第55話 帰還、そして三人の混乱(全面改稿)

 アルテナの提案にクロードは困惑する。

 普人族から神族への種族進化ができる!?

 慌ててクロードは、自身のステイタスを表示させて確認する。

 表示させた自身のステイタスの種族表示欄の横に▲▼のカーソルが新しく表示されている。

 クロードが恐る恐るカーソルに触れると種族名が複数表示される。

 その中には、アルテナが言った『神族』という表示もある。

 その他にも『妖精族(エルフ)』『ドワーフ族』『獣人族』『悪魔族』『魔人族』などの種族が大量に表示されている。

 中には聞いたこともないような種族まである。

 種族の他にも獣人族などでは『猫人族』『犬神人族』『虎人族』『兎人族』『龍人族』などの支族も含めれば、数百以上に上っている。

 「ア、アルテナさん、これって一体どういうことなんでしょうか?」

 「私にもよくわからないのよ。私達とクロード君との違いがあるとすれば、この『ダンジョンコアを破壊せしもの』って称号が関係してるんだと思うんだけど……」

 「え?でも創世の女神であるアルテナさんがウリエルやルーナさんと一緒にこの世界を創生したんじゃないんですか?」

 「世界を創生したって言っても、世界の全てを創生したわけじゃないの。世界を何もない状態から作れる権能を持つのは創造神だけ……。私は創造神から世界を作る権能を奪い取ったけど、神力が足りなくってウリエルやルーナに手伝ってもらって、元々あった前の世界を滅ぼしたの。そしてその上に新しい世界を作っただけ。だから、ダンジョンコアが何なのか、どういったものなのか分らないの。前の世界には魔物やダンジョンなんてものは存在しなかったし……。多分、全てを知っているのはあの男、創造神だけだと思う。ごめんなさい」

 そう言ってアルテナは申し訳なさそうな顔をして謝罪してくる。

 クロードは慌ててその謝罪を否定する。

 「謝らないでください。話はルーナさんやウリエルに聞いてます。事情が事情ですし仕様がないですよ。僕の方こそ、すいません。」

 「ううん、そんなことないよ」

 「それで、アルテナさんが提案してくれた『神族』への「種族進化」なんですが、邪竜と戦ってみて良く分かりました。自分はまだまだ未熟なんだって。このまま「種族進化」しても何も変わらない、未熟なままだと思うんです。だからもう暫くこのままでいさせてください」

 「クロード君がそこまで言うのなら……」

 「それに今まで忘れてましたけど、僕がちゃんとした冒険者になったのって七~八ヵ月ぐらい前なんですよね」

 「ふ~ん、そうなんだ……。って、ええ~!?一体どういうことなの?」

 吃驚しているアルテナにクロードは、自身の身に起こったことを説明していく。

 「クロード君、本当にごめんなさい」

 アルテナは、クロードに対して深々と頭を下げて謝罪する。

 「三女神の婚姻誓約書は、私が愛していた人と結ばれなかったから、二度とそんなことがないようにって願って作った理だったのに、愛し合う二人を守るための理だったのに、歪んで、でもそれを放置したのは私で、本当に謝って済むことじゃないけど、ごめんなさい」

 アルテナの足元には、アルテナの眼から流れ出したであろう涙が落ち続ける。

 「もう本当に謝らないでください。彼女とリリアと同じ顔で謝られると心に来るものがあるんで……。これでも一応心の決着はつけているつもりなんで大丈夫ですよ」

 本当は、心の決着なんてつけていない。

 未だにグチグチと後悔ばかりしている。

 でも、これはあくまでクロード自身の問題であって、アルテナには一切関係のないことなのだ。

 暫くの間、アルテナはクロードに頭を下げて謝罪し続けていたが、クロードに気にしないで欲しい、リリアに顔や仕草がそっくりだから止めてほしいと言われてしまえば、それ以上謝罪し続けることもできず、途方に暮れてしまう。

 「さて、片付けて行きましょう!アルテナさんは久々にウリエルやルーナさんとの再会でしょう?」

 クロードは雰囲気を変えるためにあえて明るく言う。

 「う、うん」

 アルテナは、まだ落ち込んでいるような様子だったが返事を返してくる。

 二人で、色々な物をアイテムボックスの中に収納して、多重次元断層結界を解除する。

 すると景色がガラリと変わり、草木一つない荒野が視界に広がる。

 その光景にアルテナさんは吃驚しているようだが、僕がどうしてこうなったのか説明すると、一応は納得してくれた。

 「それじゃあ出発しましょう。目的地はここから歩いて一週間ぐらいの大森林外延部なんですけど、アルテナさんぐらいなら僕が抱えて走れるので半日ぐらいで到着しますよ」

 そういって、アルテナさんを抱え上げてお姫様抱っこ状態にすると顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。

 「きゃああ、ちょ、ちょっとまって、なんで?どうして?え?」

 「抱えて走った方が早いので……」

 「き、急に抱え上げられたら、びっくりするじゃない!」

 「ああ、すいません。幼馴染によくせがまれたので……、つい……」

 「ふ~ん、そうなんだ。へぇ~」

 アルテナさんの声が、こ、怖い。

 「と、とりあえず、行きますよ。しっかり掴まっててください」

 そうしてアルテナさんを抱き抱えて、シルフィーやウリエル、ルーナさんの待つ樹海外延部へと走り出す。

 景色が前方から後方に流れていく。

 目の前に現れた障害物を避けるのも簡単なものだ。

 普人種として、ステイタスが上限に到達してしまっている自分にとってはゆったりと流れていく景色でしかない。

 だが、アルテナさんからすると物凄い速度で前方から後方へ景色が流れているようで、最初のうちは悲鳴が漏れていたが、今では目をきつく閉じてクロードの首に力一杯抱き着いている。


 邪竜を倒すために約一日を要した道程を、今の自分は人一人抱き抱えながら半日で戻ってくることができた。

 「アルテナさん、着きましたよ」

 僕が抱き抱えたアルテナさんに顔を向けると……。

 「えっぐ、ぐす、うぇ、こ、こわ、怖かったよぉ」

 僕の胸に顔をうずめるようにしてポロポロと涙を流して泣いていた。

 え? どうして?

 えと。よしよ~し大丈夫だよ~と幼子をあやす様にしてみる。

 だ、駄目でした。

 キッと睨まれたと思ったら、更に泣き出す始末。

 もう駄目です。

 ここはシルフィーやウリエル、ルーナさんに任せよう。

 気を取り直して、シルフィーやウリエル、ルーナさんがいる次元断層多重結界に入ろう。

 うん、それがいい。

 「ただいま」

 「「「お帰りな……、誰?結界に侵入してくるだなんて……。そして女連れ?しかも泣いてる!?貴方、その人に何したの!怒らないから正直に言いなさい!(怒)」」」

 いや、三人ともすでに怒ってるよね。

 しかもそのセリフ、絶対怒られるやつじゃないかな。

 そんなことより、僕がクロードだって判ってないのかな?

 多重断層結界に入れるのは、決められた人だけって設定されてるはずなんだけど。

 思いっきり「誰?」って誰何されたよ。

 「あ、アルテナさん、着きましたよ。ほらウリエルとルーナさん、大切な妹さんでしょ.顔を見せてあげてください」

 抱き抱えていたアルテナさんをそっと地面に立たせる。

 「グスッ、スンスン、ふえ、え、え、ウリエル?ルーナ?本当に?」

 「「アルテナ姉さま!?」」

 「ウソ、本当に?」

 「アルテナ姉さまぁ」

 姉妹三人が抱き合って再会を喜ぶ姿は、本当に助けてよかったと思える。

 しばらくすると、アルテナさんを背後に庇いながら、僕に剣を向けてくる二人、いや三人か。

 シルフィーさん、ウリエル、ルーナさんがそれぞれ武器を構えて僕を威嚇する。

 「アルテナ姉さまを連れてきてくれたことには感謝します。しかし、あなたは誰ですか?」

 「この結界は、クロードさんと決められた人しか入れない特殊な物なんです。それをいとも簡単に侵入してくるなんて、あなたはいったい何者なんですか?」

 ウリエルもルーナさんも僕だとわかってない!?

 噓でしょう?

 シルフィーさんもすごい眼で睨みつけてきてるしどうすれば良いんだ?

 そうだアルテナさんに説明してもらえればいいんじゃないか。

 「あ、アルテナさん、説明してください。僕がクロードだって!」


 困ってる困ってる。

 もう少し困らせてあげようかしら。

 大体、お姫様抱っこして物凄い速度で走られたら、怖いなんてものじゃない。

 私はこのまま死んじゃうんじゃないかと思ったわよ。

 もうちょっと泣いたふりして、クロード君のこと困らせてやろうかしら。

 それにしても基礎レベルが7万を超えて、普人族としてステイタスが上限に到達すれば、人としての魅力も上がろうというものよね。

 クロード君には自覚がないみたいだけど……。

 常に一緒にいればそれ程変化を感じないのだろうけど、ちょっと離れている間に基礎レベル7千超えから7万越えなのだから、魅力が単純に10倍になったようなものだものね。

 「くすくす、ウリエルもルーナもそちらのエルフの人も落ち着いて。彼はクロード君よ」

 「「「はあ!?」」」

 「う、嘘よ、クロード君があんな、あんな……」

 「え、ど、どういうこと?」

 「信じられない」

 「あの鈍くさい、子供ぽかったいじけ虫のクロード君が!?」

 「「「なんであんなに大人っぽくなってるのよ~」」」

 むぅ、なんかひどいこと言われてる気がするんだが、三人の混乱が収まるどころかさらに酷くなっているように感じられる。

 いったい何故に?


※第55話に関して

今は消去されてしまいましたが、日本語が変だという指摘を受けました。

残念ながら、自分ではどこが変なのか判らず戸惑ってしまい、毎日数行ずつ書いていたのが原因なのではと思い、改めて55話を書かせていただきました。

個人的な事情も重なり、投稿が大幅に遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。

なお、旧55話と全面改稿の55話ですが、当分は両方を上げさせてください。

どちらが良いか判断が付かないので……。

次は第56話を書くつもりです。

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