第13話 ナンパされてダメ出しされて……。

 リリアが精神的に復活を果たしていたころ、クロードは一人、旅を続けていた。

 でも、一人になると思い出すのはリリアの事ばかりだ。

 それはそうだろう、生まれてから十四年、クラウンに所属して離れ離れになって二年、そして、あの場面だ。

 自分の周りには、大人とリリアしかいなかった。

 そのリリアは、彼を選んだ。

 リリアが薬物中毒になっていたのは後から知った。

 だから、リリアが彼に操を捧げてしまったのは、薬のせいだと、彼女の本心ではないと説明された。

 でも、僕は理解できなかった。

 僕と彼は体格も違えば顔つきも違う。

 年齢だって違う。

 髪の色だって違い過ぎる。

 灰色の僕とライトブラウンの彼、これでどうやって間違えるっていうんだ。

 だから、僕は、婚約者を奪われた可哀想な男として、シスターに慰められているんだなって思った。

 シスターの話を聞けば、彼女は三女神の婚姻誓約書に対して否定的だった。

 シスターは、リリアに掛けられた三女神の婚姻誓約書を解きたかったのだろう。

 すでに十日も前にリリアへの気持ちが無くなっている僕にとって、リリアの三女神の婚姻誓約書の解消なんてどうでもよかった。

 ただ、僕が三女神の婚姻誓約書を解消しないことで、リリアを許さないことで死なれるのだけは勘弁してもらいたかった。

 『僕がリリアを許さなかったから死んだ』なんて言われたくもないし、記憶にも残したくなかった。

 だから、彼女を許したし、彼女の幸せを願った。

 その後、彼女がどうなろうと僕は知らない。

 それに僕は無能なのだから、何処か辺境の村へ行って、畑でも耕すのがお似合いだ。

 そう思うこと自体、リリアに未練があるように感じて、極力周りに景色を楽しむようにゆっくりと一人旅を楽しんでいる。

 いや、一人旅を楽しんでいたはずだ。

 そのはずだったのだが、いつの間にか変な人に付き纏われている。

 それに気が付いたのは、まだ日が高い昼過ぎ頃のこと。

 のんびりと歩いていた僕が後ろに人の気配を感じ振り返ると、その人はまだ僕の数十メートル後ろを歩いていた。

 そんなに離れているのに気配が感じられたことを不思議に思いながら、歩き続けていると、それが段々と近づいてきて、あっという間に隣を歩いていた。

 歩くスピードが速い人だなぁと思っていたが、僕を抜いて歩き去っていく様子がない。

 逆に僕に徐々に近づいてきているようにみえる。

 最初に並んだ時にあった二メートルという間隔が、徐々に一・五メートルになり、一メートルとなり、今は五十センチもあるだろうか。

 隣を歩いている人物をそっと横目で観察するクロードだったが、女性なのは体形で分かったが、フードを深くかぶり顔は良く見えない。

 しかし、帯剣はしている。

 怖くなったクロードは、ブーツの紐を直す振りをして立ち止まってしゃがんでみたり、走ったり、用をたす振りをして、道を外れて森の中で隠れてみたりしたのだが、女性はその都度立ち止まり、走り、道を外れ森の中をぴったりと付いてくる。

 そして、段々と怖くなって本気で逃げ出そうと思い始めた矢先に、終には話し掛けられてしまう。

 「ねえねえ、君って良い男だね。名前は?今幾つなの?冒険者なの?ねえねえ教えてよ~」

 あ、怪しすぎる。

 そう僕が思ったことを誰も攻められまい。

 最初のうちは無視をしていれば、そのうち諦めるだろうと思っていた。

 「グスッ、ねえ、無視しないでよ~。シクシク、ねぇ、お話しようよ~」

 だが、段々と泣きが入ってきた女性に結局は根負けし、名前から始まり色々なことを話さざるを得なくなってしまった。

 話している中で彼女の名前やらいろいろなことが聞けた。

 彼女の名前はシルフィーさんといい、エルフ種族の冒険者なんだとか。

 初めてみるエルフ種族のシルフィーさんは、とても綺麗で、金髪のロングヘアが風にそよぐ姿は一種の美術品のようだった。

 今は故郷に帰る途中で、一人旅なんだけどあまりに寂しいので、前を歩く僕に声を掛けたのだそうだ。

 「要するにナンパよ」

 そう話ながら時折無邪気な笑顔を見せる。

 その笑顔を見る度にドキッとさせられ、心を落ち着かなくさせられるが、その度に背中に悪寒が走るにはなぜなのだろう?

 その日は、街道を外れた場所で野宿することになったのだが、僕はシルフィーさんからダメ出しをもらうことになる。

 「クロード君、そんなことも出来ないのに旅に出たの?それは基本中の基本だよ?」

 「先ずはキャンプ地に適した場所を……」

 「場所が決まればテント張りだよ、テント張りと言ってもズボンにテントを張っては駄目だぞ」

 時々下品な冗談を言っては、場を凍らせる。

 「さあ、テントを張り終えたら次は焚き火用の薪を取りに行くよ」

 「薪を集めて来たら、火起こしだよ」

 「ばか!そんなことしたら火傷するでしょう。もう私が火を付けるから良く見てなさい」

 「次は水を汲んでくるわよ」

 「食料は?」

 「駄目じゃない、ちゃんと食糧を買っておかなきゃ。仕様が無い。今回は私の食糧を使おう」

 「どう?どう?美味しい?お口に合ってよかったわ」

 「さあ、寝るとしましょうか。警戒用の結界と魔物除けの結界を二重に張ったから見張りは要らないし、ちょっと冷えてきたから、私のテントで一緒に寝ましょう?」

 「こ~ら、年上の女性に恥をかかせるもんじゃないわ。」

 そうしてクロードは、シルフィーのテントに連れ込まれてしまう。

 クロードは抵抗して、テントの外へ逃げようとするが、シルフィーに抑え込まれ、あっという間に服を脱がされていく。

 「た、駄目ですよ。シルフィーさん、お願い、やめて、こういうことは恋人と、ムグッ」

 シルフィーに口唇を塞がれ、クロードの口の中に舌が侵入してくる。

 最初は優しく、そして徐々に大胆に激しく蹂躙してくる舌の動きにクロードは段々と抗えなくなってくる。

 キスによってすっかり抵抗する気力を失ったクロードにシルフィーは耳元で囁く。

 「ナンパだって、私は言ったよ?」

 再びシルフィーはクロードにキスをすると、器用に服を脱ぎ始めクロードの身体に自分の身体を押し付けていった。

 そしてその夜、クロードは無理矢理大人の階段を登らされることになる。

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