第55話 帰還、そして三人の混乱(改稿第一版)

 「まだまだ自分が未熟だって自覚したんで、種族進化も含めて、しばらく考えさせてください」

 よくよく考えて僕はステイタスをいじることを暫くしないことをにした。

 僕がそう言ったとき、アルテナさんは物凄く残念そうな顔をしていたけど、すぐに気を取り直したのか笑顔でうなずいてくれた。

 「さて、片付けて行きましょうか?アルテナさんは久々にウリエルやルーナさんとの再会でしょう?」

 「うん」

 妹たちと再会できるのが嬉しいのか、先ほどの笑顔が更に輝きを増す。

 二人で、色々な物をアイテムボックスの中に収納して、多重次元断層結界を解除する。

 すると景色がガラリと変わり、草木一つない荒野が視界に広がる。

 その光景にアルテナさんは吃驚しているようだが、僕がどうしてこうなったのか説明すると、一応は納得してくれた。

 「う~ん、これはルーナにしっかりと訓練してもらわないといけないかも。それもみっちりとハードに厳しくね」

 ただ、冷たい小声でアルテナさんがぼやいていたのを聞いて、ちょっと背筋が寒くなったのは内緒だ。

 「それじゃあ行きますよ」

 そういって、アルテナさんを抱え上げようとすると「えっ!?」と吃驚された。

 歩いて移動すると1週間ほどかかる距離を一気に移動しようと僕は考えていたのだが、アルテナさんは歩いて移動するものだとばかり思っていたようだ。

 そのままお姫様抱っこの状態に抱え上げると、アルテナさんは顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。

 「きゃああ、ちょ、ちょっとまって、なんで?どうして?え?」

 「みんながいる場所が、ここから歩いて一週間ぐらいなところにあるんです。だからアルテナさんを抱えて、一気に走ろうかと思いまして。嫌でしたか?」

 「き、急に抱え上げられたら、びっくりするじゃない!」

 「ああ、すいません。幼馴染によくせがまれたので……、つい……」

 「ふ~ん、そうなんだ。へぇ~」

 アルテナさんの声が、こ、怖い。

 「と、とりあえず、行きますよ。しっかり掴まっててください」

 そうしてアルテナさんを抱き抱えて、シルフィーやウリエル、ルーナさんの待つ樹海外延部へと走り出す。

 ただ、抱き抱えられながら走られることに慣れていないアルテナさんの悲鳴が響き渡っていた。


 邪竜を倒すために約一日を要した道程を、今の自分は人一人抱き抱えながら半日で戻ってくることができた。

 「アルテナさん、着きましたよ」

 僕が抱き抱えたアルテナさんに顔を向けると……。

 「えっぐ、ぐす、うぇ、こ、こわ、怖かったよぉ」

 僕の胸に顔をうずめるようにしてポロポロと涙を流して泣いていた。

 え? どうして?

 えと。よしよ~し大丈夫だよ~と幼子をあやす様にしてみる。

 だ、駄目でした。

 キッと睨まれたと思ったら、ウェ~ンと更に泣き出す始末。

 もう駄目です。

 ここはシルフィーやウリエル、ルーナさんに任せよう。

 気を取り直して、シルフィーやウリエル、ルーナさんがいる次元断層多重結界に入ろう。

 うん、それがいい。

 「ただいま」

 「「「お帰りな……、誰?結界に侵入してくるだなんて……。そして女連れ?しかも泣いてる!?貴方、その人に何したの!怒らないから正直に言いなさい!(怒)」」」

 いや、三人ともすでに怒ってるよね。

 しかもそのセリフ、絶対怒られるやつじゃないかな。

 そんなことより、僕がクロードだって判ってないのかな?

 多重断層結界に入れるのは、決められた人だけって設定されてるはずなんだけど。

 思いっきり「誰?」って誰何されたよ。

 「あ、アルテナさん、着きましたよ。ほらウリエルとルーナさん、大切な妹さんでしょ.顔を見せてあげてください」

 抱き抱えていたアルテナさんをそっと地面に立たせる。

 「グスッ、スンスン、ふえ、え、え、ウリエル?ルーナ?本当に?」

 「「アルテナ姉さま!?」」

 「ウソ、本当に?」

 「アルテナ姉さまぁ」

 姉妹三人が抱き合って再会を喜ぶ姿は、本当に助けてよかったと思える。

 しばらくすると、アルテナさんを背後に庇いながら、僕に剣を向けてくる二人、いや三人か。

 シルフィーさん、ウリエル、ルーナさんがそれぞれ武器を構えて僕を威嚇する。

 「アルテナ姉さまを連れてきてくれたことには感謝します。しかし、あなたは誰ですか?」

 「この結界は、クロードさんと決められた人しか入れない特殊な物なんです。それをいとも簡単に侵入してくるなんて、あなたはいったい何者なんですか?」

 ウリエルもルーナさんも僕だとわかってない!?

 噓でしょう?

 シルフィーさんもすごい眼で睨みつけてきてるしどうすれば良いんだ?

 そうだアルテナさんに説明してもらえればいいんじゃないか。

 「あ、アルテナさん、説明してください。僕がクロードだって!」

 「あははは、ウリエルもルーナもそちらのエルフの人も落ち着いて。彼はクロード君よ」

 「「「はあ!?」」」

 「う、嘘よ、クロード君があんな、あんな……」

 「え、ど、どういうこと?」

 「信じられない」

 「あの鈍くさい、子供ぽかったいじけ虫のクロード君が!?」

 「「「なんであんなに大人っぽくなってるのよ~」」」

 むぅ、なんかひどいこと言われてる気がするんだが、三人の混乱が収まるどころかさらに酷くなっているように感じられる。

 いったい何故に?


改稿第一版 ご指摘があった変な言い回しを削除、変更しました。

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