誓約を違えた聖紋を抱えながら生きていくつもりですか?それに貴方はまだ薬物中毒も治っていないのですよ」
トントントン
「どうしますか?他にも診なければならない患者がいますが……」
「こういっては何だけど、何時までも彼女の都合に付き合ってはいられないわ。強行突破するわ。鍵を外すわよ」
「「はい」」
療養施設の各部屋にある扉は基本的に内側から鍵が掛かる。
防犯対策や夜這い対策、プライバシー保護とかであるが、絶対ではない。
自殺対策だの、何だのと理由はいくつかあるが、基本的に一人の患者に時間を掛けられないという人的な理由が大きい。
シスターたちは、扉の外側にだけある鍵穴に鍵を差し込んで回すと、内側から掛けた鍵を無効化する。
「リリアさん」
「駄目ね、眼が死んでる。精神が病んでるわけではないから、これは荒療治が必要かしら?」
年嵩がほんのちょっとだけ高いシスターがリリアに近づき、耳にそっと囁く。
「ねえ、リリアさん、クロードさんに捨てられた気分ってどうお?あんなに素敵な男性なのに薬物中毒とはいえ他の男性をクロードさんと勘違いして操を捧げて、毎晩、盛ってたんですってねぇ~。ぷぅ~くすくす。ねぇ、今どんな気分?今頃クロードさんは傷心の旅へ、そして新しい出会いを経て恋人同士に果ては結婚かしらねぇ~、リリアさんはこんなところで一人いじけて行かず後家に、誓約を破っちゃって聖紋は真っ赤かぁ~♪リリアさんが身持ちの硬い女性だって言っても、誰にも信じてもらえず~♪阿婆擦れリリアは街角で男漁りぃ~♪そして通りを見れば幸せそうなクロードさんと美人の女の人~♪
あの時教会でうじうじしてなければぁ~♪クロードさんの隣に居たのはリリアさん、貴方だったかしれないのにねぇ~♪」
ビクッとリリアの肩が動く
「あの外道も女連れ~♪自分だけが不幸になり~♪外道を殴ろうにも力不足で泣き寝入り~♪ぷぅ~くすくす、ねえ、リリアさん今どんな気分?怒っちゃう?泣いちゃう?
にやにや、わははなのは、あなたを騙して操を奪って、毎晩朝までハッスルしてた外道だけ。悔しくないのぉ~?今頃外道は、『俺、あのリリアちゃんの初めて奪っちゃった上に一週間もウハウハだったんだぜぇ~。またリリアちゃんたら激しく求めてきてよぉ~。堪らなかったぜ~。今は教会に居るけどよ、また可愛がってやるさ。ああ、皆にもお裾分けしてやるよ』とか色んな処で吹聴してるかもよ~。ねぇ~リリアちゃあん、今どんな気分?ぷぅ~くすくす~♪」
ビクッビクッとリリアの肩が再び動く。
ドン引きする若いシスターの二人。
「せ、先輩?それはちょっと……」
「年齢的なものを考えた方が……」
「お黙り!ほら、今のうちに解毒魔法掛けて!」
「「ひぃ、ご、ごめんなさい」」
解毒魔法を掛け終わると、シスターたちはリリアの部屋から出て行く。
しかも外した鍵まで、しっかりかけていく。
リリアは、シスターたちが部屋に入ってきたとき、最初のうちはもうどうでもいいと思っていた。
自分が初めてを捧げたのがクロードじゃなかったことが悲しくて、毎晩のように求めた男性がクロードじゃなかったのが、それに気付けなかった自分が悲しくて悔しかった。
このまま部屋に閉じこもって、クロードが居ない現実から目を背けていた。
でも、シスターの一人がリリアの耳元で囁く言葉が、胸に突き刺さった。
次の日も、次の日も、次の日も、次の日も、シスターたちは部屋に入ってきては、一人がリリアの耳元で囁き、二人が解毒魔法を掛けていくのを繰り返す。
そんな日がすでに二週間も続いる。
毎回最後に、解毒魔法を掛けていた二人のシスターはリリアの耳元で囁くシスターに苦言を呈している。
「せ、先輩、それ程リリアさんの事、お嫌いなんですか?……」
「年齢的なもの考えた発言をされた方が、年齢では勝てませんし……」
「お黙り!二人とも若いからって(泣)クロードさん、イケメンだったのよ。しかも婚姻誓約を解消した際もリリアさんの幸せを願ってたわ~。そんな男性滅多にいないのよ。リリアさんがいらないなら、私が欲しい位よ。だって司祭長様が仰ってたのよ。クロードさん、そのうちあの外道より必ず強くなるって。そうなったら一度でもいいから抱いてほしいわぁ」
「「ええ、そうなんですか!?私達にもチャンスあるかなぁ」」
ビクッビクッビクッとリリアの肩が動く。
クロードがあの外道より強くなるの?
さっきシスターが耳元で囁いてた。
クロードはシスターたちから見てもカッコよくて、彼が強くなって訪ねて来たら毎晩のように彼の部屋に夜這いに行くこと間違いなしだって。
私は相手にされない、可愛そうって……。
何だろう、段々腹が立ってきた。
何故、あのシスターにあそこまで言われないといけないのだろう。
何故、私が街角で男漁りして生活するんでしょうなんて言われないといけないのだろう。
あの外道に遣り返せない弱い弱いリリアちゃんって……、あの糞シスター!!
見てなさいよ、絶対に私の初めてを奪った外道はぶちのめす!
ぐちゃぐちゃの肉の塊にしてやるんだから!
そして、あの糞シスターは泣かすわ。
クロードを他の女なんかに渡さないわ。
絶対絶対クロードを取り戻すんだから。
クロードに今は嫌われていても、絶対また好きになったもらうもん。
うん、ちょっと泣きたくなってきたけど、先ずは強くならなくっちゃね。
まっててね、クロード。
浮気しちゃ、許さないから、うふふ。
精神回復なのか、洗脳なのか、疑問があるところだがリリアはこうして精神的復活を果たすのだった……。
因みにその頃クロードは、背筋に走る怖気に身震いしていたとかいないとか……。
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