第42話 シルフィーの呪いの解き方
「もう、クロードさん、シルフィーさん、私ちゃんと言いましたよね?クロードさんとすると確実に妊娠しますよって。にも拘らず毎晩毎晩、猿ですか?あなた方は!」
クロードとシルフィーを正座させて、叱り付けているウリエル。
その様子をウリエルの後ろから覗き込むように、見ているルーナ。
多重断層結界には今、クロードとシルフィー、ウリエルにルーナの四人がいる。
流石に人数が増えてくると、最初に設営したテント二つでは手狭になり、クロードが町まで行って少し大きめのテントを新たに購入してテントが三つに増えていた。
そのうち一つはクロードが、もう一つはシルフィーが、最後の一つはウリエルとルーナがそれぞれ使っているのだが、毎夜毎夜クロードのテントからシルフィーの嬌声が明け方まで続くとなれば、いくらシルフィーに負い目があるとはいえウリエルでも文句の一つも言いたくなるというものだ。
「「申し訳ありませんでした」」
神妙な態度で土下座する二人であるが、これでもう何回目になるか分からない程土下座が毎日のように繰り返されている。
「まったくもう」
「でも、毎晩したくなるほど、彼の、そんなに凄いの?」
「ルーナお姉様!?」
「い、いや、ほら、私、邪竜の呪いに掛かってるから、毎晩し、しないと大変だから……」
「え?でも、最初の頃はしかたがないけど、この厳重な多重断層結界の中で邪竜の呪いの進行は微々たるもののはず。発情もしてないよね?」
「「え!?」」
クロードとウリエルが驚いた声を上げる。
「ルーナ姉様、わかるの?」
「うん、毎晩覗いてたから、わかる」
「あ、あの純情だったルーナお姉様がぁ~。毎晩クロードさんとシルフィーさんのあんな淫らで愛欲ドロドロに満ちた交わりを覗いていたなんて……」
「ウリエルも覗いてた……」
「お姉様!?それは言ってはいけないわ」
クロードは思わず敬語でシルフィーに問う。
「フ、フィー、ルーナさんはああ言ってますけど本当ですか?」
「え、え~と……、だってルーナさんやウリエルって綺麗だし、可愛いからクロード君を、と、とら……なか……だもん」
ボソボソとしゃべると全身を真っ赤に染めて、三人から顔を逸らすシルフィー。
でも、僕たち三人には聞こえていた。
ほんとスキルって偉大だ。
『とられたくなかった』
思わず僕は顔がにやけてしまう。
シルフィーは顔を背けているために気が付かないが、ウリエルもルーナも唖然としていたが次第に顔がにやけてくる。
暫らくは三人で、シルフィーを揶揄って楽しんでいた。
それから四人で状況を確認して分かったことだが、洗脳状態にあったウリエルに襲われた時のシルフィーは、発狂寸前まで発情していたし邪竜化の一歩手前だったのは間違いのない事実だった。
それは僕自身も確認している。
多重断層結界にウリエルとシルフィーを取り込んだ後は……色々あったから、
ルーナさんに言われるまで確認してなかった。
「でも、こうなると『邪竜の呪い』の大本って邪竜本体からの魔力供給で成り立ってるってことですか?」
「うん、そういうこと。シルフィーさんの身体の何処かに邪竜の魔力を受信する何かが埋め込まれてる筈。シルフィーさん、思い当たること無い?」
「でもルーナお姉様、そうなると状態異常に表示されません?例えば『邪竜の〇〇が埋め込まれている』とか」
「確証はないけど、『邪竜の呪い』という呪いの核ともいうべき魔力の塊自体が埋め込まれているのだとしたら、表示はされないと思う」
「はあ?それってもしかして、魔力を幾重にも錬って圧縮してを繰り返して術式を組み込んでいく魔力呪術方式ってやつ?」
「ウリエル、よく勉強してる。えらい。その通りだよ。シルフィーさんが話してくれた『邪竜の呪い』は生きていても、死んでも邪竜化すること。邪竜化を抑えるには男に抱かれて子宮に男の精を受けること。この設定自体がおかしい。本来呪いというのは相手を殺すことが目的の筈」
「邪竜化するということは、人の、この場合はエルフ種族の身体を龍種へと作り替えることを意味する。肉体を作り替えるという行為は物凄い量の魔力を使う。そして死んでも邪竜化するということは実際に肉体が死ぬことではなくて、この場合精神が死ぬと考えた方が辻褄が合う。さらに邪竜化を抑えるためにエルフ種族以外の雄と交わらせるということは、一見何でもない我慢できる行為のように思えるけど、異種族と交わることに対する忌避感を下げる効果がある。最終的に雄であれば竜種とも交われるという事。まあ、サイズが違うから実際に龍種と交わると死ぬ」
「つまり、邪竜は番を求めていると?」
「そう。竜は滅多に番を作れない。数が少ないうえにお互いにプライドが高いし、強さこそが一番だから。だから人から邪竜にしてしまえば良いと考えたのかもしれない。そうなると人としての、エルフ種族としての精神や倫理観、常識は必要ないし、邪魔になる。邪竜の雌として雄を受け入れることが出来ればいい。でも本来邪竜にこれほどの知能はない筈、明らかにおかしい、何かあるかも」
ルーナが話している間、シルフィーは顎に右手を添えて何かを考えているようだった。
そして、呪いを受けた当時のことを語りだす。
「あの時は全身傷だらけで意識が朦朧としてたけど、確かにあの邪竜は私に黒い球体のようなものを押し付けてきた。それで、その黒い球が身体の中に入り込むと途端に体の傷が綺麗に治ったのよ。だから、私は邪竜から逃げ出せた」
それを聞いたルーナとウリエルは、少し顔を歪める。
「ねえ、ルーナ姉様、これって……」
「うん、かなり最悪だと思う」
「どういうことなんだ?」
「シルフィーさんの呪いを解くのはかなりの困難が伴う」
「まず、シルフィーさんが呪いを受けた時のことを教えてくれたおかげで、シルフィーさんの呪いが魔力呪術方式の呪いだってほぼ確定した。しかも邪竜から魔力供給を受けるタイプ。私とウリエルがおじい様と繋がっているのも多分だけど魔力呪術方式の亜種だと思う。シルフィーさんのは相手に魔力を送り込むもので、私達のは相手の魔力や力を奪うものという違いがあるだけ」
「このタイプの呪いを解くためにやることは二つ。先ず呪いを掛けた邪竜を倒すこと。この場合シルフィーさんはこの多重断層結界を出ては駄目。もし出てしまってら呪いのレベルに寄らず邪竜からの魔力が一気に流れ込んで邪竜化する可能性がある。だから、今回クロード君一人で邪竜の相手をしなくちゃダメ。運良く邪竜を倒せたら今度はシルフィーさんの身体の中に埋め込まれた呪いの核を取りださないとならない。魔力呪術方式の呪いの場合、呪いの核があることが多いのは心臓。シルフィーさんの呪いの核が何処にあるかはきちんと調べる必要がある。もしシルフィーさんの呪いの核が心臓にあったなら、シルフィーさんを生かしたまま心臓を抉り取らないといけない」
「ちょ、ちょっと待っいてくれ。そんなことしたらフィーが死んでしまうだろ!?」
「だから、さっき私は言った。呪いを解くのはかなりの困難が伴うって。邪竜を倒しただけでは駄目。呪いの核が残り続けていてはシルフィーさんの呪いは解けない。最悪なのは呪いの核のせいでシルフィーさんがゆっくりと邪竜化してしまう事。そうなったらシルフィーさんの精神も肉体ももたない。それほどこの『邪竜の呪い』は厄介極まりない」
淡々と説明するルーナに対して、困惑するクロードが途方に暮れる。
「一体どうしたら良いんだよ」
「クロード君なら出来る。シルフィーさんを生かしたまま、心臓を抉り取ったあと、すぐに最上級回復魔法を唱えて心臓を再生すればいい。人は心臓を抉り取られても数分は生きていられる。ただ出血が多くなるとすぐにショック死する。だからチャンスはほんの一瞬の一度きり」
「う~ん、僕に本当にできるのかな?」
「できるよ」
クロードの自信なさげな発言に、ルーナは確信を持っているかのようにはっきりと言い切る。
そして、ルーナはシルフィーに顔を向けて告げる。
「あとはシルフィーさんの覚悟と、どれだけクロードさんを信用できるかだよ?」
その目は優しさに満ち溢れたものだ。
その様子を見ていたクロードは気が付いた。
もしかして、この方法ってルーナさんやウリエルを創造神から解放できるんじゃないか?と。
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