第52話 邪竜対クロード(後編)
すでに邪竜を次元断層結界の中に誘い込むことをクロードは諦めていた。
何故なら、邪竜はクロードが魔法を紡ごうとするたびに妨害を仕掛けてくる。
その巧みさにクロードは舌を巻いていた。
ドゴン
すざまじい音とともに邪竜の尻尾によって地面に叩き落されたクロード。
土埃がひどいが、邪竜の下方に位置が取れた。
これは千載一遇のチャンスだ。
邪竜が滞空する大空に向けて、全力で拳を放つ。
ドォォォォン
衝撃波を伴いながら、邪竜を掠める。
「ああ、くそ。また避けられた」
衝撃波を伴いながら放たれた拳打は、邪竜の右脇腹を掠め、はるか上空に浮いていた雲の一つを霧散させる。
邪竜にとっては致命傷にもなる攻撃力だ。
クロードは邪竜が避けているように思っているが、実際は避けているわけではない。
クロード自体が力に振り回されて、微妙に的を外しているだけだ。
クロードが打ち出した拳打が手元で一度でもズレて打ち出されれば、邪竜に届くまでにそズレは更に大きくなる。
そして一方の邪竜は、クロードの攻撃自体を避け切れていない。
もし正確に自身の中心を狙って撃ち抜かれたら、除けることも叶わず確実に死ぬことがわかっている。
クロードがまだ未熟だからこそ勝負になっている。
いや、勝負になっているように見えているだけだ。
先ほどから、邪竜は回復魔法を使わされて魔力は減る一方であり、邪竜が攻撃してもクロードに全くダメージを与えられていない。
邪竜の右脇腹は、クロードの拳打の衝撃波で無残な傷口を晒している。
だが、邪竜は傷口がクロードに見えないように体を動かし、回復魔法を自分にかけて、無傷を装う。
やっと、やっとなのだ。
偶然手に入れた力で、やっと
やっと子を得ることができると思っていたのに。
こんな矮小な人間風情に、
折角できた子供たちも卵から孵ることなく殺されたのだ。
絶対に許すものか。
絶対に生かしておくものか。
もしかしたら生き残りが他にもいるかもしれないが、私は今まで一匹で生きてきた最後の暗黒竜として次代を残したかった。
ただそれだけなのに!
それさえも許されないというのか!
例え、相手が基礎レベル97500を超えていようとも絶対に殺してやる。
邪竜は改めてクロードを睨みつけ、クロードの足元を狙って攻撃をかける。
「しつこい、そう何度も同じ攻撃をされればいい加減慣れる」
両足に力を込めて、一気に邪竜に飛び掛かろうとする。
が……。
ガッ、ズルッ。
「え!?」
ガン。
クロードの足元の地面がクロードの力に負け砕けたのみならず、クロードの踏ん張りを支えることが出来ずに滑って顔面を地面に打ち付ける。
場が静寂に包まれる。
邪竜にとってもクロードにとっても、この展開は予想外すぎてお互い思考が真っ白になってしまった。
「いってえ」
クロードが起き上がると額が切れて、血が大量に出ている。
額や頭を切ると出血が多いのだが、それにしても少し出血の量が多い。
今まで邪竜との戦闘で受けたどのような傷よりも、自爆したときの傷の方がダメージが大きい。
しかし、まだクロードはそのことに気が付かない。
逆に邪竜にしてみれば、自分が攻撃するよりクロードに自爆してもらった方がダメージが大きいということに自分の自尊心を砕かれるように感じていた。
それでも、邪竜は攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
その後、決め手がないまま時間だけが過ぎていく。
すでに邪竜とクロードが戦い始めて半日が過ぎようとしていた。
樹海は邪竜とクロードの戦いのせいで荒れ地と変り果て、再び緑を取り戻すには数百年の時を必要とするだろう。
そんな中、邪竜とクロードは未だにお互い血まみれで対峙していた。
邪竜は既に魔力も尽きかけており回復魔法も小さな傷をふさぐ程度ものしか使えなくなってる。
一方、クロードは邪竜にダメージを与えてはいるものの、自爆することも多く自らのダメージも無視できないものとなりつつある。
回復魔法を使いたいのだが、使おうとすると邪竜が悉く邪魔をするので、上手く傷を治せていない。
邪竜は、戦いの途中から徹底的にクロードに隙を見せ自爆させる戦術に切り替えていた。
基礎レベルの差を考えれば、邪竜の巧みさを褒めるべき戦い方といえるだろう。
しかしながら、隙を見せ自爆させる回数が増えれば増えるほどクロードの手加減が上手くなってきている。
自爆の回数が目に見えて減ってきているのがその証拠だ。
その分邪竜の負うダメージもより大きいものになりつつある。
魔力が尽きてしまう前に、傷のダメージで体が動かなくなってしまう前に、決着をつける!
邪竜とクロードの意思が合致した瞬間だった。
邪竜はクロードをその牙で喰いちぎろうとして、クロードは魔力を纏わせた拳を邪竜に叩きつけようとして、防御などかなぐり捨てた捨て身の攻撃がぶつかり合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます