第40話 神殺し候補

 死んだダンジョン最下層ボス部屋は見るも無残な廃墟と化していた。

 領主、神官長、広域冒険者ギルド長は、そんな廃墟となったボス部屋の瓦礫の中で横たわっていた。

 三人は先程までの戦いとも呼べない戦いに思いを馳せていた。

 勇者ケインを怨念と復讐心に満ちた亡霊達の中に叩き込み、世界に害悪しかもたらさない勇者を生み出した女神の一人従属神ルーナに挑んだ。

 創世の女神アルテナの眷属である従属神ルーナが現れた瞬間を狙い、自分達が持つ最強の剣技を解き放った。

 最初のうちは、明らかに自分達が優勢だと思った。

 従属神ルーナからは、一向に反撃が返ってこなかったからだ。

 だがそれは、自分達の驕りだと気が付かされる。

 ボス部屋の隅にまで従属神ルーナを追い詰めたかに見えたそれは、彼女にとってみれば防御を一定方向に絞ることが出来ることに他ならなかった。

 「この程度ですか?私に傷を負わせたことは称賛に値しますが、『神殺し』には程遠いと言わざるを得ません」

 そして、従属神ルーナが繰り出した剣技がボス部屋と通路で麻痺した勇者の女達を巻き込んで炸裂した。

 一瞬何が起きたのか、わからなかった。

 それまで優勢だと信じていたものが、一瞬で崩壊したのだ。

 辛うじて防御することはできたが、そこまでだった。

 すでに立ち上がることも出来ず、ただ瓦礫の中に倒れ伏すだけ。

 もう一撃喰らえば、三人ともこの世から跡形もなく消えるだろう。

 勇者の女達は、従属神ルーナの最初の一撃で吹き飛んでしまった。

 従属神ルーナが剣を振り上げ、領主、神官長、広域冒険者ギルド長が死を覚悟した時、異変が起こった。

 突然、従属神ルーナが動きを止め、中空を睨み付ける。

 「ウリエルの反応が消えた!?そんなまさか?」

 従属神ルーナが領主、神官長、広域冒険者ギルド長を見遣る。

 「運が良い。それもまた『神殺し』に至る資質。神に傷をつけた褒美は与えねばなりません」

 従属神ルーナが左手の掌に三つの光球を生み出すと、領主、神官長、広域冒険者ギルド長に向かって放った。

 光球は三人の身体に吸い込まれると、程無く光を放って消えた。

 光が消えて、ようやく視界が戻ってくると、そこには従属神ルーナの姿はなく、領主、神官長、広域冒険者ギルド長の三人だけが薄暗いボス部屋に残されていた。


 「おい、生きてるか?」

 「ああ、何とかな」

 「しかし、あれが神というものなのか……」

 「しかし、傷は付けられたな」

 「その後がこれでは話にもならないがな」

 「歳には勝てないか……」

 「果たして歳だけのせい……、おい、何だかお前たち若くなってないか?」

 「はぁ?」

 「そんなはずない、だ、ろ……、本当だ!?」

 「と、とりあえずステイタスを確認してみよう」

 「「「ステイタス表示」」」

 「「「はぁ~!?」」」

 三人は驚きの声を上げる。

 三人のステイタス表示には殆ど変化がなかった、ただ本来なら有り得ない表示がされていた。

 それは……。

 年齢20歳。

 そして称号には、『神殺し』候補と表示されていた。

 「お、おい、28歳も若返ったら折角生き残っても家族の元に戻れんだろうが……、どうしてくれるんだよ、クソ女神め!」

 「ああ、あいつ愛妻家だったし、子煩悩だったからな……、こうなったらもう一度夫人を口説き落とすしかないだろう?でも、子供との年齢が逆転してるし……、ぷっ、あははははは」

 「笑うな!」

 「儂は独身だから、もう一回チャンスをもらえたんだから大歓迎じゃがな」

 「しかし、従属神ルーナに傷を付けて、褒美が若返りか?」

 「まあ、48歳で『神殺し』の候補ではお粗末すぎるってことだろう」

 「もう一度若返って鍛え直せってことか?」

 「そういえば、気になることを女神ルーナが言っていたな」

 「ああ、『ウリエルの反応が消えた』って言ってたぞ」

 「ウリエルは、三女神の末妹だったはず」

 「『神殺し』が生まれたのか?」

 「それはわからんが、気になるな」

 「いったん領都に戻って、もう一度情報収集した方が良いかもしれん」

 「しかし、三人とも若返った姿で戻って来たら、びっくりするだろうな……」

 若返った姿で領都に戻ったら一体どんな騒動が起きるのか、三人は想像しただけでグッタリと疲れた表情を見せながら、ダンジョンを後にする。

 領都にて待ち受ける嵐を知る由もなく……。

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