第3話 俺の失敗
「なあ、ケイン。リリアと寝るための言い訳は結構だよ。胸糞悪い。もう一度言うけど、君は何がしたいんだい?」
クロードがそう言うと、雰囲気が一変した。
基礎レベル1の、しかもJobも持たないクロードから放たれる気配が、俺を圧倒する。
俺の基礎レベルは300を超え、ジョブレベルは60に達している。
ジョブは高位Jobである勇者だ。
その俺が圧倒されている?
何故?どうして?疑問が尽きない。
クラウン《暁》の連中は平均的な基礎レベルは100前後、ジョブレベルだって精々40前後だ。
しかも低位Jobの奴らが中心で、中位Job持ちもクラウンサブリーダーのヘイロンの他に5人、高位Job持ちはクラウンリーダーのガハルディン以外いない。
クラウンリーダーのガハルディンとヘイロン以外の中位Job持ち5人は、ギルドからの依頼で長期クエストに出ている。
というより、クラウンリーダーのガハルディンとヘイロン以外の中位Job持ち5人はクラウン運営に興味を示すことは無く、何処まで自分達が強くなれるのか、それにしか興味が無かった。
ここ数年のクラウン《暁》は実質クラウンサブリーダーのヘイロンが取り仕切っていると言ってもよかった。
そして、俺は気が付いた。
いや気が付かされた。
俺は、また失敗したんだと……。
リリアの件といい、クロードの件といい、どうして今回、俺は肝心なところで失敗しているんだろう……。
二人を見ていると、胸にジュクジュクとした痛みを感じる。
取り返しのつかない失敗。
物事の表面だけを知って、裏側を知りもしなかった、いや、知ろうともしなかったガキだった俺。
見捨ててしまったがために、その後に訪れた彼女の無残な死……。
後日、明らかにされた彼女を取り巻いていた事情……。
あの時ああしていれば、こうしていればと悔やむ毎日。
クロードを見ていると昔の自分を見せられているようで、リリアを見ていると今はもういない昔の彼女を見せられているようで、放ってはおけなかったんだ……。
だからと言って、俺がリリアにしたことが許される訳じゃない。
俺がリリアに死んだ昔の彼女の面影を重ねてしまったせいだ。
1年以上に渡り薬物と催眠と洗脳、脅迫、精神と人格にかなりのダメージを受けていたリリアは、あの時見捨ててしまった昔の彼女にそっくりだった。
ただ抱きしめて安心させてやりたかったんだ。
クラウン《暁》に仮入団して、最初に気が付いたのはクラウンでのリリアの立場の危うさだった。
調べれば調べるほど、クラウンサブリーダーのヘイロンは胸糞悪い奴だった。
クラウンサブリーダーのヘイロンは、何人もの女性冒険者をその毒牙にかけて性奴隷に落としていた。
最終的にはリリアもクラウン共有の性奴隷にするつもりだったようだ。
計画は最終段階に入っているように思えた。
薬の量も多くなり、リリアの意識がリリアの意識でなくなりなり始め、常に発情した状態になりつつあったリリアが何時クラウンの男共に襲い掛かられるかわからなかった。
薬のせいでおかしくなりかけていたリリアは、俺に初めて抱かれた夜、抱きしめられた胸の中でごめんなさい、ごめんなさい、クロードと呟き泣きながら話してくれた。
だが、俺の眼を見て話す彼女の眼には、俺ではなくクロードが映ってた。
まるで、俺がクロードであるかのように、いや、リリアにとって俺はクロードそのものだったのだろう……。
俺と出会った半年前のあの日、クロードとリリアがギルドへドロップ品を納品しに来たあの時が、二人が行動を起こす最後のチャンスだったという。
それなのに俺はそのチャンスを潰した……。
クラウンサブリーダーのヘイロンはリリアに言ったそうだ。
「幾ら薬でぼぉっとしてても理解はできるんだろう?クロードを殺されたくなければ、俺達のものになれ。なぁに俺も鬼じゃない。1度だけチャンスをやろう。明日クロードとギルドへドロップアイテムを納品しに行ってこい。帰りにクロードと寝るもよし、奴を逃すもよし、好きにしていいぜ。ただし、監視はしっかり付けさせてもらう。監視の意味は分かってるだろう?」
そして、おれはクロードとリリアにギルドホールで出会った。
知らなかったとはいえ、彼らが行動を起こす機会を奪った。
この出会いはクラウン《暁》に潜入するためにギルド長と俺達によって仕組まれたものだった。
ギルド職員と特定クラウンとの癒着疑惑。
ギルド職員が特定のクラウンに実入りの良い比較的安全な依頼や新人冒険者の斡旋を優先的に行い、金品等を受け取っているという疑惑があり、各町のギルドを統括する広域ギルドからの依頼で、俺とパーティーを組んでくれている五人の仲間達と共にこの領都へと来ていた。
そして、その疑惑を持たれているのがクラウン《暁》とクロードとリリアにクラウン《暁》への入団を薦めた受付嬢だった。
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