第45話 何故だか最近、とっても忙しいんですけど……。
クロードとシルフィーさんから手紙が来なくなって、半年が過ぎようとしている。
私にしてみれば、ぷっつりと音信不通になったため心配でしょうがないが、禊の最中であるため領都教会から出ることはできない。
そういえば、シルフィーさんがクロードの子供を妊娠したって最後の手紙には書いてあったけど、時期的にはもうすぐ臨月の筈だよね。
手紙が来なくなったってことは、やっぱりそういうことなのかな。
そんなことを考えていたからだろうか、前を向いていた顔が徐々に下に向き、ついには俯いてしまう。
もしそうなら、私は本当に独りぼっちになっちゃう。
ねえ、クロード、どうしたら私は君の隣に居られるのかな……。
涙が滲んで周りがぼやけて良く見えなくなる。
すると、どこからかシスターの呼ぶ声が聞こえてくる。
「リリアさ~ん、こっち手伝ってもらえる~?」
「あっ、は~い」
今は俯いて泣いてる場合じゃないと気合を入れ直さなと。
笑顔でいないと皆に心配させちゃうもんね。
「それが終わったら、こっちもおねが~い」
「は、は~い」
あ、あれ、何だかいつも以上に忙しくない?
「はい、リリアちゃん、休んで休んで」
「は、はい?」
でも、今日も今日とて忙しい毎日が気を紛らわせてくれる。
「リリアお姉ちゃん、御本読んで」
「リリア姉ちゃん、鬼ごっこしよ」
「はいはい、順番だよ~」
領都教会に於いて、今やリリアは人気者だ。
顔に大きな裂傷の痕があるにも拘らず、それを気にすることなくいつも笑顔を振りまくリリアの姿は、領都教会を訪れる信者達にとっては微笑ましい光景であり、応援したくなるものでもあった。
三女神の神罰を受けた当初はリリアに対して男に対してだらしなく、ふしだらな少女と思っていた信者たちが多かった。
信者の中には、領都教会から出ていけや女性の恥さらし、野垂れ死ねなどの罵詈雑言をぶつけ、更にはリリアに石を投げつけぶつける者たちさえいた。
それは当然だろう。
三女神の婚姻誓約書を交わしておきながら、ほかの男性と浮気をしたからこその『罰』であり『禊』であったはず。
婚姻誓約書を交わした男性からその浮気を許されたにも拘らず、その期間中に男とふしだらな関係になったから、三女神の神罰が下り全身に二度と消えることのない裂傷を負うことになったのだから。
死ななかったのは、偏にシスターたちのお陰に他ならないと。
それが一般の信者たちの思いだった。
だが、後にリリアの身に何が起きたのかが知られるに従って、リリアに対する悪感情は好転していった。
それほどまでに、領都の冒険者ギルドとクラウン≪暁≫の癒着と暴力、そして勇者の悪行が人々には衝撃的過ぎた。
勿論リリアの名誉のため肝心な部分は暈かされていても、同情を買うには十分すぎるものだった。
それだけではなく、リリア自身が何とか立ち直ろうと見せる頑張りと努力が人々の心を動かしたと言ってよかった。
まあ、その裏ではリリアの印象を少しでも良くしようとシスター長ネムリナを始めとした若いシスターたちの努力があったのはリリアに秘密だ。
印象が好転してくると、性格もよく元々明るく人当たりの良かったリリアは、その美貌もあり、あっという間に領都の人気者になっていた。
ただ本人に自覚がないのか、男性に辛い目にあわされたのにも拘らず男性との距離感が近すぎて、また神罰が下るんじゃないかと周りを冷や冷やさせてもいる。
当初、領都の女性たちは、自分たちが好意を寄せている男性がリリアに取られるんじゃないかと疑い、シスターたちは再び神罰が下るようなことにならないようにと周りに目を光らせていたが、今では彼女たちが一番リリアに魅了され、男性をリリアに近づけさせないようにガッチリと守っている。
その様子は、アルテナ教会総本山から派遣されてきたリリアを警護するための女性聖騎士達が思わず苦笑してしまうほどの徹底ぶりだった。
リリア自身は同性のお友達が沢山できたと喜び、そのことに全く気が付いていなかったのだが、それの様子が更に人気に拍車を掛けることになる。
そんなある日の事、何時ものように領都教会での仕事を熟していると、シスター長に声を掛けられた。
「リリアさん、貴方にお客様よ」
「は~い。シスター長、どなたがいらっしゃっているんですか?」
「それがね、エルトラン魔法王国のミリラリアさんっていう方が、どうしてもお話を聞きたいって」
「私にですか?」
「そうなのよ。リリアさんにとっては辛い話の内容になるかもしれないわ。だから、私も同席させてもらうわ」
「お願いします」
「まかせなさい」
シスター長とリリアが来客用応接間の扉をノックする。
「はい」
中から返事が聞こえたので、入室する。
ソファーには女性二人が座り、その後ろには鎧を着た三人の男性が立っている。
最初は護衛か何かだと思っていたシスター長のネムリナは、三人の仲の一人の顔に見覚えがあった。
それにしても若い。
二十歳前後の男性だ。
ネムリナが憶えている人は、こんなに若くない。
だが、見間違えるわけがなかった。
ふと、ネムリナの口から見覚えのある男性の名前が漏れた。
「司祭長様?」
「今は前が付くがね」
前司祭長は苦笑しながら、ネムリナにいう。
「良く、ご無事に……、それにしては随分とお若く見えますが?」
「若く見えるんじゃなくて、若くさせされたんだ、従属神ルーナによってね」
「はぁ!?」
シスター長とリリアが驚愕の事実に驚いていると、ソファーに座る女性が立ち上がり話し始める。
「初めまして、シスター長ネムリナ、そしてリリアさん。私はエルトラン魔法王国宰相閣下から命を受けてやってきたミリラリアと申します。冒険者ギルドとクラウン《暁》の癒着から始まり、ダンジョン崩壊からリリアさんが教会の保護対象になった経緯を調査しています。ご協力いただけますでしょうか?」
ミリラリアは、しっかりとリリアの眼を見ながらそう言い放った。
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