第2話 一体彼は何がしたいんだ?(改稿第1版)

 ケインの後を付いて行くと、ダンジョン入り口にたどり着いた。

 ダンジョンの入り口?

 何故?

 まさかとは思うけど、僕はケインにダンジョンの中で殺されるんだろうか?

 ケインはダンジョン入り口横にある受付小屋に入り、受付で話すと僕に向かって声を掛ける。

 「クロード、お前の分のダンジョンへの出入り許可を取ったから、中で話そう」

 ケインはどんどん先に行ってしまう。

 僕にとってケインの後に付いてダンジョンへ行く理由はない。

 このまま領都から出て行こう。

 話と言っても、どうせリリアとのことだ。

 リリアか……。

 僕は今もリリアの事を愛しているのだろうか?

 いや、当の昔に愛しているという感情も好きだという感情も失われてしまったのかもしれない。

 そう、あの日の夜、ケインの部屋で裸で抱き合う二人を見てから。

 毎晩、ケインの部屋を訪れるリリアを見てから。

 毎日クラウンの男達に身体を触られても抵抗しようとしないリリアを見てから。

 何も感じなくなってしまった……。

 14歳まで同じ村で育った幼馴染のリリア。

 12歳で成人の義が行われて、一応大人の仲間入りをする。

 そこでリリアは回復術師というジョブを得て、村の教会の司祭様に教えを乞うことになった。

 僕はというと、ジョブを得ることはなかった……。

 数か月後、ジョブを得ることが出来ず、不貞腐れていた僕にリリアが恥ずかしそうに言ったんだ。

 「ジョブが無くてもいいじゃない。私が一生養ってあげるんだから。クロード愛してるよ」

 それがリリアの本心なのか、誰かに言わされたのか、僕には判断が付かない。

 でも、リリアがそう僕に告白した1週間後には、村にあるアルテナ教の教会で司祭様の立会いのもと三女神の前で婚約を交わした。

 世界で唯一の宗教であるアルテナ教は世界を作ったとされる創成の女神アルテナ様とその従属神であるルーナ様とウリエル様を祭っている。

 その三女神の前で婚約した男女は幸せになれると言われているらしい。

 村の大人たちが、将来結婚するのならそうした方が良いと言うのでそうしたけど、一体どういう意味があるのか、僕達にはわからなかった。

 ただ、村中の人達から「三女神の前で婚約したんだから、絶対に浮気はするなよ」と念を押された

 それから2年後、世界を見て回りたいから冒険者になったというのは嘘だ。

 モンスターの氾濫で村が滅んで、二人で肩を寄せ合って領都にまで何とか辿り付いて、生きていくために冒険者となったのが事実だ。

 その日、僕とリリアは森の奥に群生している薬草を取りに朝から出掛けていた。

 夕方になり、目標数の薬草を採取出来た僕たちは村へ急いで帰ろうとしていた。

 村が見える場所までくると、村の様子が一変していた。

 リリアは、村が、家族が、知り合いが、モンスターに蹂躙され、食い散らかされた遺体を見て、とても正気を保っていられなかった。

 だから僕は自失茫然としている彼女に嘘を付いた。

 村が滅んだなんて悪い夢で、皆に祝福されて出発したんだと何回も言い含めた。

 彼女はその嘘を受け入れてくれた。

 しかし、冒険者としてのイロハも知らない僕たちに、依頼を熟せるだけの力量は無かった。

 それならばとギルドの受付嬢にクラウン《暁》に所属することを薦められ、藁にも縋る想いで二人で入団した。

 あったかな食事とベットは疲れ切った僕達には有り難かった。

 でも、リリアと一緒に居れたのは最初の一月だけだった。

 僕とリリアは段々と離れ離れにされ、それ以降会うことも、顔を合わせることもできなくなった。

 何度もクラウンのサブリーダーにリリアと会わせてくれと懇願したが、叶うことはなく、逆に指示に従わない反抗的な奴だとクラウンメンバーから暴力まで振るわれるようになった。

 それでも、リリアを一人にするわけにはいかないと頑張り続けた。

 それから17ヵ月経ったある日、リリアとギルドへドロップアイテムの納品に行くようにと命じられ、リリアと行くことになったが、もう僕たちの間には言葉を交わすことさえなくなっていた。

 月日は僕たちを恋人から他人へと変えてしまっていた。

 そんなとき、ギルドで出会ったのがはぐれ勇者のケインだった……。

 ケインとの出会いを思い出しながら、リリアの話って何だろうと思う。

 改めて幼馴染の恋人が寝取られた話?寝取った自慢話?を聞かされるなんて、気分が良いもんじゃない。

 とっととこの領都を出て行こう。

 ケインの後を追わず、そのままダンジョン出入り口の前から立ち去ろうとすると何時の間にかダンジョンの出入り口までケインが戻ってきており、立ち去ろうとする僕の右腕をつかんで離さなかった。

 振り払おうにもケインと僕の間にあるレベル差は圧倒的であり、有無を言わさずダンジョンに連れ込まれた。

 「クロード、お前今日までレベル上げしてきたか?」

 「出来るはずないだろ。毎日毎日朝から晩までクラウンの採取依頼やポーターの仕事で時間なんかなかったんだから」

 「じゃあ、今からやるぞ」

 「はぁ?」

 「取り敢えず、地下1階層のモンスターからだ」

 ケインは、僕に有無を言わさずモンスターを狩れと言ってくる。

 今更何を言ってるんだ。

 二年間レベルが上がらないから、ジョブが発現しないから、僕は無能と呼ばれているんじゃないか。

 そうまでして僕に恥をかかせたいのか?

 でも、レベル差が絶対のこの世界で、レベルが高いケインには逆らえない。

 ただ、何も考えずに低レベルモンスターを狩り続けるしかない。

 ケインは所々で支援魔法や回復魔法を掛けてくる。

 しかし、レベルが低いとはいえ、もう五十匹以上狩っているというのに、レベルは上がらない。

 「いいか、クロード。前衛にしても後衛にしても直接モンスターにとどめを刺した奴にしか基礎経験値は入らないんだ」

 「そんなこと知らないよ」

 「やっぱり……。あいつらめ。そしてJobレベルはそのJobに属するスキルを使い続ければスキルレベルと共に上がるんだ。だから毎日毎日何回も何回も反復使用しないといけない」

「リリアと毎晩のように寝てたケインは、何が言いたいのかな?」

 もう何とも思っていないリリアの名前を出し、話を断ち切りケインを睨む。

 「そのことは悪いと思ってる。でも、そうでもしてなきゃリリアはもっと酷いことになってた。お前は知ってたか?リリアが重度の薬物中毒に掛かっていたのを!」

 「それで?」

 僕の冷たい反応を見て、ケインがの言葉が一瞬詰まる。

 「う、お、俺も気が付くのが遅れた。まさかクラウンの奴らがリリアに薬物を使ってるとは思わなかったから……」

 「・・・・・・」

 「毎日朝昼晩の食事に少量づつな。媚薬や催眠剤等で少しづつ暗示や洗脳を仕掛けていたんだよ。しかも、二人がクラウンに入って一年が過ぎたあたりからな」

 「クロードとリリアは幼馴染で許嫁だ。クロードがクラウンに居る限りリリアは絶対にクラウンを辞めない、つまり人質って訳さ。さらにお前のレベルを上げさせなければクラウンのお荷物になる。そうすればリリアはお前を守るために更にクラウンの言いなりにならざるを得ない。ここ4~5ヵ月のリリアの様子が変だったろ。あれは薬と脅迫の影響だ。クラウンはお前を殺されたくなければ、言ううことを聞けとリリアを脅してた。最悪の事態になる前に何とかクラウンの奴らからリリアを引き離そうとしたんだが、ああするより仕方がなかった。あいつ等よりレベルが高い俺がリリアの相手だと知って、今は手出しできなくなってるんだ。こんなことになっちまって、クロードには本当にすまないと思ってる。それはリリアも同じ気持ちだ」

 「そう」

 「リリアを密かに連れ出して、俺の信用のおける女性冒険者達の元に匿ってもらった。それで教会で診察してもらったんだが、教会の解毒魔法でも1回で消しきれないほど厄介な毒なんだ。一体どこから手に入れたんだか……。この領都の教会の最高司祭がいうにはリリアが完全に回復するまでには最低二年は掛かるらしい。リリアは後衛で回復術師だ。だからクラウンやパーティーでは最優先でレベル上げが行われる。リリアの基礎レベルや回復術師のJobレべルが上がれば自分達のクラウンやパーティーに計り知れない恩恵をもたらすからだ。だが、回復術師自体が少ない。だからパーティやクラウンは一人でも多くの回復術師を確保しようと躍起になる。例えそれがギルドの規則に抵触しようと……。」

 「なあ、ケイン。リリアと寝るための言い訳は結構だよ。胸糞悪い。もう一度言うけど、君は何がしたいんだい?」

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